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少女涙の羞恥生活  登場人物紹介






















         【登場人物 紹介】


         早野 有里  
 
        今年の春、高校を卒業し大学に進学した18歳の学生  処女       
        ポニーテールの髪型がトレードマークの美少女であり、本作品のメイン
        ヒロイン。
        苦しい家計を助けるため、近所のそば屋で店員のアルバイトをしている。
        運動神経が良く何事にも前向きで、少々のことでは弱音を吐かない。        
        父の入院費を工面するため、男たちに身体を提供することになる。



        吉竹 舞衣 
  
        本作品のヒロインで和風的な美少女 18歳  処女     
        有里の高校時代からの同級生で親友。有里と同じ大学に通っている。       
        活動的で明るい性格の有里に対して、やや内向的。時間があれば本ばか
        り読んでいる。
        ただし、頑固な面も持ち合わせており、大切な人のためなら身体を差し
        出すこともいとわない。
        現在は、ある事件をきっかけに有里から一方的に絶縁状態にされている。



        水上 千里
   
        本作品のヒロインで、有里の父親を担当する看護師
        21歳  非処女        
        面倒見の良い性格から、有里や舞衣に頼りになるお姉さんとして慕われ
        ている。        
        ただし、正義感が強く勝気な性格から一部の同僚看護師には憎まれてい
        るようだ。
        


        なぞの人物

        有里のあとを追うように、いつも一緒に行動している。氏名不詳のなぞ
        の人物。
        (たまに、他の美少女を追い掛けている場合あり)
        ピンチになった有里を励ますこともあるが、基本的に役立たず。
        有里には、きみと呼ばれ、舞衣と千里には、あなたと呼ばれている。


        
        早野 勇 
  
        有里の父親である。      
        不動産会社に勤めていたが、同僚の陰湿な計略に嵌り会社を追われる。      
        その後、体調を崩し入院。意識がない。       
        現在はその病状が悪化し、高額な費用をかけて治療を行わない限り生命の保
        証はない。
       


        早野 君枝 
 
        有里の母親である。       
        夫の入院費と家計のため、スーパーで慣れないレジ打ちをしている。       
        性格は悲観的で、なにかあるとすぐに涙を見せてしまう。
 
 
     
        吉竹 亘 
  
        有里の父親の元同僚で、舞衣の父親である。       
        嫉妬深い性格で、娘にも好かれていない。
 


        吉竹 美沙子 

        舞衣の母親である。       
        夫に愛人ができたショックから立ち直ることが出来ずに、自堕落な生活
        を送っている。

         
        時田 謙一 
 
        有里の住む街に本社を構える、巨大金融グループの社長である。      
        欲しい物を得るには、手段を選ばない強欲な人物。       
        女性に恥辱的な行為をさせては、それを撮影、映像化し、自分のコレク
        ションとして保有している。
        ただし、自分は一切行動せずに何人かの部下に行為を任せている。

       

        副島 徹也 
 
        時田謙一の直属の部下であり、有里に対する恥辱行為を担当している。       
        長身だが、見た目は華奢な体格。
        いつも高価なスーツを身にまとっている。      
        丁寧な話し方の割に冷酷な男で、耳障りなハスキー声が特徴。 



        松山医師 
  
        有里の父親の担当医である。      
        どうやら裏で時田と繋がっているらしい。



        横沢 良一 
 
        時田謙一の部下でありながら、副島にアゴで使われている。       
        主に有里たちの行為を撮影するカメラマン。
        何事にも、無反応・無表情で謎の多い人物である。
 

     
        そばや並木の主人 
    
        有里をアルバイトの店員として雇ってくれている、人の良いおじさん。
       


        上條 理佐

        有里と舞衣の親友。  
        有里曰く、スタイルが良くて美人らしい。
        大学内の情報収集が趣味。
       


プロローグ 美少女有里























(一)


七月 十八日 金曜日 午後八時  早野 有里

 

        「ごちそうさん」

        「ありがとうございまーす。お気を付けて……」

        わたしは軽くお辞儀をした後、笑顔の魔法を掛ける。

        この人は、どうかな? ……あ、口許が緩んだ。
        どこかのキャッチフレーズじゃないけど、スマイルの効果は超抜群ね。
        これで、またひとりお得意様ゲット……かな。

        あとは食器を片づけてテーブルを拭いたら、今日のお仕事も終わりのは
        ず……うん?

        あれっ……? きみは誰よ。
        何も注文いていないところを見ると、お客さんじゃ……ないよね。
        それとも、他に用でもあるの?

        …… ……

        はっきりしない人ね。言いたい事があれば、ちゃんと言いなさい。

        …… ……

        はあ、しょうがない人ね……
        分かったわ……もう、話さなくていいから。

        ……その代わり……わたしの相談相手になってくれる?

        ……♪♪……

        ……えっ、なってくれるの? ……ありがとう。
        これで、きみとわたしはお友達。これから仲良くやっていきましょうね。

        ところで、今から始まる物語の主人公が誰なのか、きみ、知ってる……?

        ……えーっ、知らないのぉ? 
        なーんか、ショックだな。

        うーん、仕方ないわね。それじゃぁ、特別に教えてあげる。
        よぉーく、聞いててよ。

        夢と冒険に満ちた物語……じゃなくて、愛と涙があって、ちょっぴりエ
        ッチな物語の主人公。

        それは……?!

        …… ……

        ……早野有里、わたしのことだよ。
        ……どう、驚いた?

        そんなことじゃなくて、ちょっぴりエッチが気に入らないって……?

        それを、わたしに言われても……

        まあ、そんな些細なことは脇に置いといて……
        まずは自己紹介するね。

        名前は、早野有里。
        今年の春、某難関? 国立大学教育科に入学した18歳。
        そう、花の女子大生ってところ……ちょっと古いかな。

        家族は、父と母とわたしの3人家族。
        ただ、お父さんは病院に入院していて、家にはお母さんとわたしだけ。

        髪型は前髪を眉の上で切り揃えたポニーテール。
        これは高校に入学してから今まで変えたことのない、わたしのトレード
        マークみたいなもの。

        顔は……美人だと思う。ただし自称よ。
        周りの友達は、わたしのことを可愛いと表現するけど……どうかな?

        でも、わたしは気に入ってる。
        ちょっと大きめの勝気な瞳に、すじの通った鼻、それに薄い唇。
        そうそう、忘れていた。笑うとほっぺたに浮き上がるえくぼ。
        実は、これが一番のお気に入りだったり……

        身長は162センチ。体重は……教えてあげない。
        他に質問は……?

        えっ、スリーサイズ……?

        ごめんなさい。そういうのは、もっと親しくなってからの方がいいと思
        うの。
        お互い、今日が初対面なんだし……

        あっ、おじさんが呼んでいるから、また後でね。



        「そろそろ閉めようか。有里ちゃん、暖簾外してきて」

        わたしは少し間延びした返事をして、磨りガラスの戸を開けると表に出
        た。
        ぬるりとした生温かい風が肌にまとわりついてくる。

        いやだなーっ、この感触。

        こういう時はさっさと片付けようと、ちょっと背伸びしながら暖簾を取
        り外し、くるくるっと丸めて小脇に抱える。

        どう? なんか様になってるでしょ。

        ……でもこんなの、誰だって直ぐに出来るようになるわよ。

        「はぁー涼しい。ここは天国ね」

        わたしは空調の利いた店の中で生き返ったように両手を広げて、思いっ
        きり大げさに深呼吸した。
        もう外に出たくないって思うほど快適な空間。

        「ごくろうさん。後はおじさんが片付けるから、有里ちゃんはもうお帰
        り……」

        くつろぐわたしに気を回してくれたのか、おじさんからのありがたーい
        お言葉。

        えっ? この人誰って……?

        そう、焦らない。

        この方は、わたしの御主人様……ううん、違った。
        わたしをバイトで雇ってくれた、ありがたいこの店のオーナーさん。

        苗字は並木と言うんだけど……
        背が低いからかな、親しい人はネズミ親父とかチビ親父とか言っている。

        もちろんわたしは、そんな失礼な呼び方はしないわよ。
        単純におじさんとか並木のおじさん。
        間違ってもそこのチビなんて、心の中でも言ったことは……ない?

        でもね、そんなおじさんをわたしは尊敬しているんだ。
        奥さんを10年くらい前に亡くして周りから再婚を勧められたこともあ
        ったけど、俺の嫁は生涯ただひとりと言ったとか言わないとかで、今も
        ひとりで暮らしていて……
        涙もろくて頑固で、意地っ張りで、そのくせ人が良くて……
        商売をしているのに、自分が儲けることより周りのことばかり気にして
        いる。

        どう、わたしの気持ち分かるでしょ。
        それに、料理の腕は保証済み。
        確かに厨房の道具は古いし、テーブルの塗装も剥げかかっているけど、
        一度でもここの料理を食べた人はやみつきになること間違いなし。
        きっと近い将来、某ガイドブックで星が三つ並んでいると思うよ……多
        分ね。



        「コツコツ……」

        いつもより早めにバイトを終えたわたしは、ひとり家に向かって歩いて
        いた。
        まだ午後8時過ぎというのにシーンと静まりかえって猫の鳴き声もしな
        い通りに、足音だけが寂しく響いている。

        「お腹すいたな……」

        わたしはごまかすように独り言をつぶやいた。

        なぜかって? ちょっと怖いから。

        その理由は、この商店街のせいだと思う。
        まず、道路幅が狭いわね。
        車2台が交わすのに苦労するくらいだから……

        そのせいで、建物が両サイドから押し寄せて来る感じ。
        これって昼間は特に気にならないけど、日が暮れて暗くなると結構威圧
        感があって不気味なのよね。
        そして2番目が、俗に言うシャッター通りというやつ。
        道路を挟んで20軒ほどお店屋さんが並んではいるんだけど、その半分
        くらいは年中シャッターが降りている。

        わたしが子供の頃はもっと賑わっていて、お肉・お魚・お野菜、ついで
        に日用品も、みんなこの商店街で済ませていた。
        よくお母さんに連れられて夕ご飯の買い物をした覚えがあるけど、今で
        はこの有様……

        まあそんなことは、偉い人にまかせて早く帰ろう。

        わたしは、なにかに追い立てられるように歩くスピードを速めていた。
        そしてあの角を曲がればもうすぐ我が家、という所まで来て、黒い外車
        が道を塞ぐように停まっているのに気が付いた。

        あれ? あの車なにをしているんだろう……?

        この辺りは街灯が全然ないから、頼りになるのは家の明かりか月明かり
        くらい。
        当然、中に誰が乗っているのか全く分からないけど、こういうのってな
        んだか不気味……

        まさか通り掛った瞬間、突然ドアが開いて可憐な娘がアレ―ッて……こ
        とはないでしょうね。
        やだな。そう思っただけで歩く速度が急に遅くなってしまったじゃない。

        ここは慎重に……前を真っ直ぐに見て……

        そう、よそ見をせずに歩くのが一番かも。
        目の視野から黒い物体が消え去るまで我慢我慢。

        もう少し、後1メートル……

        心の中で実況中継しながら歩いたけど、結局何も起きなかった。

        ……なんか、拍子抜けって感じ。

        それよりも、緊張したせいで全身汗まみれ。
        これって冷え汗っていうやつ……?

        わたしは、角を曲がって車が見えなくなるのを確認すると、バッグから
        ハンカチを取り出して額や首筋に押し当てるようにして拭い始めた。
        そして、あたりをきょろきょろと見回してからシャツの襟首を掴んでパ
        タパタと……
        ついでに下の裾からもパタパタと……

        でも、やらないよりマシってくらいの効果かな。
        ここは早く家に帰ってシャワーを浴びるのが一番みたい。

        わたしはそう自分に言い聞かせると、もう汗が出るのもお構いなしに帰
        り道を急いだ。




                七月 十八日 金曜日 午後九時  


        「あれが早見有里。今回のターゲットの一人です。
        ……どうです。なかなかの美少女でしょ? ね、伯父さん」

        私はルームミラーに映る男性に声を掛けた。
        男は少女の消えた角を目で追い満足そうに頷くと、疲れているのか目を
        閉じた。

        少し癖のある髪を整髪剤で整え、上品な生地のスーツに袖を通した恰幅
        の良い紳士。
        これが傍目に見た評価かもしれない。

        事実、彼はこの街に本社を構える巨大金融会社の社長だ。
        たった一人で今の会社を起こし、わずか10年でこの地域を代表する企
        業に育てあげた経営センスには目を見張るものがある。

        今やこの街の行政・司法でさえ、この男には一目置かざるを得ない。
        当然、闇の住人達も……

        だが、私は知っている。
        ここまでのし上がる間に、裏で何が行われたのかを……

        欲しい物を手に入れるためなら、手段を選ばない残酷なまでのやり口。
        金・色・暴力、この男の前では法律さえ役には立たない。
        お陰で、これまでどれだけ多くの人が泣かされてきたか……
        確かに汚いと思うことも多々あるが、割り切ってしまえばこれが現実だ
        しこれが世の中かもしれない。

        そんな彼の元で、私もここまで幾度かこの両手を汚してきた。
        だが、これまでの自分生き方には悔いは無い。
        数少ない身内の一人として、また忠実な部下として、この男を支える今
        の仕事に不満もない。

        「……車を出してくれ」

        両目は閉じているが眠ってはいないようだ。

        私は行き先を確認せずに車を発進させた。
        ここまでの長い付き合いで、この男が何を考えどうしたいかぐらいは分
        かるつもりだ。

        それよりも、明日から忙しくなる。
        心はそれを期待と捉え、高まる鼓動が抑えられなくなっていた。





レッツ・バスタイム ?!























(二)


七月 十八日 金曜日 午後九時  早野 有里
 


        「ただいまーっ」

        続けて、お母さん怖かったよ!
        そう思わずしゃべりそうになって、わたしは慌てて口をつぐんだ。

        「あら、お帰り。何かあったの……?」

        ほら、感の良い彼女は気付き始めている。

        「ううん、なんでもない。それより……今日は早かったでしょ」

        「そうね、いつもよりね」

        ここは、急いで話題を変えなくちゃ。

        「うん。今日はもう帰っていいって、並木のおじさんが……
        後片付けは俺がやるからって。
        ……別に、押し付けたわけじゃないよ」

        なぜか後半早口でしゃべっていた。
        こんな言い方をすれば今日の頑張りが無駄になってしまうけど、今は仕
        方ない。

        「そうね、信じるわ。それより、お風呂が沸いているから先に入りなさい」

        「はぁーい」

        わたしは、わざと子供っぽい返事をしながら浴室に向かった。


        この人が誰なのか、きみにも分かるでしょ?

        そう。彼女がわたしのお母さん。
        名前は、君枝っていうの。
        お料理が上手で、何にでも良く気が付いて、それに優しくて……

        あえて短所を探せば、うーん、気が優しすぎること。
        悪く言えば気が弱い。
        それに、ちょっとオットリしていて運動は大の苦手。

        どちらかというと、負けず嫌いで身体を動かすのが大好きなわたしとは
        正反対……
        足して2で割れば丁度いいかも……

        顔なんか、未来のわたしにそっくり? だと思う。
        スタイルは、お世辞にも良いとは……

        少し前までは、昔の服がどんどん着られなくなって……
        ウエストがゴムのスカートばかり履いて……
        その割にわたしの倍くらいご飯だけ食べて……

        でも、そんなお母さん好きだったな。
        今は、何かあるとスグに涙ぐむ……
        これもお父さんの病気のせい?



        「暑いからって、烏の行水はダメよー」

        「わかってまぁーす。もう、いつまでも子供扱いして……」

        脱衣場に入ると、わたしは身に着けているものを1枚だけ残してサッと
        脱ぎ去った。

        えっ、残りの1枚……?
        ……そんなの……聞かないでよ。

        足元から吹き付ける扇風機の風が、スゥーッと肌に直接触れて、しばら
        くこのままでいようかなと思うくらい気持いい。
        それなのに「グゥーッ」と、お腹の鳴る音が邪魔をした。
        仕方ないから、早くお風呂に入って晩御飯を食べようかな。

        それではお待ちかね? の最後の1枚に手をかけ、両手でするすると肌
        上を滑らしていく。
        そして、紐状になったそれを足首から抜き取った。

        少し弱めの照明の下、洗面台の鏡に上半身裸の少女が映っている。

        誰のことって? 
        もちろん……わたし……
        中学、高校と運動部で鍛えたから、今のところ無駄な脂肪も一切なし。

        さあ、汗を流そうかな。
        わたしは浴室の扉を開くと中に入って行った。




           七月 十八日 金曜日 午後九時二十分   早野 君枝


        リビングの壁越しに有里の鼻歌が聞こえてくる。

        「もう、あの子ったら……」

        まだまだ子供ね、と言おうとして私は口を閉ざした。
        そして「ごめんね、有里。あなたにまで迷惑をかけて……」

        代わりに口をついたのは謝りの言葉。
        いけないと思いつつも、つい口走っている。

        あの人が入院してから確かに私の気持ちは弱くなった。
        何気ない言葉に胸が抉られたり、悲しみから涙が止まらないこともある。

        「少し、あの子の元気を分けてもらおうかしら」

        私は天井を見上げて気分を落ち着かせると、出来あがった料理を食卓に
        並べていった。
        あとは有里がお風呂から上がって来る直前に、お汁を温めれば出来あが
        り。

        お母さんが有里に出来るのはこのぐらい。

        「ごめんね」

        また同じ言葉を私は呟いてしまった。




           七月 十八日 金曜日 午後九時三十分   早野 有里  


        「ふーぅっ、いい気持ち……」

        熱めのお湯が今日1日の疲れを忘れさせてくれる。
        わたしは湯船の中でくたくたの手足を、マッサージするように揉みほぐ
        してあげた。

        あーっ、気持良すぎてこのまま眠ってしまいそう。
        ううん、本当に眠たくなってきた。

        このままではまずいなぁと思って、眠気を振り払うように頭を軽く振る
        と浴槽を出ることにした。

        「あー、ちょっと長く浸かり過ぎたかな。頭がくらくらする」

        ボーッとした頭の中、シャワーをぬるめにセットし、火照った肌を冷ま
        すように肩から背中にお湯を掛け流していく。
        そして滑らかな肌の感触を楽しむように、手のひらのスポンジでやさし
        く撫でる。

        自慢じゃないけど、わたしの肌って白くてきれい。
        背中からお尻も、ほら、染みひとつない。
        スタイルだって、それほど悪くないと思うよ。

        胸のふくらみもツンと前を向いているし、お尻のお肉も全く垂れていな
        い。
        ウエストも、モデル並みとはいかないけれど、キュッと締まっている。

        でもね。気になるところも、いっぱいあって……
        全体的に、なんというか子供っぽいというか、アンバランスというか……
        要するに成長途上の身体ってこと……

        特に、胸はもう一回り大きくなって欲しいな。
        高校生になった頃から急に発達し始めて、人並みにはなんとか追い付い
        たけど、まだまだ大人の女性って感じじゃないんだよね。
        青くて未成熟な果実ってとこ……

        それに男の人って巨乳が好きなんでしょ。

        だからテレビに出てくるアイドルって、ボヨーンッて感じで、わざと胸
        の谷間を強調したりフクラミがはっきりわかる服を着たりしているのか
        な。

        でもね……聞いた話だと、貧乳の方が感じやすいんだって……
        アレの時に甘い声をだすのは、そっちかもしれないよ。

        ……いやだ。自分で言って恥ずかしくなってきた。

        でも、それ以上に深刻なのはお尻の方かな。
        肌にも弾力があって、お尻の筋肉にぎゅっと力をいれるとヒップ全体が
        上を向いて……

        それのどこが不満って……?

        実はね、ヒップの大きさ。
        こっちは胸と違ってもう充分大人ってかんじ。

        胸が未成熟なら、お尻は完熟した果実。
        ……あっ、また言っちゃった。

        でも、これ以上は大きくなって欲しくないよね。
        だって、歩くたびにお尻が揺れるのって恥ずかしくない?

        ……えっ、見てみたいって?

        いやだよ。見せてあげない。

        ……これって、贅沢な悩みなのかな。
        でも、女性なら完璧なプロポーションに憧れるよね。

        さあ、前の部分もシャワーを掛けてお風呂から上がろっと。

        ねえ、いつまで見てるの……?
        これ以上は、だーめっ。

        わたしの大切な処は、誰にも見せないからね。




有里って、はしたないの?























(三)


七月 十八日 金曜日 午後九時四十五分  早野 有里
   


        「あー、サッパリした」

        汗でべたついた肌がお風呂で清められたみたいで、心まですっきりする。
        特に、お風呂上がりの桜色の肌から立ち上るほのかな石鹸の香りはなん
        とも言えない。
        我ながらうっとりとしてしまう。

        なんだか今日は開放的な気分……

        わたしは素肌に下だけ身に着けると、その上からバスタオルを巻いてリ
        ビングに入った。

        「もう、有里ッ! また、そんな恰好で……年頃の娘がすることじゃな
        いわよ」

        案の定、怒られた。

        「大丈夫よ、お母さん。誰も見てるわけじゃないし……
        それに、ほら。下はちゃんと穿いてるんだし」

        わたしは、わざとタオルの裾をひらいて腿のつけ根まで露出させた。

        「やめなさいッ! もう、あなたって子は……
        ほら、晩御飯ができているから、早く服を着なさい」

        「はぁーい」

        今日のわたしは何か変……

        勘違いしないでよ。
        普段はもっとお淑やかなんだから……

        服装だって、よく友達に地味だと言われる。
        夏の暑い季節でも肌の露出はなるべく控えるように、長袖のTシャツに
        ジーンズが定番のスタイル。
        ミニスカートやちょっと露出っぽい服も持ってはいるけど、身に着ける
        ことはほとんどない。

        以外でしょ。
        明るくて身体を動かすのが大好きで、そういう女の子は大胆な衣装も平
        気って……
        みんなはそう思うかもしれないけど、わたしは全然平気じゃない。

        どうしてかな……? 

        肌を見せるのにちょっと抵抗があって……
        ……別に羞恥心が異常に強いってわけじゃないよ。

        ただ、好きな人ができたら、わたしも変わるかもしれない。
        それだけに今日は特別だと思う。



        「もう、お腹ペコペコ。いただきまぁーす」

        わたしは母と向かい合うように席に着くと、あいさつもそこそこに食事
        を始めた。

        お腹のムシが、耐えきれないようにまた鳴いた。
        時刻は午後10時。他の家と比べれば結構遅い夕食。
        でも、わたしがバイトを始めてからはずっとこの時間。

        お母さんには気を使わせたくなかったから、先に食事するように頼んだ
        こともあったけど、バイトが終わるまでいつも待っていてくれた。
        そして、帰宅時間に合わせて食事の準備をしてくれる。

        ありがとう、お母さん。
        わたし「いただきます」の後に、いつもこう言っているんだよ。
        でも、口には出さないようにしている。
        だって気を使わせたくないからね。

        「それにしても、毎日暑いわね。有里も身体には気をつけてね」

        「うん……気を付ける」

        わたしはお腹のムシを退治しようと、口をモゴモゴ動かしながら曖昧に
        返事をした。

        「あなたにもしものことがあったら、私……」

        「大丈夫よ、お母さん。バイトにも慣れてきたし、それにおじさんや店
        に来るお客さんもいい人ばかりだから、心配しないで」

        なーんか嫌な予感がする。
        もう少し気の利いた返事をすれば良かったかな。

        「ごめんね……有里……」

        ……やっぱり! お母さん、涙ぐんでる……!?

        どうしようかな……ここはなんとか穏便に……

        「やだなぁ、そんなことで謝らないでよぉ。ちょっと照れくさいじゃな
        い」

        「うっううぅぅぅっ……」

        だめだ、泣きやんでくれない。
        こうなったら奥の手でも……
        うん。ちょっと恥ずかしいけど……やってみますか……!

        「もう、お母さんったら……わたしの体力を甘くみないでよ。
        さあ、有里の右腕にご注目……中学、高校と鍛えに鍛えたこの身体。
        ……見よッ、この力こぶ……!」

        わたしは、袖をまくる仕草をしてひじを曲げた。
        ……我ながらやっぱり恥ずかしい。

        「ふふっ……有里ったら……」

        でもよかった。ちょっとだけ笑顔が戻って……

        わたしは、気付かれないように母を見つめた。

        お母さん、あんなに白髪あったかな。
        髪の生え際に、白いものが目立ち始めてる。
        それに、あまり笑わなくなったよね。
        ……やっぱりお父さんの入院のせい?

        でもね、そんなことひとりで抱え込まないでよ。
        娘のわたしにも、もっと相談してよ。
        ……これじゃ、こっちまで悲しくなる。

        わたしは母から顔をそらすと、思い出したように話題を変えた。

        「ところで、お母さん。今日もお父さんの見舞に行ったんでしょ。
        具合の方はどう?」

        お父さん、ごめんね。
        これって、突然振る話題じゃないよね。
        わたしは胸の中で父に謝罪しながら母の様子を窺った。

        「ううん、昨日と一緒……
        目は開いているんだけど、お母さんが呼び掛けても何も応えてくれない。
        ……でもね、松山先生の話だと、少しづつでも良くなっているらしいわ」

        「良かったじゃない。先生がそう仰るんだったら、わたしも安心。
        それに、お母さんの呼び掛けも、お父さんの耳にはきっと届いていると
        思うよ。……ただ身体が動かないだけ。
        あさってはお店の定休日だから、わたしも一緒に行くね。
        お父さんに会うのも1週間振りね。……早く会いたいな」

        「そうね。日曜日にはふたりで行きましょう。
        きっとお父さんもびっくりするわよ」

        お母さんが笑っている。
        もう大丈夫。元気を取り戻したみたい。
        さすがは夫婦の絆。御見それしました。

        ……でも、わたしは複雑な気分。
        母が話した松山先生って、お父さんの担当医なんだ。
        お母さんは信頼しているけど、わたしは苦手。

        初めて会った時から、なんかこう……身体を舐め回すような視線にビク
        ッとなっちゃって……
        きっとわたし、あの先生に会うのが怖いのかもしれない。

        でも、こんなこと言ったら罰が当たるよね。
        多分、わたしの思い過ごし……多分……

        「あ、それと……並木のおじさんも心配していたよ。
        お父さんの容体と、お母さんにあまり無理しないようにって……」

        並木のおじさん、ごめんなさい。
        ついでみたいな言い方で……

        「並木さんにも余計な心配を掛けちゃったわね。
        お母さんは大丈夫だから、有里の方から宜しく伝えてくれないかしら。
        それと、近いうちにわたしもお礼に伺うわね」

        「えっ、お母さん来るの?」

        「ええ、行かせてもらいます。娘の働き具合も見てみたいしね」

        なんか最悪……
        これも並木のおじさんをついで扱いにしたから?

        でも良かった。
        お母さんとこんなに長く話できて……
        お父さんも、早くこんな会話に加われたらいいのにね。

        わたしは、父がいつも座っていた椅子に視線を落としてから、リビング
        の本棚に目を移した。
        その棚には、家族三人の思い出が詰まった写真立てが飾られている。

        父と母と私が三人並んだ状態で、高原の湖をバックに撮った記念写真。
        父と母の笑顔が眩しくて懐かしい。

        お母さんの代わりに、わたしの涙腺が緩んできちゃった。




父の思い出 迫りくる恐怖























(四)


七月 十八日 金曜日 午後十時四十分  早野 有里
  


        きみも、なかなか気がきくね。
        親子水入らずの会話にはちゃんと席を外してくれるとは、感心感心。

        今、食事が終わって時間があるから、ここでお父さんのことを話してあ
        げるね。



        父の名前は、勇。
        この街の不動産会社に勤めていたんだ。

        性格は、一言で説明すると真面目一筋。
        仕事は当然、家庭内のことから近所付き合いまで一切手抜きなし。
        どちらかと言うと小柄で華奢な体型で、若い頃は身体も弱かったらしい
        けど、父ほど一生懸命という言葉の似合う人はいなかった。

        だからと言って、昔の猛烈社員を想像したりしないでね。
        父の生き方の中心には、常にわたし達家族だったんだから。

        わたしとお父さんとの思い出は大切な宝物。
        ただ多すぎて、ここでは話せない。
        それはまた時間ができた時にでも……

        今は、もっと大切なことを説明するね。
        そう、この物語の本質部分に関わる重大な話……

        お父さんって、さっき話したような性格でしょ。
        おまけに部下想いで、会社の偉い人の評価も高かったからどんどん出世
        していったの。

        わたしはあまりうれしくなかったけどね。
        だって、お父さんと一緒にいる時間が減っていくんだもん。

        でも、お父さん。ちょっと頑張り過ぎたのかもしれない。
        社内には、そんな父を妬む人達もいたみたいだから……


        そして、今から2年前。
        きみも覚えているでしょ……? 駅前の再開発が突然始まったことを……

        古い街並みを更地にしてオフィスビルや高層マンションを建てて、『活力
        ある街づくり』がキャッチフレーズのあれ。

        実は、お父さんの会社も参加していたんだ。
        そしてこのプロジェクトを任されたのが、わたしの父だったの。
        後からお母さんに聞いた話だけど、お父さん張りきって仕事に打ち込ん
        でいたみたい。

        ……でも、現実は甘くなかった。

        わたしも思うことがあるけど、このあたりの人たちって結構保守的で頑
        固なのよね。
        江戸時代から続く古い街だからかな。

        そのせいか、土地の取得交渉も相当大変だったみたい。
        それでもお父さん、文字通り必死で頑張ったの。

        あの頃の父の姿は、わたしもよく覚えている。
        朝から夜遅くまで土日の休みも関係なしに、ひたすら仕事、仕事、仕事。
        わたしとお母さんが身体を心配するくらい、仕事、仕事、仕事。

        でもそんな父の努力が実を結んだのか、難しい交渉も次第に成果が出始
        めて、2か月くらい前にプロジェクトは無事に成功を収めることができ
        たの。

        これのどこが、重大な話って……?
        きみ……ちょっと、せっかちだよ。

        わたしのベッドに腰掛けていいから、もう少しの間付き合ってね。
        あっ、勝手に寝転ばないでよ。
        パジャマにも触らないッ!

        えーっと、どこまで話したかな。
        うーん、そうだった。プロジェクトが成功したところまでだったね。


        そんな輝かしい成果を収めたのに、その晴れ舞台に父の姿はなかったの。
        理由は、突然の解雇。

        ……お父さん、会社をクビにされちゃった。

        ……なぜって?
        それは、今は言えない。

        ただ、お父さんは決して悪くない。
        それは、わたしとお母さんが保証する。
        悪いのは……ううん、なんでもない。

        それよりも、もっと不幸なことがわたしたち家族を襲ったの。

        ……あれは、父が会社を去って1週間ほど経ったある日。

        お父さん、突然頭が痛いと言いだして、この街の総合病院に救急車で運
        ばれたの。
        そして診断の結果、命にかかわる病気だということが判明して、その日
        の内に手術、入院することに……

        幸い、手術は一応成功。
        ただ、病気の後遺症のせいか意識が戻らなかった。
        目は時々ひらくんだけど、わたしたち家族の呼びかけにも全く反応なし。

        それにお医者様の話だと、この病気はまた再発する可能性があるって……
        その時は命の危険性が高いって教えてくれた。

        わたし、どうしていいか分からなくなって思わず泣いて、横を見るとお
        母さんも泣いてた。
        情けないよね。わたしが出来ることって悲しむだけだなんて……

        そんなわたしの心に、現実が喝を入れた。

        父の病状だけではない。今後の高額な治療費、家族が生きていくための
        収入……

        お母さんは、近くのスーパーでパートのレジ打ちの仕事をみつけた。
        わたしも大学を中退して働くと言ったんだけど、それはお母さんに止め
        られた。

        あの時はすごく反発したけど、今想えば娘にまで迷惑を掛けたくないと
        いう、親心だったのかもしれない。

        ……でもね。親子でそんな他人行儀なことって、いやだよね。
        それでわたしも、自分なりに考えて今のアルバイトを始めたんだ。

        ……これで大体分かったでしょ。
        わたしたち家族のこと……

        ただ、これは表の話……

        裏に潜む、悲しくて辛い現実は今日はちょっと……
        それにわたし眠くなってきたから、もう寝るね。
        おやすみなさい……



             七月 二十一日 月曜日 午後二時   副島 徹也  


        「副島様、このベッドはどこに配置します……?」

        「ああ、それは奥の部屋に……そう、東側の壁いっぱいに……」

        使われなくなって久しい薬品倉庫だった部屋の改装も、順調に進んでい
        る。

        私は内装のチェックを済ませると、壁糊の匂いから逃れるようにドアを
        開けた。

        目の前の廊下を白衣姿の男が通り過ぎていく。

        ……そう、ここは病院。

        私が立っているのは、玄関ロビーから続く長い通路から角を2回ほど曲
        がった所にある、あまり人目につかない元薬品倉庫の前。
        現在、取り掛かっているのは、使われなくなった部屋を間取りごと改修
        し私の仕事部屋にすること。
        簡易応接室・バス・トイレに割り当てた半分の面積をあてがい、残り半
        分を私の趣向に合わせた部屋に改築させている。

        あなたにも、少し紹介しましょうか……?

        お転婆娘の相手ばかりしていては、お疲れになるでしょう。
        こういう息抜きも大事ですよ。

        ええ、壁はコンクリートの打ち放し。
        床はリノリウム。
        それに簡易ベッドと小道具を入れるボックス。

        随分と殺風景に思うかもしれませんが、装飾も施してありますよ。

        壁の上端から皮枷の付いた鎖が2本ぶら下がっているのが分かりますか。
        そして、壁の下からも同じく2本。
        合計4本の皮枷付きの鎖。

        これで何をするのか、感の良いあなたならご理解頂けると思いますが……

        因みに、同じ物をベッドにも取り付ける予定です。
        ただし、こちらはベッドの四隅ということになります。

        この後は天井に滑車なども欲しいところですね。

        ……それとですね。もうお気づきかと思いますが、部屋中に複数の監視
        カメラを設置してあります。
        もちろん、応接室にバス・トイレにも……

        たかが監視カメラと思わないで下さい。
        画質はそこらにある市販のビデオカメラには負けません。
        きっと迫力のある映像を残してくれることでしょう。

        それとセキュリティも万全です。
        壁は全て防音。1か所だけの出入り口は暗証番号付きの電子ロック。

        どうですか、完璧でしょ。
        ……後は小娘が来るのを待つだけです。

        楽しみですね。あなたもそう思うでしょ。