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股を拡げて、奥まで晒して






















【第5話】


        
        シュル、シュル……ススス……

        「はあぁ……恥ずかしい……」

        お母さんが生地から選んでくれて手縫いで作ってくれたワンピースを、
        わたしは足元に脱ぎ落していた。
        両手が残された下着だけでも隠そうと、胸と股間に向かいかける。

        「遥香、ブラジャーとパンティーもお脱ぎ」

        その手の勢いを、お義母さんの一言が封じた。
        わたしは首を項垂れたまま、ここが脱衣場だと自分自身に暗示を掛ける
        と、思い切ってブラジャーを外した。
        最近になって急に膨らんできたおっぱいを晒したまま、両手を腰に宛が
        う。
        同性とは思えないほどギラギラしたお義母さんの視線を気にしながら、
        最後の1枚を引き降ろしていく。

        お尻を突き出すのは恥ずかしい。
        だけど、腰を90度に折り曲げたわたしは、クルクルと丸まっていくシ
        ョーツを滑らせるようにしてツマ先から抜き取った。
        そして、もう一度ここが脱衣場だって遥香の女の子に語り掛けてから、
        指先で摘まんだままのショーツを床に落とした。
        むず痒そうに宙を漂う両腕を叱りつけて、腰の横に添わせた。
        おっぱいも股間も、あの人の前で晒したまま。

        「ふ~ん、17って聞いてたけど、いい身体をしてるねぇ。これで男を
        知らないとしたら……ふふふっ。ほら、股を開きな」

        「いや、これ以上は許してください」

        「ダメだよ。あたしはお前の母親なんだよ。娘の身体に傷がないか調べ
        るのは、親としての義務みたいなもんだ。さっさとしゃがんでオマ○コ
        を開帳しな」

        アナタなんて、遥香のお母さんじゃない。
        遥香のお母さんだったら、こんなひどいことを言ったりしない。

        「お姉ちゃん……僕……」

        孝太が悔しそうに声を詰まらせた。
        足をよろめかしながらも一人で立ち上がると、唇を真一文字に結んまま
        声のするわたしの方へ顔を向けている。
        でも近寄ろうとはしない。
        目の見えない自分が意味もなく動いても足手まといになるだけ。そう自
        覚してるんだ。

        「さあ、オマ○コを見せな。言っておくけどアタシは気が短いんだよ」

        これが最後だっていうように、お義母さんは花瓶から造花を引き抜くと
        花弁を毟り取っていく。
        そして、針金の軸だけになったモノを花瓶に挿し直した。

        「……んんっ」

        わたしは冷たい床の上にお尻をひっつけていた。
        孝太に気付かれないようにそっと両足を伸ばして、深呼吸を繰り返して
        みる。
        でもリラックスなんて出来そうにない。
        口から吐き出した空気の音より、もっと下にある心臓の音の方がリアル
        なんだもん。

        「はあぁ……」

        伸ばしていた両足をVの字に拡げていく。
        思い出したくもないのに、弥生さんの傷ついたお尻が浮かんで、それが
        わたしのお尻に重なって、孝太のお尻と一緒になって。

        「くうっ! あはあぁぁぁ……」

        汗ばんだ内腿に冷気を感じながら、V字だった両足をヒザを折り曲げて
        M字に変身させる。
        わたしは左右に開いたヒザ頭に手を乗せて、限界にまで拡げた。
        お義母さんと呼ばれる人を、下から睨みあげて。

        「やれやれ、オマ○コを見せるくらいで勿体つけるんじゃないよ。ほら、
        それじゃ中が見えないだろ。指でマン肉を拡げるんだよ。左右にぱっく
        りとね」

        死ぬ思いで足を開いたのに、まだ許してくれないなんて。
        ここは大切な人にしか見せてはいけない処なのに。
        でも、この人はそれを全部見せろって。
        母親だから、娘の身体を点検する権利があるって。

        「あ、あぁ……見ないで……お願い……」

        両手が勝手に動いていた。
        ヒザ頭から滑るように下りていくと、柔らかいお肉を指先が感じた。
        デリケートで敏感な女の子の割れ目に指を突っ込むと、左右に引いた。
        紅い粘膜がちゃんと覗けるように、割れ目が菱形になるくらい引っ張っ
        た。

        「どれどれ……どうやら男を知らないってのは、嘘じゃないみたいだね。
        男のチ○ポを咥え込んでたら、もう少し黒ずんでいるからね」

        お義母さんは、わたしの前にしゃがみ込んでいる。
        両手の指で拡げさせられたアソコに、鼻先がひっつくほど顔を近付けて
        覗き見ている。

        「お、お義母さん……もう、いいですか? 恥ずかしい……」

        見られるのが、こんなに辛いなんて。
        自分の意思で股を開いて、自分の指で割れ目を拡げるのが、こんなに惨
        めで恥ずかしいなんて。

        わたしはお義母さんをとっても憎んでいるのに、負け犬みたいに顔を背
        けていた。
        羞恥心いっぱいの恥辱が早く終わって欲しくて、そればかりを神様にお
        祈りしていた。

        「はははっ、これは相当な掘り出し物のようだね。使い用によっては次
        の交渉が……今から愉しみだねぇ」

        だからわたしは、お義母さんが堂々と呟いたのに気付いていなかった。
        遥香の大切なモノが消滅するカウントダウンが始まったのに、この時は
        まだ……








壊されていく思い出






















【第6話】


        
        お義母さんから解放されたのは、それから1時間経ってからだった。
        その後わたしと孝太は、迎えにきた弥生さんに連れられて食堂へと向か
        った。

        お義父さんやお兄さんが同席する夕食時だからかな?
        前を歩いている弥生さんも、全裸のままエプロンというわけにはいかな
        いらしい。
        可愛いフリルがあしらわれた白いエプロンに、濃紺のメイド服を着用し
        ている。

        でも、当然というか。スカートの丈はとっても短かった。
        たいして屈まなくても太股の付け根どころか、生傷の痕が残っているお
        尻のお肉までもが、簡単に覗けてしまっているから。

        「お姉ちゃん、震えてるの?」

        「う、うん……でも、孝ちゃんが傍にいるから平気だよ」

        わたしは小声で話し掛けてきた孝太に、耳元に顔を寄せて囁くように答
        えてあげた。
        繋いだ手も、指を伸ばして握ってあげた。

        「そうなの。だったら、僕も頑張らないとね。男なんだし」

        「うふふ、今夜の孝ちゃんって頼もしいな。それだったら、お姉ちゃん
        も頑張らなくっちゃね」

        ほんのちょっぴりだけど、孝太の顔が綻んでいる。
        久しぶりだな。こんな表情を見せるのって。
        きっと緊張して怖いはずなのに、わたしを元気づけようとして。

        『可愛らしいワンピースだね。これって死んだお母さんのお手製ってや
        つかい? でもこの服は、ちょっと丈が長すぎじゃないかねぇ。お義母
        さんが、歩きやすいようにカットしてあげようじゃないか』

        脱衣場でお義母さんに身体中を観察された。
        おっぱいもアソコも、お尻の穴まで全部。
        ついでに記念撮影だと言って、写真もたくさん撮られちゃった。
        おっぱいだって、アソコだって、お尻の穴まで全部。

        そして、弥生さんを呼びつけてハサミを持って来させると、遥香にだけ
        聞こえるように話し掛けてきたの。
        ネットリした鳥肌の立ちそうな声で。

        わたしは裸のままで、お義母さんにすがり付いていた。
        お母さんが残してくれた想い出の品を守ろうとして。
        でも声は上げられない。
        隣には何も知ることができない孝太がいるから。

        ジョキ、ジョキ、ジョキ……ジョキン……

        洋バサミなんて使ってなさそうな雑な手捌きで、遥香のワンピースが切
        断される。
        お母さんが遥香のために作ってくれた花柄のワンピースを、お義母さん
        が面白半分に壊していく。

        コツ、コツ、コツ、コツ……

        闇が忍びこんで支配していそうな廊下で、わたしは嫌なモノを思い出し
        ていた。
        お義母さんが話した通り歩きやすくなったのかな?
        ヒザ小僧どころか太股にまで、スースーした風を感じる下半身にそっと
        目を落としてみる。
        股の付け根の処まで切り上げられて、キザギザに裂かれたワンピースを
        見つめた。
        その下からチラチラと覗いている、縦線の亀裂と淡い翳りまで。

        『ごめんねぇ、遥香。お義母さん、ちょっと手元が狂っちゃったみたい。
        ハサミなんて持つの久しぶりだったから』
        お義母さんが含み笑いをしながら、わたしの脱いだブラとパンツまでチ
        ョキン、チョキンって切り刻む光景も、ついでのように思い出していた。



        「遥香様と孝太様は、こちらの席にお座り下さい」

        食堂の入り口で立ち止まり掛けたわたしを、弥生さんが促した。
        暗闇に慣れ掛けた両目が明るい照明に驚くなかで、わたしは唾を呑み込
        んで、弥生さんが後ろに引いた椅子を見つめた。

        既に席に着いている3人の視線が、わたしと孝太に集中している。
        それを露出した肌で感じて、心臓を激しく高鳴らせて、
        わたしは孝太の手を持ったまま駆けるような勢いで席に向かった。

        「遥香、それに孝太。市川家へようこそ。まずは乾杯といこうじゃない
        か」

        遥香のおじさんを改め、お義父さんになった人が、向かい合わせに座る
        わたしに声を掛けた。
        市川重吉……
        年令はお義母さんよりちょっと年上かな。
        若造りに熱心なお義母さんと違って、髪の毛に白いモノが混じっている
        小太りな人。
        だけどわたしを見つめるその瞳は、初老とは思えないほど欲望をギラつ
        かせて脂ぎったモノを感じる。
        例えるなら、獲物を押さえ込んで牙を剥き出しにした肉食獣みたいに。

        「失礼します」

        そんな重苦しい食堂の雰囲気とは場違いな爽やかな声が聞こえて、空の
        まま置かれたワイングラスがオレンジ色の液体で満たされる。
        わたし、孝太の順で、ジュースを注いでくれているのは、弥生さんと面
        影が似ている愛らしい女の子だった。

        「ありがとう」

        「……いえ」

        わたしと同年齢に見える彼女に、思わずお礼を口にする。
        その女の子の視線が、遥香の惨めな下半身をチラ見して、太股を閉じ合
        わせたまま。
        そして、わたしのチラ見視線も気になったのかな。
        弥生さんと一緒。超ミニスカートのメイド服を纏った女の子は、顔を赤
        らめたまま太股を捩り合わせていた。
        遥香とお互い様って感じで。

        「弥生、ぼ、僕も……ワインより……ジュースがいいかな」

        それぞれのグラスに飲み物が注がれたその時だった。
        お義父さん、お義母さんに挟まれるように座っていた若い男の人が弥生
        さんを呼んだ。
        前髪をスダレのように顔の前に垂らしたその人は、オドオドした自信の
        なさそうな声をあげた。

        たぶんこの男の人が、和志さん。
        わたしと孝太のお兄さんになる人。

        「おい、和志。お前も一人前の大人なんだ。そろそろ酒の味を覚えんか」

        「いいじゃないですか、あなた。和志の身体はアルコールを受け付けな
        いのよね。ほら、何やってんだい、弥生! さっさとジュースを注ぐん
        だよ!」

        お義父さんのたしなめる声。
        お義母さんの甘い猫撫で声と、ヒステリックな叫び声。

        これが、新しい遥香の家族なの?!
        この得体の知れない怖ろしい人達と、わたしは孝太と一緒に……?!








養女のたしなみ? 切り裂かれた衣装






















【第7話】


        
        「寝付けないの? 孝ちゃん」

        「うん……お姉ちゃんも?」

        「そうかも。今日は色んなことが有りすぎたから……」

        わたしは曖昧に言葉を濁すと、真黒な天井を見上げていた。
        目を閉じて映る闇よりももっと暗い、吸い込まれそうな空間をじっと見
        つめていた。

        1段高いベッドの上では、孝太がわたしの布団に包まっている。
        わたしはというと、孝太の部屋から持ち出した布団を床に敷いて、その
        上に寝そべっていた。
        掛け布団をグルグル巻きにして。
        薄い布一枚に覆われた肌をゴワゴワした布地に押し付けて。

        たぶん、孝ちゃんは知らないと思う。
        わたしがどんな姿で、あなたと会話してるかなんて。
        ううん、遥香がどんな格好で布団に包まっていたって、孝ちゃんは気に
        してはいけないから。
        たとえわたしが、スケスケのネグリジェ1枚で孝ちゃんの傍にいたって。
        ブラもパンツも全部取り上げられて、おっぱいもアソコもお尻を晒した
        まま、仰向けに寝ていたって。布団を一枚挟んだだけで。



        ほとんど喉を通らなかった食事を終えて部屋に戻ったわたしは、旅行カ
        バンのファスナーが開けられていることに気付いた。
        そしてベッドの上には、変わり果てた姿にされた着替えが丁寧に畳まれ
        て並んでいた。

        ジーンズは、お尻のお肉まで覗けそうなホットパンツに。
        ヒザ丈だったスカートは、弥生さんの着ていたメイド服みたいに超ミニ
        スカートに。
        ブラウスもTシャツも袖を切断されて、肩口まで露出するように。
        でもそれ以上にショックだったのは、胸の膨らみを狙うようにして開け
        られた二つの丸い穴。
        これじゃ、遥香のおっぱいが見えちゃう。もちろん、乳首だって。

        いったい誰がこんなことを……?!
        そんなことは、考えなくたって分かっている。
        お義母さんに決まっている。

        あの時、脱衣場で弥生さんに……
        『弥生、お前は下がっていいよ。ああ、そうだ、後の段取りは分かって
        いるね?』って。

        ポーカーフェイスだった弥生さんの瞳が、哀しそうにわたしを見たのが
        気にはなっていた。
        でも、それがこんなことだったなんて……

        わたしは茫然としたまま、刻まれたワンピースの上からスカートを腰に
        当てた。
        お義母さんのハサミ使いより滑らかに切断された裾を指で撫でて、その
        指の背中が恥ずかしい割れ目の先端にも触れて。
        ホットパンツにされたジーンズも押し当てた。
        Tシャツもブラウスも……

        「う、ううぅぅっっ……グス、グスン、グスン……」

        我慢してたのに、涙が零れてきた。
        抵抗なんて出来ないのにメチャクチャにされた遥香の洋服を見てたら、
        鼻の奥がツンと痛くて、我慢してたのに喉の奥で声帯が震えた。

        でも大丈夫よ、遥香。ここには孝ちゃんはいないから。
        あの子はひとりだけで、廊下を挟んだ向かいの部屋にいるから。
        それに男の子の孝太の着替えはいじられていない。
        それだけが救いだから。



        いつのまにか、ベッドの上からは安らかな寝息が聞こえてきた。
        時々ベッドを軋ませながら、それでもリズム良く繰り返される呼吸の音
        に、胸のつっかえ棒がひとつ外れる気がした。

        だけどわたしは眠れない。
        目を瞑るのが怖かった。
        とっても疲れているはずなのに。今日一日で遥香の女の子がボロボロに
        されたから。
        まぶたを閉じれば、思い出したくもない光景がいくつも蘇ってくるから。
        今まで見てきた怖ろしい悪夢よりも残酷な現実を、平気で実現させる人
        達が顔をニヤ付かせながら近寄ってくるの。

        「どうなっちゃうの? これから……」

        わたしは真っ暗な闇に訊いた。
        そうしたら遥香の両耳が、シンと静まり返った部屋の空気を伝えた。
        これが今の答えだって。
        そして未来を予測するヒントを与えるように、遥香の鼓膜が微かな声を
        拾った。
        次第に大きく自己主張するように、耳元にまで届けにくる。

        「んんあぁぁっ……ああっ、きもちいいですっ! おじ様の……硬くて
        太くて、さぁ、皐月は、はあぁぁぁぁっっ……」
        「くぅぅぅっ、むぅぅぅっ……弥生ぃ、感じちゃうぅっ! お客様ぁ……
        バイブでぇ……突いてぇ……もっとぉ、ふあぁっ……」

        弥生さんと、皐月さん……だよね?
        鼻に掛った声で、上ずった声で……何をしてるの? エッチなことだよ
        ね? 

        孝太が寝付いた頃から、その声は届いていた。
        だけど、今までずっと聞こえてたのに聞こえないフリをしていた。
        だってこれ以上受け入れたら、遥香の頭が破裂しそうだったから。
        現実逃避もありかなって。

        きっと弥生さんと皐月さんは、セックスとかエッチなことをさせられて
        るんだ。
        その声を聞いたら、女の子が何をしているのかくらい遥香だって分かる
        もん。
        遥香はまだバージンだけど、友達とこっそり覗いたエッチなビデオを観
        賞して、初体験の予行演習は終了してるもん。

        本当なら、こんな声を聞かされて平然と寝ているなんて、どうかしてい
        ると思う。
        でもわたしだって、男の人を挑発するような衣装で布団に包まっている
        し、お義母さんやお義父さんを見てたら、この屋敷はこういう所なのか
        なって。
        心のどこかで納得しているんだと、そう思う。

        わたしは全然寝付けないまま、ベッドの上でスヤスヤと眠る孝太を見上
        げた。

        孝ちゃんは、どんな夢を見ているのかな?
        友達のこと? それとも、お母さん? もしかして……わたし?
        せめて夢の中だけは、大好きだった人達に囲まれた
        幸せな冒険をしてね。
        まぶたを大きく開いて、心の目に映る楽しい光景を記憶の片隅にキープ
        して。
        もし目が覚めても、その時は安心なさい。
        お姉ちゃんが、孝ちゃんの両耳は塞いでいてあげるからね。








忍び寄る悪夢






















【第8話】


        
        わたしと孝太が、市川家で暮らし始めて1週間が経っていた。
        その間わたし達は、お義母さんから避けるように二人一緒に部屋に閉じ
        こもったまま、静かに息まで殺して過ごしていた。

        部屋を出るのは、食事の時とお風呂に向かう時だけ。
        裸でいるよりも恥ずかしい服装をしたわたしは、お義母さんやお義父さ
        ん。それに和志さんにまでネットリとした視線を浴びながら、食事をし
        てお風呂にも浸かった。
        絶対に離れようとしない孝太を頼もしく思いながら。

        「あ、あの……遥香様、孝太様。旦那様と奥様がお呼びです」

        少したどたどしい仕草で皐月さんが部屋を訪れたのは、昼食を終えてし
        ばらくしてからだった。

        「なんだろう? お姉ちゃん」

        思いがけない呼び出しに、孝太が表情を曇らせている。
        わたしも胸の奥に嫌なモノを感じながら、それでも孝太の手を握ると部
        屋を後にした。
        あまり待たせると、あのお義母さんの性格だもの。
        ツマラナイことで言い掛かりを付けてくるかもしれない。

        わたしはハイレグカットにされたホットパンツ姿のまま、前を行く皐月
        さんを追った。
        これがお昼間の正装として命じられているのか、全裸にフリルの付いた
        エプロン姿の彼女は、後ろを振り返ることもなくただ無言で先導してく
        れている。

        前田皐月……
        弥生さんの妹だと、お義母さんが教えてくれた。
        因みにお姉さんの弥生さんが20才で。妹の皐月さんが遥香と同じ17
        才とも。

        弥生さんが大人びた美人だとすると、皐月さんは愛くるしい美少女って
        感じかな。
        すらっとしたモデル体型の弥生さんと違って、ちょっと小柄な体型もそ
        れを助長させて見せるのかもしれない。

        「あ、遥香様……その……」

        そんな皐月さんが、階段の踊り場にさしかかった所で急に足を止めた。
        やっぱりお尻を露出させているのが恥ずかしいのか、さり気なく左手で
        押さえながら、わたしを見つめた。

        「旦那様や奥様になにを言われても、今は我慢してくださいね。そうし
        ないと、あの人達は本当に怖ろしいですから」

        「分かったわ、皐月さん。ありがとう、アドバイスしてくれて」

        「い、いえ……わたしは……その……」

        皐月さんは、Tシャツの穴から覗いている遥香のおっぱいをチラッと覗
        いて俯いてしまった。
        そして顔をほんのりと赤くさせると、小走りに近い勢いで残りの階段を
        駆け下りていく。

        わたしの斜め下で、
        引き締まったヒップが揺れていた。
        かなり薄らいできたけど、弥生さんと一緒。
        残酷な鞭の傷痕を何本も刻まれた後ろ姿を晒して、あの人達に逆らえば
        こうなるって、身体でも教えてくれるように。

        広いお屋敷の中で、同じ年の女の子との初めての会話にしては哀しい内
        容だった。
        短すぎる言葉の往復だった。
        だけど、わたしは涙が出そうなくらい嬉しかった。
        だって、会う人がみんな牙を剥いてくるのに、わたし達のことを思って
        寄り添ってくれる人がいたなんて。

        「お姉ちゃん、皐月さんっていい人みたいだね」

        「孝ちゃんも、そう思う? お姉ちゃんもよ」

        孝太がそっと話し掛けてきて、わたしもそっと答えていた。

        住み込みで働かされて、理由は知らないけどお姉さんの弥生さんと共に
        エッチな服装をさせられて、夜になったら誰と? それも遥香は知らな
        いけど男の人の相手もさせられて。
        そんな皐月さんなのに。
        わたし達より辛い目に会っている筈なのに。

        わたしは孝太の手を引くと、階段を下りていった。
        踊り場にだけ射し込んでいた暖かい陽だまりを後にすると、悪魔たちの
        手招きに応じるように歩幅を拡げていた。



        わたしと孝太が呼びだされたのは、鈍い光沢を放つ調度品が並んだ応接
        室だった。
        椅子もテーブルの脚にも手の込んだ彫刻が施されていて、床には毛並み
        の長い絨毯が。
        お飾りなのか分からないけど、暖炉までしつらえてある。

        そしてお義父さんとお義母さんはというと、暖炉の斜め前に置いてある
        革張りのソファーに腰を下ろしている。
        詰めて座れば4人くらい座れそうな所を二人だけで独占して、優雅に身
        体を崩したままワイングラスを傾けている。
        まだ太陽の明るいお昼間だというのに。

        「アナタ達も少しは、ここの生活に慣れてくれたかしら?」

        お義父さんに身体をしな垂れかけた姿で、お義母さんが訊いた。
        応接室の入り口に立ったままのわたしと孝太に、気だるそうな目線を送
        ってくる。

        「それで、お話とは?」

        そんなお義母さんの問い掛けに答えずに、わたしは逆に訊き返していた。
        ホットパンツから食み出した太股を閉じ合わせて、袖なしTシャツのシ
        ワを伸ばすフリをしながら、丸い穴から飛び出した胸の膨らみを右手で
        ガードさせて。

        「おや、ずいぶんとストレートにお聞きだね。まあ、アタシも回りくど
        いのは面倒だからね。単刀直入に答えてあげようじゃないか」

        気だるそうだったお義母さんの両目がギラっと光ったように見える。
        わたしは、ちょっと強気な物言いをしたことを早速後悔した。
        寄り添っていた孝太の腕を探すと、左手で握り締める。

        「遥香、お前は今夜から男の相手をしてもらうよ」

        「……?!」

        「ん? 若いのに耳が遠いのかい。今夜から男達と身体を使った接待を
        しろと言ってるんだよ。平たく言えばセックスしろってことだよ!」

        お義母さんのドスの効いた声が、応接室の壁に反響した。
        お義父さんがちらっとお義母さんの横顔を見ながら、グラスに入ったワ
        インを口に含んだ。

        「……嫌です……出来ません、そんなこと」

        わたしはドスの効いたお義母さんの、4分の1のボリュームで言い返し
        ていた。
        お義母さんの言葉が理解できなくて、1分以上間を置いて言葉の意味を
        噛み締めて、目の前が暗くなるのを感じながら唇を動かしていた。

        「はははっ。養女の立場で引き取られて、育ての親に身体を差し出せで
        は、まあ、妥当な答えだな」

        口に含んだワインを飲み干して、お義父さんが愉快そうに目尻を下げた。
        デレっとだらしない目線でわたしの身体を往復させて、グラスに残った
        ワインをお義母さんに差し出した。
        それはまるで、人の血液……
        どす黒い赤色をしていた。








盲目な策士






















【第9話】


        
        「ねえ、孝ちゃん。どうしてあんなことを言ったの? お姉ちゃん……
        孝ちゃんを信じてたのに……」

        「……」

        わたしは廊下を歩きながら、孝太に訊いた。
        応接室を後にして、階段を昇りながら。そして、また……

        だけど孝太は答えてくれない。
        わたしの手を痛いほど握り返したまま、まるで目が見えているかのよう
        に真正面を見据えて大股で歩いていく。



        「うちもねぇ、アンタが思うほど裕福じゃないんだよ。その上、遥香と
        孝太。アンタ達のようなごくつぶしが二人も増えたんじゃ、これから先、
        益々苦しくなるってもんさ。
        特に孝太。お前は目が見えないんだからね。これからも養育費ばかり増
        えるのが目に見えているだろう? それでなんだけどね、遥香。お前は
        女なんだから、今晩からはその身体で男の相手をしてもらおうじゃない
        か。家計の足しにセックスで恩返しも悪くないだろ?」

        「ひどい、孝太の前でそんな話。いくらお義母さんでも、言っていいこ
        とと悪いことがあります!」

        「ちょっと、お姉ちゃん」

        「孝太は黙ってて!」

        わたしは、お義母さんから信じられない話を持ち掛けられて頭に血が昇
        っていた。
        止めようとする孝太に向けても語気を荒げると、お義父さんのグラスを
        回し飲みしているお義母さんに、喰って掛る勢いで言葉を続けた。

        「どうしてわたしが……そのセ、セックスなんて。絶対にお義母さんの
        言いなりになったりしませんから。養育費の分は働いてなんとかします。
        この家を出て孝太と二人で……」

        「家を出てどうすんのさ。行く当てでもあるって言うのかい? それに
        だ。市川家の子供になった以上、勝手なマネは絶対にさせやしないよ!」

        これを売り言葉に買い言葉とでも言うのかもしれない。
        でも形勢は、どう見たってお義母さんの方が有利。
        あの人は、わたしの言葉を想定済みといった感じで目が笑っている。
        それに比べてわたしは……

        「ふふふっ、面白くなってきたじゃないか。遥香のその目、いいねぇ。
        キッとして睨みつける表情も実にゾクゾクさせてくれる」

        そんなわたしとお義母さんのやり取りを見ていたお義父さんが、口を挟
        んできた。
        わたしはものすごく本気で必死なのに、茶化すようにしてお酒臭い息を
        吐きかけてくる。

        「あなた、こんな生意気な娘にはお仕置きが必要だと思うけど、どうす
        るぅ?」

        「別に鞭打ちでも構わんが、千津子。打ち場所は考えてくれよ。大切な
        商品だ。なるべく目立たんようにケツだけで我慢するなら賛成だが」

        「う~ん、どうしようかしら? こういう小娘には、ビシッとオマ○コ
        にお灸を据えるのが手っ取り早いけど……仕方ないわ。それでOKする
        わ」

        お義母さんの顔に残忍な笑みが浮かんだ。
        わたしはというと、鞭打ちの単語を聞いた唇がこれ以上の抵抗を放棄さ
        せようとする。
        それに追い打ちを掛けるように遥香の頭が、無残に傷つけられた弥生さ
        んと皐月さんのヒップを再現させる。
        そして、お義父さんが鞭打ちの準備を始めるのか、ドアを開けて誰かを
        呼ぼうとして……

        「待ってください! お姉ちゃんを鞭で打つのだけは許してください」

        突然声をあげたのは、孝太だった。

        「お姉ちゃんは、僕が絶対に説得します。お姉ちゃんが……その、セッ
        クスで男の人の相手をするように、僕がどんなことをしても言って聞か
        せます。それに僕は……僕はこの家から出たくありませんから。この家
        にいたら、苦労せずに生きていけるから。だから……」

        「こ、孝ちゃん……あなた……」

        張り詰めていた心の壁が音を立てて崩れていく。
        思わずわたしは、掴んでいた孝太の手を振り払おうとした。
        でも、孝太が逆に力強くわたしの手を掴み返してくる。

        「キャハハハッ! 実の弟に裏切られるとはねぇ。これは愉快だ。面白
        いじゃないか、孝太。どんな手を使うか知らないけど、お姉ちゃんが心
        置きなくオマ○コ出来るように説得するんだね」

        「はい、頑張ります。お義母さん」

        いつもの甘えん坊の孝太ではない。
        声変わりの途中の擦れた声だけど、はっきりとした口調で『お義母さん』
        って。



        「お姉ちゃん、今何時?」

        「え、えーっと、1時……50分くらい。それよりも、孝ちゃんあのね」

        「ちょっと黙って……誰も……付けて来てないようだね」

        孝太は身を乗り出したわたしを押さえると、耳を傾けて廊下の音を探っ
        た。
        そして安堵したように顔の筋肉を緩めると、わたしの方に向き直る。

        「謝るなら後でいくらでもするから。お姉ちゃん、早く荷物をまとめて
        よ。今なら駅へ向かうバスに間に合うからさ」

        「こ、孝ちゃん。まさか……」

        真面目で冗談だって飛ばしたことのない孝太が、悪戯っ子みたいにニン
        マリした顔を作る。
        わたしと同じくらいの背丈なのに、その時は一回りも二回りも大きく見
        えて、心の中のわたしはその胸に飛び込んでいた。
        その間に現実の遥香は、超特急で荷物を掻き集めてバックに詰め込んで
        いく。

        「準備できたわ、孝ちゃん。でもまだ明るいし、誰かに見付かっちゃう
        かもしれないよ」

        わたしは白く反射した窓ガラスに目をやった。
        陽が暮れてからこっそり抜け出して、どこかの家に逃げ込めばって思い
        付いたから。
        でも孝太の作戦は違った。

        「お姉ちゃん、この屋敷の住人って何人かな?」

        「えーっと、お義父さんと……働いている弥生さんと皐月さんを入れて
        5人よ」

        「だよね。こんなに広い屋敷でたったの5人。それに僕は匂いで分かっ
        たんだけど、あの二人はワインをかなり飲んでたよね。特に僕が従順な
        フリをしてあげたら更にね。それと、こんな田舎町で町の人に救助を求
        めるのは危険だと思うんだ。市川の家とどんな繋がりがあるか分からな
        いでしょ」

        「孝ちゃん、あなたはそこまで……」

        そこに立っていたのは、子犬のように寄り添ってくる孝太ではなかった。
        悪い人達から命を賭けて守ってくれる、頼もしいボディーガード。その
        ものだった。