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4月 6日 日曜日 午後2時 岡本 典子 河添に抱かれてから一週間が経っていた。
「博幸。あなたがいなくなって、もう半年だね。
季節がどんどん進んで、ほら、もう桜が満開。
窓を開けているから遠くに見えるでしょ? 市民公園の一面のピンクが……」
私は寝室のベッドに腰を降ろしたまま、手にした写真立てに話しかけていた。
目の前に楽しい何かがあったのかな? それとも、内心から溢れる嬉しさなのかな?
写真の中の博幸の笑顔は、キラキラと輝いていた。
迷いも戸惑いも感じない眩しいくらい純な笑顔だった。
「……この前ね、隣の地区で再開発の工事が始まったのよ。
あっという間に更地にされて、今では足場を組んだ高層マンションがずらりと並んでる。
……でもね、大丈夫よ博幸。
この地区の再開発は、まだ始まっていないし、始めさせないから。
私が……典子が、阻止してみせるから!
あなたと私の宝物の、このお店も絶対に守ってみせるから!
だから、安心して……
ふふっ……今日はそんなことより、ふたりで……お花見を楽しみましょ。
典子ねぇ、博幸を悦ばせたくて……色々と……考えたんだから……」
どうしちゃったのかな?
話しながら、どんどん顔が赤らんで、火照ってきちゃう。
途中までは、博幸の目を見て話せていたのに、話し終わる頃には、もう新婚ホヤホヤの夫婦みたいに、目を伏せているなんて……
でも、そろそろ準備しないとね。
私は、ベッド脇にあるサイドテーブルに、写真立てを置いた。
ベッドに座る私がよく見えるように、角度も調整する。
隣にスマホを立て掛けた。
レンズを私に向けて、動画撮影のアプリを立ち上げる。
やっていいのよね?
本当にしていいのよね?
ずるくて卑怯な典子の良心が、責任を回避するように問い掛けてくる。
私は答えを示すように、写真立ての博幸に負けないくらいの笑顔をつくってあげた。
「今日は、気持ちいいね。
さ、博幸、お花見……始めようか?」
ベッドの上で正座したまま、シャツのボタンを全部外した。
今日のお花見に合わせた桜色の袖から、腕を引き抜くようにして脱ぎ去った。
背中に両手を回してブラを外す。
そして、気持ちがグラつく前に片づけちゃおうと、足を崩してスカートの中に両手の指を這わせた。
ウエストのゴムを引っ張るようにして、スルスルと足の上を滑らせていく。
足首から抜き取ったショーツをブラと一緒にして、シャツの下にそっとしまう。
私は、博幸とスマホのレンズを交互に見ながら、スカート1枚の姿になっていた。
横座りでおへそを隠すように両手を前でクロスさせて……
「お、驚いた博幸?
で、でもね。こんな気持ちのいい休日……もっと楽しまないとね。
あなたも感じるでしょ?
窓から吹き込む春の風と柔らかい日差し……
そうよ、典子もそれを……す、素肌で……ありのままに感じたいの」
我ながら、笑うしかないくらいの苦しい言い訳。
でも、それでいいのよって、自分を納得させないと、博幸が、目のやり場に困っちゃうでしょ。
だから、何でもない顔して、日光浴するように胸を反らせるの。
そうして、全身が火照るのも太陽のせいにして、雲の隙間から日が差し込むのを待ち続けるの。
あとは……窓の外の景色をちょっとだけ気にして……
スマホのレンズをちょっとだけ気にして……
私は、博幸を見つめるときだけ笑顔をつくるの。
「典子、今日はねぇ。博幸が好みだったスカートを履いているのよ。
ひざが完全に露出しちゃってる、ブルーのフレアースカート。
ほら、覚えてる?
私が、ちょっと露出気味かな? って迷いながら、お店に出たときのこと……
博幸ったら、いいよ。全然大丈夫だよって言っておきながら、鼻の下をちゃっかり伸ばしていたでしょ。
私、ちゃーんと見てたんだから……
……でもね、今日は特別なの。
もっと、もっと……サービスしてあげるね」
私は両足に力を込めると、お尻をベッドに密着させたまま、ひざを立てた。
そのままひざの内側に手のひらをあてて、外側へとひらいていく。
シーツの上を足の裏が滑るように、左と右に分かれて、冷たい春の風が、スカートの中でクルクルって渦を巻いた。
やっぱり、自分から見せるのって恥ずかしい。
思わず、『お願い博幸、見ないで』って、声にならない可愛い声で何度もお願いしてた。
でも、続けないといけないの。
今日は博幸との楽しいお花見なんだから……
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