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手と手を取り合って






















【第10話】


        
        ここからは、視力1.5が自慢でお姉ちゃんな遥香の出番だった。
        わたしは片手で孝太の手を掴むと、顔だけ突き出して長い廊下を探った。
        誰もいない。物音ひとつしない。唯一見下ろしている鬼の面を除けば、
        気配そのものがない。

        それを目で感じて、耳で聞きとって、繋いだ手を伝って孝太に教えてあ
        げて、わたし達は部屋を後にした。

        大丈夫よ、遥香。孝ちゃんの立てた作戦なんだから、絶対に成功するか
        ら。
        ううん、成功させてみせるから!

        わたしと孝太は長い廊下を越えて、階段を下りた。
        背中に孝太の息遣いを感じながら、慎重な足取りで十字路になった通路
        を玄関に向かって進んだ。

        あと5メートル……あと3メートル……1メートル……

        引き戸になった分厚いガラスを通して、鈍い光の帯がわたし達を手招き
        している。
        その先に拡がる自由な空間をアピールするみたいに。

        ギギーッ……!

        あと一歩のところで床が鳴った。
        脱走者を知らせようと、耳障りな音を屋敷の奥にまでコダマさせる。

        「お姉ちゃん、さぁ早く!」

        振り返ろうとするわたしの手を、孝太が引いた。
        手探りで引き戸に手を掛けると、わたしを先に押し出して孝太が後に続
        いた。
        眩しいくらいに明るい世界がわたしと孝太を包み込む中、大急ぎで深呼
        吸を繰り返して。

        「孝ちゃん、走るわよ!」

        わたしは後ろを振り返らずに、小声で叫んだ。
        背中から覆い被さろうとする屋敷の影から逃れようと、手を繋いだまま
        全力で駆けた。
        先端の尖った鋼鉄製の門を開き、人通りのない道路へと脱出する。

        後はなるべく人目を避けてバス停に向かうだけ。
        この1本道を真っ直ぐに300メートルほど歩けば……

        「どうしたの、お姉ちゃん?」

        その時になってわたしは、自分の服装に目を落としていた。
        くり抜かれた袖なしTシャツから丸い膨らみを覗かせて、腰骨の辺りま
        で切り上がったホットパンツからお尻のお肉まで曝け出していることに。

        「う、ううん……なんでもないよ。さぁ、行こう、孝ちゃん」

        誰も見ていないのに。孝太だって知らないことなのに。
        ほっぺたが熱くなって、わたしはどこかに置き忘れていた羞恥心という
        単語を今更に思い出していた。

        「お姉ちゃん、何時かな?」

        「あ、えっと……2時20分。あと10分でバスが出ちゃうわ。急ぎま
        しょ」

        はるか前方のロータリーに、駅へ向かうバスが停車していた。
        ここが終点で、ひとりの男性客がバスから降りてくるのが見えた。

        この折り返しのバスに乗って、わたしと孝太は新しい生活をスタートさ
        せるんだ。
        きっと茨の道だけど、こんな悪魔の棲む屋敷で監禁されるなんて真っ平
        ごめんだから。

        観光客なのかな?
        大きなカバンを抱えたその人は、わき目も振らずにこっちへ近付いてく
        る。

        わたしはポケットから財布を取り出すと残金を確認する。
        帰りの交通費くらいなんとかなりそうってひと安心して、大きくなって
        きたバスを見つめた。
        それよりも、もっと近寄ってきたガッシリとした体格の男の人にも。

        こんな田舎の町に場違いな気がする。
        パンパンに膨らんだ旅行カバンをブラ下げて、にこやかな顔をわたし達
        に向けているけど。
        だけどこの人からは……?!

        「お嬢様方、どこへおいでで? へへへへっ」

        浅黒い肌をしたその男の人は、喉を鳴らして笑った。
        その瞬間わたしだって身構えたのに、まるで格闘技をしている人みたい
        に素早く腕を掴まれていた。
        二の腕に指を喰い込ませながら強引に身体の向きを反転させる。

        「旦那さまから連絡は受けておりましたが。ダメじゃないですか、こん
        な所を散歩なさったりしては。ふふふふっ」

        「い、痛いッ! 放してぇっ……お願いだから、放してよっ!」

        「お姉ちゃん? あ、あぁ……どうしたの? この人、誰なの?」

        孝太がわたしの声に反応して、首を右に曲げで左にも曲げた。
        わたしとは違う気配を探して、匂いを感じて、男の人の腕を振り解こう
        とする。

        「お坊っちゃま。あまりおいたが過ぎますと、きつい折檻が待っており
        ますよ」

        「や、やだっ! 放せ……この放せよっ!」

        「孝ちゃん! お願い、孝ちゃんには何もしないで!」

        孝太は男の人に首根っこを押さえ付けられていた。
        わたしの腕の肉を千切れる勢いで掴んだまま。

        わたしと孝太のカバンが、投げ捨てられるように道端に転がって、それ
        を目にして実感した。
        脱出は失敗したって。
        わたしと孝太の地獄からの逃走劇は、新たに湧いてきた一人の悪魔によ
        って完全に阻止されたって。

        「さあさ、お嬢様方。旦那様と奥様が心配してお待ちになっております
        よ」

        男の慇懃な物言いに促されて、わたしと孝太は屋敷へと連行される。
        その背中では、駅へと向かうバスのエンジン音が次第に遠ざかって消え
        た。








地下室での洗礼






















【第11話】


        
        ビシィィッッ! バシィィッッ!

        肉を打つ乾いた音が、レンガで造られた部屋に響いた。
        お義母さんが遥香のほっぺたをぶって、お義父さんが、孝太のほっぺた
        を力任せに殴りつけている。

        空気の淀んだ寒々しい所に連れ込まれて、何回ぶたれただろう?
        何回、冷たいコンクリートの床に這いつくばっただろう?

        結局わたし達を拘束した男の人は、この屋敷に仕えている人だった。
        名前を今川って言うらしい。

        その人からお義父さんとお義母さんに引き渡されたわたしと孝太は、血
        の気を失った弥生さんと皐月さんに見送られて、屋敷の離れから地下に
        通じる階段を下りるように命じられた。
        何に使うのかさえ分からない道具と、コレクションのように壁に掛けら
        れた数種類の鞭が見守る不気味な地下室へ。

        「ったく、舐めたことをしてくれたわね。鞭打ちくらいでは腹の虫が収
        まらないわ!」

        「ハハハッ! 腹の虫が収まらないか。それにしても大したガキ共だ。
        ここから本気で逃げ出そうとするとはな」

        殴り続けた手を止めたお義父さんは、ヒステリックに叫ぶお義母さんに
        目を向けた。
        そして、わたしと孝太の顔を交互に見比べていた。

        「どっちが、こざかしい作戦を練ったのか聞いてみたいが、たぶんお前
        たちのことだ。互いに庇い立てをして埒が開かんだろうな。それでだ、
        お前たちの身体に直接訊いてやる。まずは服を脱いで素っ裸になるんだ」

        お義父さんの低い声が、地下室の壁に吸い込まれていく。
        わたしと孝太は、顔を見合わせてブルブルと震えていた。



        5分後……
        わたしと孝太は、地下室の壁に背中を向けて立たされていた。
        腕組みしたお義父さんとお義母さんの視線に舐め回されながら、わたし
        は胸とアソコを隠して。
        孝太は男の子の部分を両手で覆って。

        お義父さんに裸になるように命令されて、お義母さんが手にした鞭で床
        をビシッと鳴らされたら、もう身体が勝手に反応していた。
        わたしも孝太も競い合うようにして、着ていたモノを剥ぎ取っていた。

        「二人とも、手がジャマよ。さっさとおのけ」

        ビシィィッッ!

        「ひいっ! は、はい……孝太も、早く……」

        打ち鳴らされる鞭音がレンガの壁に反響して、わたしは両手を引き剥が
        すと腰の横に押し付ける。
        唇を噛んで抵抗しようとした孝太にも、そっと耳打ちして同じポーズに
        誘う。

        「ほおぅ、千津子の言う通り中々の上物だな。生娘だと聞いたが、あん
        な藪医者に水揚げさせるのは、ちと惜しいな」

        「もぉ、ここにきて心変わりは嫌ですよ。それよりもアナタにお願いが
        あるの。孝太のことなんだけど……ね、いいでしょう?」

        「あぁ、千津子の好きにするがいいさ。だが、ケジメは付けさせてもら
        うぞ。お遊びはその後でな」

        わたしは二人の会話を耳にしながら、下を俯いていた。
        お義母さんだけではない。お義父さんにまで
        素肌を全部晒して、それで平然と前を向けるほど遥香の心は強くないも
        の。
        でもそれは、孝太も一緒みたい。
        じっとコンクリートの床と睨めっこするように、痛々しく腫れ上がった
        顔を俯けている。
        そうよね、男の子だってアソコを隠さなかったら恥ずかしいよね。
        その気持ちって、男の子も女の子も共通だよね。

        「遥香、こっちへ来るんだ」

        「孝太は、アタシの方だよ」

        全裸のまま晒しものにされていたわたし達を二人が呼んだ。
        わたしは孝太の背中に手を当てる。軽く撫でてあげた。
        ボディーガードのように頼もしい孝太の勇気を分けてもらいたくて。
        代わりに、女の子だけが持っている母性愛で、残された孝太のハートを
        包んであげたくて。

        そしてわたしは、お義父さんの元へ向かった。
        孝太は、鞭をぶら下げたお義母さんの方へ歩いていく。

        「遥香、股を拡げろ」

        「……!」

        「聞こえなかったか? 股を拡げてオマ○コを見せろと言ったんだ!」

        パシィィッッ!
        「痛いッ! は、はい……」

        お義父さんのグローブみたいな手の平が、わたしのお尻に炸裂した。
        骨まで伝わる激痛に、反抗する無意味さを教えられて足を開いていく。
        目の前にいるのは男の人なのに、またぶたれるのが怖くて、恥じらいも
        忘れたわたしは肩幅いっぱいに両足を拡げた。

        「ふんっ、素直にしないから痛い目に合うんだ。覚えとくんだな」

        「……はい、お義父さん」

        涙を滲ませながらしおらしく返事をしたら、お義父さんが目を細めた。
        ギラ付いた輝きを細い瞳に閉じ込めたまま、ゆっくりしゃがむと右腕を
        伸ばしてくる。
        内股の筋肉が震えているのに平然とその間を真っ直ぐに進ませて、遥香
        の恥ずかしいお肉に触れた。
        お義父さんなのに。親子なのに。
        娘になったばかりの遥香の割れ目に、当然のように指を沈めた。

        じゅにゅ、じゅにゅ……にちゅ、にちゅ……

        「嫌ぁっ! やめてぇ……触らないでぇっ!」

        「うるさい! 暴れたらまたケツを叩くぞ!」

        「あ、あぁぁっ……それは、許して……」

        ゴツゴツして骨ばった指が、割れ目のヒダをスルスルと擦り上げていく。
        おぞましくて全身の肌が鳥肌に変化して、それでもわたしはされるがま
        まに、じっと我慢するしかなくて。

        「あらぁ、勃ってきたじゃない。皮被りだけどちゃんと男の子してるの
        ね」

        「お義母さん、止めて……うぐっ、あ、ああ……」

        「孝太……やだ、ひどすぎる……んんっ……」

        わたしはお義母さんに弄ばれる孝太に顔を向けた。
        気持ち悪いだけなのに、段々熱を帯びてくる自分のアソコが信じられな
        いまま、男の子の部分を弄るお義母さんを茫然と見つめていた。

        ぬちゅう、にちゃ、にちゃ……ぴちゅ、ぴちゅ、ぴちゅ……

        「はぁ、はああぁぁぁ……やだぁ、腰が……お義父さん、もう……やめ
        て、ふうぅぅんんっ」

        「遥香は感じやすい体質のようだな。こんなに父親の指を汚しよって。
        いけない娘だ」

        指が動くたびに腰が揺れている。
        お義父さんが指先を揃えて、割れ目の底まで引っ掻くたびに鋭い電流が
        背筋を貫いていく。

        これって感じているの?
        遥香はお義父さんの指にアソコを弄られて、エッチな気分になってる
        の?
        分かっているのに。遥香はこっそりとオナニーするエッチな女の子だか
        ら知っているのに。

        わたしは顔を伏せて目も伏せて、顔を赤らめたまま鼻呼吸を荒くしてい
        た。
        ちょっぴり目を潤ませたまま、お尻もモゾモゾさせた。








姉と弟~黒い糸で引き合う処は?






















【第12話】


        
        「どぉれ、そろそろいいだろう。直に触らんでも大きく勃起させやがっ
        て。千津子、孝太の方はどうだ?」

        「ええ、充分に盛りの付いた男に」

        お義父さんがお義母さんに話しかけて、割れ目のお肉から指の気配が消
        えた。
        エッチな快感に浸り掛けていた遥香の腰が、指先を追って前に突き出そ
        うとする。

        「遥香、じっとしているんだぞ。今からいいモノを着けてやるからな」

        「孝太、お前もだよ。暴れたりしたら遥香と一緒に鞭打ちだからね」

        「えっ? なに?! い、イヤ……お義父さんっ、そこはダメェッ! ひ
        ゃああぁっっ、痛いッ!」

        「うはぁっ……お義母さん、握らないで……な、何を? いぃ、痛いッ
        ッ!」

        わたしが悲鳴を上げて、孝太も擦れた声で叫んだ。
        お義父さんの指に巻き付いた、光沢のある黒い木綿糸。
        その先端が小さな輪っかにされて、遥香の股間に運ばれてくる。
        エッチなお汁で濡れた割れ目にチュブっと沈めて湿らせて、先端にひっ
        ついた突起に絡めていく。
        お義父さんの指に感じて大きくなった遥香のクリトリスに、黒い糸の輪
        っかが結びつけられていた。

        「千津子、そっちは準備できたか?」

        「ばっちりよ。孝太のオチ○チンの根元に、グルグル巻きで縛り付けて
        あげたわ」

        いったいどうしようというの?
        この人達は、何を考えているの?

        大きな身体が目の前から離れて、わたしはうずくまったままの孝太を見
        つめた。
        遥香の股間から孝太の股間へと繋がった、細くて黒い糸をぼぉっと眺め
        ていた。

        「どう、アナタ達。オマ○コとオチ○チンを黒い糸で結ばれた気分は? 
        愛し合ってるなら赤い糸だけど、遥香と孝太は姉弟だからね。それに脱
        走という罪を犯したんだ。黒色がお似合いだろ」

        「そういうことだ。どちらがふざけた計画を思い付いたか知らんが、今
        からたっぷりとお前たちの身体に訊いてやるから覚悟するといい」

        赤黒く変色したレンガの壁に、お義母さんのネットリとした声が塗り込
        められる。
        お義父さんの低く唸るような声がその壁に反響して、何度も繰り返して
        わたしの鼓膜に囁きかけてくる。

        「聞いてください、お義父さん。ここを逃げるように言い出したのは僕
        なんです。お姉ちゃんはただ従っただけです」

        「孝太、なにを言うの。この家から逃げようって持ち掛けたのはわたし
        です。目の見えない弟は言いなりになっただけです。お義母さん、罰を
        与えるなら遥香にお願いします。どうか孝太は許してやってください」

        わたしは孝太の背中を抱き締めたまま訴えた。
        孝太はきっと天の邪鬼だから、わたしとは正反対の言葉で告発した。

        今更こんなことを口にしたって、サディストなこの夫婦を悦ばせるだけ。
        遥香の理性が首を振って哀しい顔をするけど、温かい孝太の肌に傷をつ
        けさせるなんて。そんなこと、お姉ちゃんのわたしが阻止しないと。

        「ふふふっ、麗しい姉弟愛だねぇ。ゾクゾクするじゃない」

        「ああ、その姉弟愛とやらを、今からたっぷりと観賞させてもらおうじ
        ゃないか。遥香、孝太、スキンシップはそれくらいにして離れるんだ!」

        「ひぃ、き、キャァ……孝太……孝ちゃん……」

        「お、お姉ちゃん?」

        お義父の太い両腕がわたしを羽交い絞めにした。
        そのまま繋がった糸がピンと張るくらいに孝太から引き離されていく。
        そして、無理やり仰向けに寝かされると、今度は背中に腕を差し込んで
        持ち上げてきた。
        両腕と両足だけが冷たい床に触れて、その姿勢で身体を支えろというよ
        うに。

        そう、わたしは背中を反らさないブリッジのポーズを取らされていた。
        逆手のように拡げた手のひらで上半身を支えて。
        はしたなく太股を拡げたままヒザを折り曲げて、足の裏全体で下半身を
        支えて。

        「ほら、孝太も遥香を見習って、同じ格好をするんだよ」

        「な、なにを? 放して、お義母さん」

        「孝太まで……どうして……」

        わたしはなんとか首を持ち上げると、向かい合わせで同じポーズを取ら
        される孝太を見つめた。
        お互いに胸とお腹を天井に向けたまま両手と両足だけで身体を支えて。
        遥香と一緒だね。太股の筋肉を緊張させながら、恥ずかしいのに股関節
        を90度に拡げて。

        「遥香、アンタなにをジロジロ見てるんだい? そんなに弟のオチ○チ
        ンが気になるのかい? 生娘のくせにスケベな娘だねぇ」

        「ち、違います。わたしは、そんな……」

        「そんな? ああ、オチ○チンより繋がった糸の方が気になってるのか
        い。遥香のクリトリスと孝太のオチ○チンを結ぶ黒い糸だからね」

        わたしは孝太から視線を逸らせると天井を見つめた。
        丸い傘の下で黄ばんだ色で輝く白熱球をじっと眺めていた。

        これ以上、孝太を苦しめたくないもの。
        つい覗いてしまった遥香の行為を、大げさにあげつらうお義母さんに利
        用されたくないもの。
        だけど……孝ちゃん、ホントにごめんね。
        でも……孝太の大切な処を、お姉ちゃんは初めて見ちゃった。
        こんな格好をお互いさせられて、わたしだけ見るのって不公平だと思う
        けど、孝ちゃんのアソコって大人だったんだね。
        その……お、オチ○チンも大きくて逞しくて、お姉ちゃんびっくりしち
        ゃった。

        「それにしても、アナタって人は残酷な人ねぇ。血の繋がった姉弟にこ
        んな格好をさせるなんてさ」

        「とかなんとか言いながら、千津子も満更ではないといった顔付きだな。
        まあ、ショーは始まったばかりだ。じっくりと愉しむがいいさ。遥香と
        孝太、お前たちもな。ははははっ……」

        それは、人ではない。悪魔の笑い声だった。
        そう、こんなひどいことを思い付くのは、あったかい血の通った人なん
        かじゃない。
        この人達は……



        「うぐぅっ! 痛いッ! 孝太ぁ……やめてぇっ……んぐっ」

        「おぉ。お姉ちゃんこそ……そんなに引かないでぇ……」

        「いいぞ、遥香。もっと踏ん張れ!」

        「孝太もよぉ。アンタは男の子なんだから、腰に力を入れて……ほらぁ、
        しっかり引くのよ!」

        わたしと孝太は、綱引きをさせられていた。
        囃し立てるお義父さんとお義母さんの声援を受けながら、仰向けの身体
        を両手足だけで支えて、ピンと張った黒い糸を引き合っていた。
        孝太のオチ○チンと遥香のクリトリスに括りつけられた木綿の糸を、引
        っ張り合って綱引きしているの。

        「い、痛い……あぁっ、お豆がぁ……ひぐぅっ!」

        「キャハハハッ! 孝太、その調子よ。オチ○チンに気合を入れなさい。
        勝って、身体で証明するのよ。脱走を持ち掛けたのは孝太だってね」

        孝太が呻きながら、腰を引いた。
        大きくなったままのオチ○チンが、黒い糸に添って真っ直ぐに伸びた。
        そうしたらクリトリスに激痛が走って、怖気づいたわたしの手足が2歩
        3歩と引きずられる。
        孝太を勝利させて、罪を押し付けるように。

        「どうした、遥香。肉芽が痛くて動けんか? だがな勝たなければ褒美
        はやれんぞ。ケツの鞭打ち100回のな。ハハハハッ……」

        そういうこと。この綱引きの勝者は、罪を認めてお尻を鞭で叩いてもら
        えるの。
        お義母さんが手にしている細長くて弓のようにしなる鞭で、100回も
        お尻のお肉をぶってもらえるの。
        譲れるわけないよね、そんな特典。
        あっさり負けて、孝太に譲ったりしたらいけないよね。
        鞭打ちって、ちょっぴり怖いけど。でもね、遥香は鞭で叩かれて悦ぶ変
        態だから。
        たった今から痛いこと大好きな女の子に変身してあげるから。
        クリトリスだって……








糸を引いて、淫語を口にして






















【第13話】


        
        「ひうぅっっ! はぁ、はうぅっ……負けない! 負けないからぁっ!」

        わたしは前のめりになりかけた手足を踏ん張らせると、お腹に力を込め
        た。
        アソコにも気合いを入れて、クリトリスの根元に絡んだ糸をクイクイと
        引いた。
        腰を揺するたびに、敏感なお豆が千切れそうになる。
        涙腺が決壊して熱いモノが目尻を垂れてるけど、それがどうしたのって
        顔で両手を引いた。両足も引いた。

        「うはぁっ! お姉ちゃん……止めてよ、もう……諦めてよ」

        わたしが引いて、孝太が泣きそうな声を漏らした。
        1メートルくらいの距離を置いて、その中間に記されたチョークのライ
        ンにまで巻き返してみせる。

        「あらぁ、ダメじゃない孝太。そんな大きなモノをぶら下げて、遥香の
        お豆に負けてどうするのよ。あ、そうだ! 綱引きなんだから掛け声を
        出しなさいよ。そう、孝太は男の子なんだから、オチ○チンって叫ぶの
        はどうかしら?」

        「ナイスアイデアだ、千津子。さしずめそれだったら、遥香は女だから、
        オマ○コでいいな。ほら二人とも聞いただろ、連呼しながら糸を引くん
        だ!」

        お義父さんはそう命じると、ピンと張った糸に指を当てた。
        爪の部分を糸に密着させてから勢いよく弾いてみせる。

        「ひぃ、ひぐぅっ……お、オマ○コ……オマ○コぉ、オマ○コぉっ!」

        「あぁ、あぐぅっ……お、オチ○チン……オチ○チン、オチ○チンっ!」

        わたしが禁句の四文字を口にして連呼して。
        孝太も一緒になって、やけっぱちな声で叫んでみせて。

        こんな惨めな綱引きをいつまで続ければいいの?
        悦んでいるのは、身も心も引き裂かれる痛みを知らない二人連れだけ。
        そんな淫らで哀しい糸引きを、わたしと孝太はどうして見せなくちゃい
        けないの?

        「うくっ、グッ……オマ○コ、オマ○コぉ、オマ○コぉっ!」

        「お、お姉ちゃん、きつい……オチ○チン、オチ○チン、オチ○チンっ!」

        疑問と虚しさがごちゃ混ぜになって、頭の中を駆け巡っている。
        わたしはノタウツような痛みと闘いながら、答えを探して顔を持ち上げ
        た。
        目を閉じたままの孝太も、わたしの気配を感じたの? 顔をこっちへ向
        けた。

        辛いよね、孝ちゃん。
        お互いに恥ずかしい処をすべて晒して、こんなバカなことをさせられる
        なんて。
        でもね、クリトリスがもげそうなくらい痛くたって、この糸で孝ちゃん
        のオチ○チンと繋がっていると思うと、なんだか不思議な気分。

        口を開けば、孝太もわたしも禁句の単語しかしゃべらせてもらえない。
        だからこうして、アソコとアソコを結んだ糸を糸電話みたいにして、想
        いを伝え合っているの。
        お義父さんやお義母さんに気付かれないように。

        そしてわたしは、勝者を意識して腰を思いっきり引いた。
        「オマ○コッ!」って汚れた声で絶叫しながら、クリトリスが千切れる
        んじゃないのかって。
        そんな覚悟で腰を何度も何度もしゃくってみせた。

        「クッアァァッッ! オマ○コッ、オマ○コォッ、オマ○コォッッ!!」

        だけどその想いは、孝太も同じだった。
        ギリギリと歯を噛んで、わたしの腰運動が息切れするのを見計らって、
        ずるずると手足を動かした。
        グイッグイッと勢いよくじゃなくて、ジワァッと遥香のクリトリスが痛
        まないように優しく、でも力強く!

        「んぐぁっ! オチ○チンッ、オチ○チンッ、オチ○チンッッ!!」

        孝太の声が涙で擦れた。
        わたしは孝太の心の叫びを鼓膜で拾いながら、手足を滑らせていた。
        頼もしい孝太の声に導かれて。逞しく感じる孝太の心に打たれて。
        遥香のクリトリスを労わりながらリードする、孝太のオチ○チンにもち
        ょっぴり惚れて。



        「決まったな」

        「孝太、鞭打ちの覚悟はいいわね」

        全てが終わって、全身から汗を噴き出させているわたしと孝太を、この
        人達は見下ろしていた。
        運動もしていないのに、鼻息だけ荒くして顔を紅潮させて、落ち着かな
        いようにツマ先を持ち上げては床に下ろして。

        「遥香、アンタは部屋に戻ってもいいんだよ」

        「いえ、ここに残ります」

        わたしはコンクリートの床の上で正座すると、お義母さんを見上げた。

        「お願いがあります。せめて孝太の傍にいることをお許しください」

        上目遣いにそうお願いをすると、堅い床にオデコを擦りつけていた。
        この人達のOKが出るまで、いつまででもそうするつもりで。
        今の遥香に出来ることは、これくらいしか残されていないから。

        「いいだろう。孝太が鞭で打たれている間、寄り添ってやるんだな。そ
        の代わりだ。遥香、お前がカウントするんだ。わかったな」

        空から降ってきた踏ん反り返った声に、わたしは頭を持ち上げると大き
        く頷いてみせる。
        そして、お義母さんによって四つん這いにさせられた孝太に近寄ると、
        何も言わずにほっぺたを背中に当てた。
        微かに震えている汗ばんだ肌に唇までひっつけて、その時を静かに迎え
        た。

        びゅいぃんんッッ! ピシィィッッ!!

        「うぐゥゥッッ! ンアァァッッ!」

        「1回ィッ!」

        孝太が絶叫して、わたしは喉が裂ける思いでカウントを始めた。
        これが地獄なんだと、瞳と鼓膜に焼き付けながら。








メモ用紙が繋ぐ、微かな希望






















【第14話】


        
        「遥香様、お薬をお持ちしました」

        「ありがとう、弥生さん」

        わたしは弥生さんが持ってきたトレイを受け取ると、ベッド脇にあるサ
        イドテーブルに置いた。
        木製の丸い器の中には、ガラス製の水差しと痛み止めのお薬、それに小
        さく折りたたまれたメモ用紙が。

        『弥生さん、このメモは?』
        思わず口を開こうとして、わたしはその唇に手を当てた。
        彼女が首を真横に振って、人差し指を伸ばした右手でベッドの下を示し
        たから。

        誰かに監視されているってこと?
        もしかして、盗聴器?
        スパイ映画なんかでは、そういったシーンを見かけるけど……
        そうだよね、この屋敷の住人ならやりかねないもの。

        「では、私はこれで。後でトレイは回収に伺いますので、そのままにし
        ておいて下さい」

        徹底して無感情、無表情。
        エッチなメイド服を着た弥生さんは、淡々と要件だけを伝えると一礼し
        て部屋を出ていった。
        わたしは閉じられたドアに向けて頭を下げる。

        几帳面な性格を物語っている丁寧な折り目の付いたメモ紙。
        それに気を取られながらも、わたしはふぅっと息を吐いた。
        緊張して凝り固まった肩から力を抜いた。

        そして、目尻を垂れさせたお姉ちゃんの顔で、ベッドに横たわる孝太に
        目を落としていた。
        お義父さんの放った鞭打ちに必死で耐え続けた年下なボディーガードの
        寝顔を、ぼやけていく眼差しで見つめた。

        『びゅいぃんんッッ! ピシィィッッ!! 「ンンッ! ムグゥゥッ
        ッ!」「き、92回ッ!」』

        まぶたの裏側では、今でも鞭が唸り続けている。
        孝太が血を吐くように呻いて、わたしが血が滲んだ喉でカウントをして
        いる。

        (孝ちゃん、痛かったでしょう。でも、格好良くて男らしかったよ。お
        姉ちゃんのために頑張ってくれたんだよね。ありがとうね)

        本当は『ごめんね、孝ちゃん』って、心の中で謝りたかった。
        ううん、抱き締めてあげて耳元で、『ごめんね、ごめんね』って何度でも。
        何百回でも。
        だけど、たぶん孝太はそんな言葉を望んでなんかいない。
        姉弟として当然のことをしたって、胸を張って鞭打たれたんだから、そ
        の想いは大切にしないといけないの。

        「う、うぅっ……グス……グスン……」

        そう思った途端、わたしは泣きだしていた。
        鼻をすすって、小さな子供のように両目を手の甲で擦って。
        その指の隙間から、熱いモノ染みださせて。

        涙を落としたら謝っているのと同じになるのに、どうしたらいいの。
        泣いたって、孝太の痛みが和らぐわけじゃないのに。
        そんな泣き声を耳を澄ました誰かが、ほくそ笑んで聞いているのに。

        でも後から後から溢れてきて流れ落ちて。
        目尻を滑り落ちたそれが、孝太のおでこを濡らした。
        青ざめたままのほっぺたのお肉も濡らした。

        「んんっ……はあ、はぁ……母さん……お母さん……」

        「こ、孝ちゃん……?」

        うなされながら、孝太が右手を伸ばしてきた。
        わたしは、男の子にしては華奢なその腕を手に取ると、迷わずに胸に抱
        いた。
        くり抜かれたブラウスから飛び出した遥香のおっぱいに触れさせてあげ
        て。

        記憶の彼方のお母さんを蘇らせようとして。
        ちょっと小さくて頼りない乳房だけど、夢の中で戯れている指先に好き
        にさせて、お母さんの面影に少しでも近付けようとして。

        (いいのよ、孝ちゃん。お姉ちゃんのおっぱいを弄っても。もっと摘ま
        んでも、揉んでくれたって全然構わないから。孝ちゃんがしたいように
        ……それで辛い痛みが癒されるんだったら、遥香は……)



        痛み止めの薬が効いたのか、孝太の寝息が穏やかなものに変わる。
        わたしは物音を立てないように意識しながら、添えられたメモ用紙を開
        いた。
        たぶん、弥生さんの文字だと思う。
        女性らしさが滲み出た文面を一字一句脳裡に刻みながら目を通していく。

        『遥香様へ。今夜行われる予定だった儀式は中止になったようです。ど
        うか安心して孝太様に付き添ってあげてください。但し、あのモノ達は
        諦めていません。数日中に、新たな儀式を計画し参加を命じると思いま
        す。
        私達は遥香様や孝太様の身の回りのお世話しか出来ません。お辛いのは
        分かりますが今は耐えてください。そうすれば、いつかきっと……宗像
        弥生、皐月』

        わたしは、メモ用紙に並んだ文字を追いながら目頭を熱くした。
        最後に彼女達の名前に目を落として、胸の中まで熱くしていた。

        (ありがとう。弥生さん、それに皐月さん)

        残酷な悪魔が棲みついている屋敷の中で、わたしや孝太のことを本気で
        想ってくれている。
        そんな仲間が身近にいて見守ってくれている。
        そう思うだけで、希望の2文字が頭に浮かんだ。
        胸の中に溜まり続けた嫌なモノが、目にしたメモ用紙に浄化されて、顔
        の筋肉が勝手に緩んでいく。
        また涙が溢れてきて、また泣きだして。でも、混ぜこぜにして笑って。

        わたしは、血の気が戻ってきた孝太に顔を寄せた。
        メモ用紙を力のない指に握らせながら、おでことおでこをひっつけてい
        た。

        孝ちゃんも目が覚めればいいのに。
        そうしたら、今すぐに耳元に口を当てて囁いてあげるのに。
        場違いなくらいに弾んだ声で。

        『お姉ちゃんは、孝ちゃんから勇気をもらったの。それでね、弥生さん
        と皐月さんからは希望をプレゼントされたの。今は霞んでいて、とって
        も儚げだけど。恥ずかしくてエッチなことだって我慢して耐えていれば、
        いつかきっとだよ。幸せが舞い降りてくるかも。お姉ちゃんの元にも、
        孝ちゃんの元にも。弥生さんにだって皐月さんにだって』

        メモに書かれていた儀式。それがわたしにとっての、エッチデビューの
        日。処女喪失の日。
        今だってとっても怖ろしい。想像しただけで全身が震えている。
        でも、もう逃げないから。
        遥香は舌舐めずりして待っている悪魔達に堂々と立ち向かうから。
        堂々と、エッチしてセックスするから。