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9月 10日 水曜日 午前8時20分 水上 千里 相変わらず、諦めきれない茜ちゃんの声が上の方から響いてくる。
それに、もう時間だってない!
頭の中を駆け回るのは最悪の事態。
それを回避するには?
そうよ。巨大ペニスを千里のオッパイと唇で満足させるしか道はないの。
お願いだから、早く射精して……!
お願いだから、千里をこの地獄から解放して……!
そして、その願いが通じたのか、巨大ペニスがますます硬度を増していく。
「さぁ千里。特製精液をごちそうしてあげますよ。一滴残らず、飲み干してくださいね」
松山の囁くような声を、千里の耳が拾う。
同時に最後のスパートみたいに、巨大ペニスが口の中で暴れ回る。
苦しくて、吐きそうで……泣かされそうで……でも……千里は……
「むむんんぅぅぅぅッ! ちゅぱっ、ちゅぷっ……れろっ、れろっ、れろっ……ふむむぅぅっっ!」
「ぅぅぅううッ……出る……!」
どぴゅぅッ……どぷぅッ、どぷぅッ、どぷぅッ、どぷぅッ……どぴゅぅぅぅぅッ……!
巨大ペニスが、口の中で弾けた。
放出された大量の白い液が、唇の端から流れ落ちていく。
苦くて、ちょっと塩辛くて……
それ以上に、屈辱や恥辱が入り混じった耐えようもない味が、舌を刺激して口内の粘膜まで刺激した。
「んんむむぐぐッ……ゴクッ、ゴクッ、ごくっ、ごくっ……はぁッ、はぁぁッ……はぁッ、はぁぁッ……」
気持ち悪くて吐きそうなのに、意識して喉を鳴らした。
でも喉の奥にも食道にも粘い液体が絡まったみたいになって、なかなか下に落ちてくれない。
こんなの全部飲み込むなんて、絶対に無理よ。
ほら、また唇から糸を垂らしたみたいに、ポタリと落ちた。
「やっぱり……誰かいるの?」
茜ちゃんが行為の音に気がついたのか、階段を降り始めた。
カタカタと、軽いステップがコンクリートの階段に響いて、同時にストッキングを履いてない健康的な下半身が次第に露わになっていって。
本当に、もうだめ! 見つかっちゃう!
私は階段の方に背を向けて、裸のまましゃがみこんだ。
両目を閉じてブルブル震えた。
「……♪♪……業務連絡、業務連絡……榊原茜さん。至急、入院病棟6階のナース室まで……」
突然、茜ちゃんを呼び出す院内放送が鳴った。
「もう! なによ、こんな時に……」
茜ちゃんの不満そうな声が聞こえて、階段を半分近くまで降りていた足音が再び上へと帰っていく。
パタンッ……
最後に、扉の閉まる音が小さく響いた。
助かったの……?!
私はフラフラと立ち上がると、松山を見つめた。
「携帯……?」
彼が手にしている携帯に、この危機が偶然回避されたのではないことを察した。
「ちょっと危なかったですね。まさに危機一髪って感じで……
まあ、お陰でスリル満点の千里のパイズリショーを堪能できましたが……ははははっ……」
「なにがスリル満点よ! こんなところを見つかったら、ふたりとも身の破滅よ。ほんと……信じられない……」
堪えていた怒りが、マグマの噴火みたいに込み上げてきた。
それなのに、松山は平然とした顔で乱れた服装を整えている。
散々千里を弄んだ巨大ペニスも、今は整然とズボンの中に収まっている。
ちょっとよろける振りをして、急所を蹴りあげてやろうかしら?
そのくらいしたって、罰は当たらないよね。
私は、よからぬことを考えていた。
「ふっ……身の破滅……ですか。私も一度、経験したいものですね。
……ところで、千里は榊原君とは随分と仲がいいようですが?」
「……それが……なにか?」
松山の視線が一瞬遠くを彷徨い、慌てたように元のいやらしい視線を取り戻した。
でも私には、そんなことどうでもよかった。
松山が口にした、後の言葉が気になったから。
「いえいえ、別に深い意味はありませんよ。ただ、友情は大切にと思っただけです」
「ごまかさないでっ! まさか、アナタ……彼女にまで、変なこと考えていないでしょうね?」
自分の置かれた立場も忘れて、声を荒げていた。
脳裏に、私の体調を心配する茜ちゃんの姿が浮かんだ。
彼女には手を出して欲しくない。
いいえ! どんなことがあっても、出させるもんですか!
「だから、誤解ですよ。私には千里という淫乱ナースを、時田のコレクションに仕上げるのに手一杯なんです。
さすがに、もうひとりは面倒まで見切れないですね。特にあの出っ張りのない身体では……ははははっ……」
「そう……わかったわ。取り敢えず、アナタを信じてあげる。
でもね、ちょっとでも茜……いえ、榊原さんに変なことしたら、私……警察に駆けこむから」
こんなことで、脅しになるとは全然思わない。
でも、これ以上強気なことは……
ごめんなさい、今の千里には守らなくてはならない人がいるの。
だとしたら、これ以外に千里に出来ることって?
「では、私はもう行きますが、いくら千里が淫乱ナースでも、更衣室で素っ裸はマズイと思いますよ。
早く制服を身につけた方がいいんじゃないですか。
もちろん、ブラジャーとパンティーは禁止ですけどね」
松山は最後までいやらしい視線と屈辱的な捨て台詞を残して、更衣室を後にした。
「……茜ちゃん」
私は、急いで素肌の上からナース服だけを身にまとった。
そして、乱れた髪を手櫛で整えてナースキャップを載せ直した。
ロッカーの鏡に映る、ナース服姿の自分。
ニコッと笑顔を作ってみる。
鏡の中の自分は、引きつった笑顔を作る。
哀しい顔する。
鏡の中の自分は、思いっきり泣いている。
「朝から最悪の気分……辛いな。千里……こんなに足枷嵌められて、これからもナースのお仕事をがんばれるかな?」
ロッカーの扉を閉めてロックする。
私は重い足を引きずるように階段へ向かった。
上の方から聞こえてくる複数の人の話し声に、絶望の淵の一歩手前を感じた。
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