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壊されていく思い出






















【第6話】


        
        お義母さんから解放されたのは、それから1時間経ってからだった。
        その後わたしと孝太は、迎えにきた弥生さんに連れられて食堂へと向か
        った。

        お義父さんやお兄さんが同席する夕食時だからかな?
        前を歩いている弥生さんも、全裸のままエプロンというわけにはいかな
        いらしい。
        可愛いフリルがあしらわれた白いエプロンに、濃紺のメイド服を着用し
        ている。

        でも、当然というか。スカートの丈はとっても短かった。
        たいして屈まなくても太股の付け根どころか、生傷の痕が残っているお
        尻のお肉までもが、簡単に覗けてしまっているから。

        「お姉ちゃん、震えてるの?」

        「う、うん……でも、孝ちゃんが傍にいるから平気だよ」

        わたしは小声で話し掛けてきた孝太に、耳元に顔を寄せて囁くように答
        えてあげた。
        繋いだ手も、指を伸ばして握ってあげた。

        「そうなの。だったら、僕も頑張らないとね。男なんだし」

        「うふふ、今夜の孝ちゃんって頼もしいな。それだったら、お姉ちゃん
        も頑張らなくっちゃね」

        ほんのちょっぴりだけど、孝太の顔が綻んでいる。
        久しぶりだな。こんな表情を見せるのって。
        きっと緊張して怖いはずなのに、わたしを元気づけようとして。

        『可愛らしいワンピースだね。これって死んだお母さんのお手製ってや
        つかい? でもこの服は、ちょっと丈が長すぎじゃないかねぇ。お義母
        さんが、歩きやすいようにカットしてあげようじゃないか』

        脱衣場でお義母さんに身体中を観察された。
        おっぱいもアソコも、お尻の穴まで全部。
        ついでに記念撮影だと言って、写真もたくさん撮られちゃった。
        おっぱいだって、アソコだって、お尻の穴まで全部。

        そして、弥生さんを呼びつけてハサミを持って来させると、遥香にだけ
        聞こえるように話し掛けてきたの。
        ネットリした鳥肌の立ちそうな声で。

        わたしは裸のままで、お義母さんにすがり付いていた。
        お母さんが残してくれた想い出の品を守ろうとして。
        でも声は上げられない。
        隣には何も知ることができない孝太がいるから。

        ジョキ、ジョキ、ジョキ……ジョキン……

        洋バサミなんて使ってなさそうな雑な手捌きで、遥香のワンピースが切
        断される。
        お母さんが遥香のために作ってくれた花柄のワンピースを、お義母さん
        が面白半分に壊していく。

        コツ、コツ、コツ、コツ……

        闇が忍びこんで支配していそうな廊下で、わたしは嫌なモノを思い出し
        ていた。
        お義母さんが話した通り歩きやすくなったのかな?
        ヒザ小僧どころか太股にまで、スースーした風を感じる下半身にそっと
        目を落としてみる。
        股の付け根の処まで切り上げられて、キザギザに裂かれたワンピースを
        見つめた。
        その下からチラチラと覗いている、縦線の亀裂と淡い翳りまで。

        『ごめんねぇ、遥香。お義母さん、ちょっと手元が狂っちゃったみたい。
        ハサミなんて持つの久しぶりだったから』
        お義母さんが含み笑いをしながら、わたしの脱いだブラとパンツまでチ
        ョキン、チョキンって切り刻む光景も、ついでのように思い出していた。



        「遥香様と孝太様は、こちらの席にお座り下さい」

        食堂の入り口で立ち止まり掛けたわたしを、弥生さんが促した。
        暗闇に慣れ掛けた両目が明るい照明に驚くなかで、わたしは唾を呑み込
        んで、弥生さんが後ろに引いた椅子を見つめた。

        既に席に着いている3人の視線が、わたしと孝太に集中している。
        それを露出した肌で感じて、心臓を激しく高鳴らせて、
        わたしは孝太の手を持ったまま駆けるような勢いで席に向かった。

        「遥香、それに孝太。市川家へようこそ。まずは乾杯といこうじゃない
        か」

        遥香のおじさんを改め、お義父さんになった人が、向かい合わせに座る
        わたしに声を掛けた。
        市川重吉……
        年令はお義母さんよりちょっと年上かな。
        若造りに熱心なお義母さんと違って、髪の毛に白いモノが混じっている
        小太りな人。
        だけどわたしを見つめるその瞳は、初老とは思えないほど欲望をギラつ
        かせて脂ぎったモノを感じる。
        例えるなら、獲物を押さえ込んで牙を剥き出しにした肉食獣みたいに。

        「失礼します」

        そんな重苦しい食堂の雰囲気とは場違いな爽やかな声が聞こえて、空の
        まま置かれたワイングラスがオレンジ色の液体で満たされる。
        わたし、孝太の順で、ジュースを注いでくれているのは、弥生さんと面
        影が似ている愛らしい女の子だった。

        「ありがとう」

        「……いえ」

        わたしと同年齢に見える彼女に、思わずお礼を口にする。
        その女の子の視線が、遥香の惨めな下半身をチラ見して、太股を閉じ合
        わせたまま。
        そして、わたしのチラ見視線も気になったのかな。
        弥生さんと一緒。超ミニスカートのメイド服を纏った女の子は、顔を赤
        らめたまま太股を捩り合わせていた。
        遥香とお互い様って感じで。

        「弥生、ぼ、僕も……ワインより……ジュースがいいかな」

        それぞれのグラスに飲み物が注がれたその時だった。
        お義父さん、お義母さんに挟まれるように座っていた若い男の人が弥生
        さんを呼んだ。
        前髪をスダレのように顔の前に垂らしたその人は、オドオドした自信の
        なさそうな声をあげた。

        たぶんこの男の人が、和志さん。
        わたしと孝太のお兄さんになる人。

        「おい、和志。お前も一人前の大人なんだ。そろそろ酒の味を覚えんか」

        「いいじゃないですか、あなた。和志の身体はアルコールを受け付けな
        いのよね。ほら、何やってんだい、弥生! さっさとジュースを注ぐん
        だよ!」

        お義父さんのたしなめる声。
        お義母さんの甘い猫撫で声と、ヒステリックな叫び声。

        これが、新しい遥香の家族なの?!
        この得体の知れない怖ろしい人達と、わたしは孝太と一緒に……?!