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人妻美穂と美大生 第3話



  
                                          


第3話  予期せぬ代償




         「謝ってくれたって、絵はもう元には戻らないんですよ!」
        「謝って済む問題じゃないですけど……でも……本当にごめんなさい……
        許してください……」

        管理人はその場に居づらくなってきたのか、まもなく「とにかく両者で
        よくお話合いください」とだけ告げて部屋から出て行った。
        修繕業者も「配管や風呂場の防水に問題が無いのでこれで失礼します」
        と言って管理人の後を追いかけるように帰って行った。
        原因者は自分であり被害者は階下の美大生なのだから、管理人や業者は
        損害賠償の交渉に介入するわけには行かない訳だから、早々と帰ってし
        まったのも仕方がなかった。

        私は小野原に散々愚痴られ平身低頭して謝りつづけた。
        油絵なら多少は水をはじくのだが、運悪く水彩画だったためかなり絵の
        具が滲んでいる。
        乾いてもおそらく跡形が残るだろう。
        家財道具であれば金額の高低はあるものの、金銭で弁償するか買い換え
        る方法だってある。特に衣類であればクリーニングで済むものもあるだ
        ろう。
        ところが、小野原が海外で描いたという絵はいったいどうすれば良いの
        だろうか。
        金銭で弁償する方法しか浮かばなった私は小野原に提案してみた。

        「小野原さん、お金で済む問題じゃないことは分かっていますが、その
        絵を弁償させていただけないでしょうか」
        「弁償?冗談言わないでください!そりゃ俺は貧乏な学生ですが、金で
        かたがつく問題じゃないですよ!」
        「そんなつもりで言ったのでは……」

        金銭補償を提案をしたことがかえって小野原の気分を害してしまったよ
        うだ。
        私は後から「しまった」と思ったがすでに後のまつりだった。

        私は途方に暮れてしまった。

        「お気を悪くさせてしまって申し訳ありません。ではどのような方法で
        絵の償いをすれば良いのでしょうか……」

        万策尽きた私としてはそう切り出すより他になかった。
        すると小野原から意外な答えが返ってきた。

        「この絵はもう諦めます」
        「えっ……?」

        小野原の思いがけない潔い返答に私はほっと胸を撫で下ろしたのだが、
        それもつかの間、その後に続いた彼の言葉に私は愕然とした。

        「その代わり……」
        「はい……」
        「その代わり、奥さんのヌードを描かせてください」

        突拍子もない小野原の申し出に私は思わず言葉を失ってしまった。

        「えっ?なんですって!?私のヌードを……ですか?」
        「嫌ですか?」
        「……」
        「どうなんですか?」

        私が返事に窮していると小野原は繰り返し回答を迫った。

        「確かに絵を濡らしてしまったのは私の不注意からです。それは認めま
        すし心よりお詫びします。だからといってヌードになれって……それは
        あんまりです……私、困ります……」

        「そんな都合の良い話はないんじゃないですか?奥さん、絵を濡らした
        ことを本心からすまないと思っておられるのなら、口だけじゃなくて態
        度で示してくれてもいいんじゃないですか?僕は奥さんにエッチなこと
        をするつもりなど毛頭ありません。ダメになってしまった絵の代わりに
        1枚描きたいだけなんですよ。きれいな奥さんをモデルにして……」

        『きれい』と言われて気分を害する女性はいない。
        褒め言葉は女心への柔軟剤になるのかも知れない。
        私は小野原のさりげない一言に思わず心を動かされてしまった。

        「そこまでおっしゃるなら……」
        「えっ?いいのですか!?」
        「はい、承知しました。絵を濡らしたのは私ですし、その償いはしなけ
        ればなりませんから……」

        その日は結局水漏れ後の清掃や後始末に終始し、明日の午前10時に再
        度小野原の部屋を訪問する約束をした。

        翌日、出勤の夫を見送り、洗濯も済ませた私は、約束の時刻に下階へ向
        かった。
        近所の目も考慮して衣服は普段着のカットソーとデニムスカートを着用
        することにした。
        小野原の部屋は真下の13階だ。
        私はわざとエレベーターを使わず人の少ない階段を利用した。
        階段を下りる脚が心なしか震えている。





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