(二十五)
八月 十四日 木曜日 午後九時 早野 有里 「これ、どうなっているのよッ!」
夕食後、わたしは、文字通り悪戦苦闘しながら、ビデオカメラと格闘していた。
昔から、電気機器には弱かった。
……と、いうより、機械に強い女の子の方が、珍しいよね。
大体、この分厚い説明書を読めっていうの……?!
こんなの眺めていたら、また睡魔が、こんばんわって挨拶してきそう。
それでも、苦心の末、三脚にカメラを取り付けることには成功した。
さあ、ここからが難題……
カチャッ、カチャチャ、カチャッ、カチャチャ……
説明書を読みたくないので、操作ボタンを適当に押しまくる。
あーでもない、こーでもないと……努力した結果……?
どうにか映せるようになり、わたしは、わたしを褒めてあげた。
そして、ベッドが映る角度を何度か調整して、納得したようにうなづくと、撮影ボタンを押した。
ブーン……ッ
低いモーター音と共に、レンズ下の撮影ランプが黄色く光り、誰もいないベッドを映し始める。
わたしは、急いでベッドの上でおひざをすると、レンズを見つめた。
じぃーっと1分間……
瞬き以外、全く動かずに……
こういう時って、どうするの?
上半身だけで、何か踊ってみるとか……
……でも、変だよね。
「……もういいかな」
わたしは、液晶モニターをくるりと返すと、迷いながら再生ボタンを押す。
液晶画面が一瞬揺らいで、1分前のわたしが映っていた。
……彼女は、笑っていなかった。
いつものポニーテールの髪を解き、ストレートな黒髪を肩で揃えた彼女の瞳は、挑むようにレンズを見つめている。
そこには、周囲に愛嬌を振りまく、いつもの明るい彼女はいなかった。
自分の背中に、家族の幸せを背負っている、わたしがひとり映っていた。
それから、2時間後……
「お母さん……もう、寝たかな……?」
わたしは、ぽつんとつぶくと、内から部屋のドアをロックした。
「カチャリ」と、滅多に使われない鍵が音を立てる。
そして、銀色の円盤を機械に差すと、再生ボタンを押し、テレビをつけた。
時刻は午後11時……
あまりのんびりとは、していられないようね。
ベッドに上がり、枕を抱え込むようにして、三角座りをする。
手元には、1冊の大学ノート……
これから、約1時間余り……
エッチなビデオを、ひとりで暗ーく見なくてはならないの。
目をそらすことも、うつむくのも禁止。
ひたすら見続ける姿を、ビデオカメラが証拠として、記録しているんだから……
テレビ画面に、突然テロップが映る。
シーン 1 早野有里 挨拶
カメラがズームアップして、レポート用紙を握り締めた少女を映し出す。
その、わたしそっくりな少女は、屈辱的な宣言文を読み始めた。
顔を赤らめ、時々辛いのか声を震わせている。
それでも、健気に笑顔は絶やさない。
……この女の子、中々やるわね。
そう思いながら、わたしは、2時間前の自分を思い出していた。
メールの着信音が部屋に響き、わたしは髪を乾かす手を止め、携帯をひらいた。
送り主は見なくてもわかる。
きっと副島……
本当は、このまま削除したいんだけど……そうもいかないよね。
チェックしながら、携帯を持つ手がガタガタと震えた。
これじゃ、読めないよ。
わたしは、机の上に携帯を置いて、顔を近づけた。
液晶に汗がポタポタと垂れる。
……今度はなに?
せっかくお風呂に入ったのに……わたしの顔、汗まみれになってた。
細々と記された指示内容をチェックし終えると、わたしは早速準備に取り掛かった。
箱から三脚とビデオカメラを取り出す。
不思議と哀しくなかった……
辛くもない……
早く片付けて眠る。
今のわたしは、そう思い込もうとしていた。
映像が流れ始めて、30分……
なるべく画面から目を離さないようにして、時々一時停止ボタンを押す。
そして、手元のノートに書き込んでいく。
きみ。傍から見て、わたしが何をしているか分かる……?
目を細めて、眼差しが真剣だから、テスト勉強をしている……?
ブブー……違うわよ。
お風呂から上がってかなり経つのに、白い肌は薄いピンク色のまま……
無意識に吐き出す荒い息……
たまに、びくっと身体を震わせて、手に持ったノートを取り落とす。
それでも、目をそらさない。
これで、分かったでしょ。
……分からないの?
……もういいッ。先に寝ててよッ!
画面の少女は、生まれたままの姿で、様々な痴態を演じ続けている。
赤く手形に染まったふくらみ……
時折、開いては閉じるヒップの割れ目……
そして、恥ずかしい陰毛の下で、いやらしい液を垂らし始めた、赤い肉の狭間……
わたしはおろか、相方の男さえ見えないシーンが、映像となって蘇る。
それを、ワンシーン、ワンシーン、チェックするように観察しては、震える指でノートに記していく。
滴り落ちる汗が、紙に染み込み、ジャマをした。
やがて画面の少女は、断末魔に近い哀しい声を発して、つま先を思いっきりのけ反らした。
男のものをお腹に飲み込んだだまま、身体を硬直させ、閉じたまぶたからは、涙が溢れ出している。
そして、画面に映し出される残酷な五文字……
処女膜喪失!!
わたしもまた、哀しくなった。
大粒の涙がぽたぽたと、とめどなく落ちてくる。
時折むせ返りながら、声を押し殺して泣いた。
咽び泣くわたしの傍らに、ひらいたままの携帯が置いてある。
画面には、副島からのメール……
先程は、失礼しました。
次に書いてある行為を、必ず実行しなさい。
行為の間、カメラの撮影ボタンは、ОNにしておくこと。
テレビの音声は、カメラが拾える程度に、出しておくこと。
ここからは、行為の内容です。
最初に、箱に同封してあった、DVDを見なさい。
そして、同じく同封してあるノートに、詳しく記録を残していきなさい。
ノートの中は、こうなっていると思います。
シーン 12
有里 おま○こ責め
おま○この状態及び、その他観察内容
色 詳しく
形 詳しく
濡れ方 詳しく
喘ぎ声 詳しく
その他……
なるべく詳しく、具体的に記しなさい。
有里様の表現力が試されます。
男が興奮するような、いやらしい表現を楽しみにまっています。
次の行為を説明します……
1時間余りで見終わる予定が、2時間以上掛ってしまった。
時刻は、午前1時過ぎ……
こんなに遅くまで起きていたのは、受験勉強以来かな。
頭がぼーっとして、身体がけだるくて……熱い。
朝、起きられるかな。
駄目だったら、学校休もう。
そして、思いっきり眠るんだ。
眠って全て忘れて……バカになればいい。
……そうだ、そうしよう。
そのためには、もうひとつの行為も、さっさと片付けよう。
今ならバカなもうひとりのわたしが手伝ってくれる。
……急がないと、理性の足音がする。
わたしは、書き終えたノートを乱雑にバッグに押し込むと、再びベッドに上がった。
そして、カメラの撮影ランプを確認すると、お尻を浮かせながら、パジャマのズボンを素早く脱いでいく。
……そう、今からオナニーをするんだ。
それも、カメラの前で……
誰にも見せない恥ずかしい行為……
冷静になったら、こんなこと出来ない。
だから今のうちに……わたしの理性が、帰って来る前に……
急かす心に指先がうろたえる。
引きちぎるように、パジャマの上着をはだけると、仰向けに寝そべった。
そっと右手の指先を、胸のふくらみに這わせ、左手の人差し指はくちびるに……
これが、わたしのオナニーの始め方……
胸の鼓動を手のひらで感じながら、ゆっくりと柔らかく、乳房を包み込む。
右手の手のひらで円を描くように、軽いタッチで優しく優しく撫でるように……
その状態で、前歯で軽く指を噛むと、安心感が湧いてくる。
「はぁっ、んふっ……」
ほら、手のひらに堅い突起が……ちょっと、くすぐったいかな。
眠っていた乳首が起きて来た。
あの男のやり方は、乱暴で痛いだけ……
ごめんね、わたしのおっぱい……
この前は、酷い目にあわせたよね。
お詫びに今晩は、たぁーっぷり可愛がってあげる。
ほら見てぇ、乳房に、気持ちいい汗が浮いてきた。
……そろそろ大丈夫かな。
この汗を伸ばすように、柔らかく、下からすくい上げる感じで……
「あああんっ、ふぅッ……んんんっ……」
胸の奥がきゅーんとなってくる。
指に吹き付ける熱い息……愛おしくてたまらない。
もっと刺激が欲しい……
おっぱいを、手のひらでぐっと押してみる。
指の間から、白いお肉が零れてる。
……でも、大丈夫。全然痛くない。
乳首はどうかな……?
指でそっと、弾いてみる。
「あぅぅぅっ、ふぅーっ……そこぉっ……んふぅぅぅ……」
胸の中を電気が走ったみたい。
もっともっと強い電気を感じたいな。
だから今度は大胆に……
おっぱいを上と下から絞り出して……そうしたら……
すごい、わたしの乳首……
こんなに堅くなって……
人指し指のお腹で、ごしごしと……
「はぁっ、はぁっ、だ、だめぇッ……ふぅんんんっ、あぁぁぁっ……」
勝手にいやらしい声が、漏れてくる。
もう、役に立たないな。わたしの左手……
指が、唾液でふやけてるじゃない。
……でも、許さないよ。
可哀そうだけど、お仕置きしてあげるんだから。
強く噛んで、そう、指先に舌を這わせてと……
おっぱいも、許してあげないよ。
もっと刺激をくれないと……
バストを持ち上げては離し、また絞りこねてみる。
そうだ、乳首も忘れちゃ可哀そう。
堅くなったわたしのさくらんぼ……
先端を弾いて、転がして、爪先を立てる。
そうしたら、頭の芯がパンと響いた。
「はうんんんっ、あぁぁぁぁ、んんんッ……んんんんんんっ……」
だめ、また声が漏れる。
わたしの濡れた指が……濡れたくちびるが……
甘い吐息を隙間から逃れさせ、風のように鳴き出させてしまう。
木綿のパンティーに包まれた、豊かな下腹部の妖しい踊りを、もう止められそうもない。
おっぱいだけなんて、ずるいよね。
あそこも、いじらないと……
わたしの唾液で光る左手は、ゆるゆると這うように肌の上で悪戯をする。
……やっと着いた、わたしの恥ずかしい処……
指先に熱いお湿りが広がってる。
いやだぁ、パンツまでびしょびしょ……
わたしは、恥ずかしそうに瞳を閉じた。
でも、これは演技……
言葉とは裏腹に、麻痺した心は、羞恥の快楽を求めているから……
中指のお腹で、布越しのスリットを何度も往復させる。
びちゅ、ぐしゅっ、びちゅ、ぐしゅっびちゅ、ぐしゅっ……
「ふぁぅぅっ、はぅんんッ……指が……気持いい……」
蕩けるような甘い刺激に、太ももが勝手に閉じたり開いたりする。
我慢できない。
もっと、いやらしくなりたい……
それに、急がないと理性が……
指が、布越しの割れ目に沈むたびに、淫らな染みが面積を広げる。
そんなこと、見なくてもわかってる。
パンツ脱いじゃおうかな……
もう、汚れてるし……
スルッ、スルスル……
わたしは、自分に言い訳しながら、パンツを下ろしていく。
濡れた股間に、エアコンの冷気が吹き付ける。
火照った肌が……気持ちいい。
脱いだパンツは、床にそっと落とした。
やっぱり見たくないよね。
本当は、オナニーする前から濡れていた。
ヴァージンを失くした映像に、わたしのあそこは、淫らに反応してた。
わたしっていやらしい女の子かな……
そんな女の子になりたくないな……
でも、今夜は特別……
両足を少しひらいて、指で探ってみる。
ぬちゃ、って音がした。
やだ、こんなに……?!
おっぱいは、後回し……
あそこを早くいじらなきゃ……
左手で大陰唇の扉を開けて、中のびらびらを右手の指を揃えて縦にこする。
爪を立てないように慎重にそっと……
ぐしゅ、じゅちゅっ、ぐしゅ、じゅちゅっ、ぐしゅ、じゅちゅっ……
「はああぁぁぁぁん、あそこぉ……うんんふぅぅんっ……感じるぅぅぅッ」
くちびるが、勝手に動いた。
……もう、好きにすればいいよ。
また溢れてきた……わたしのエッチな水……
もっと湧きださせてあげるね。
指を折り曲げて、壁の奥まで丁寧にこすって……
ヌチュッ、ぬちゅっ、ヌチュッ、ぬちゅっ、ヌチュッ、ぬちゅっうっ……
「ああぁぁっ、気持ちいいぃぃっ……はんんうっ、ぁぁあはんっ……」
絡みついたエッチな水が、油みたいにすべりを良くしてくれる。
でも、これだけでは、物足りないの。
もっと刺激が欲しい……
わたしは、指にたっぷり蜜を塗り付けると、もうひとつの感じる処……
クリトリスに丹念にまぶしていく。
堅くなってるわたしのお豆……
指が触れるたびに、どくんどくんと……波打つような刺激を脳がひろっていく。
「ふああぁぁぁっ、すごい……感じる……んあぁぁぁっ、はうぅぅッ」
2本の指で挟み込み、軽く捻ってみる。
思わず肩が震えて、お腹から全身へ強い電流が流れる。
声が出たけど、聞こえない。
もう、お上品にすることなんかないよね。
もっと足をひらいて……うん、これなら、やりやすいかも……
思いっきり両足をひらいて、左手の指は、エッチな水が溢れる割れ目を……
右手の指は感じるためだけの性器、クリトリスを……
それぞれ、こすって弾いて、こねくり回す。
ぬちゅっ、じゅちゅっ、ぬちゅっ、じゅちゅっ、ぬちゅっ、じゅちゅっ……
「ふぅぅぅぅんッ、気持ちいいぃぃッ、クリトリス……いいぃぃんんッ」
ヒザが震えて、腰を左右にくねらして、乱れた髪がおでこに張り付いている。
いやらしい卑猥な単語を、恥ずかしげもなく口走った気もする。
でも、どうだっていいの。そんなこと……
もう少しで届きそうだから……
早く終わらせて……わたしは眠るんだ。
チュプッ、ズブゥゥゥッ……
指を膣口に差し入れてみる。
……もっと深くまで指を沈ませよう。
今なら痛くないし、怖くもない……
指が2本、根元まですっぽり突き刺さる。
温かい……
わたしの膣ってこんなに暖かいんだ。
あの男も、この感じを味わったのかな……?
何だか悔しいな……
軋んだベッドに反応して、うっかり、ビデオカメラを見てしまった。
……現実が、帰って来る。
チュプゥッ、ヌチュッ、チュプゥッ、ヌチュッ、チュプゥッ、ヌチュッゥゥッ……
わたしは、焦ったように指を突き動かした。
指のお腹が、膣壁をこすって、滲み出てくるエッチな液を、根こそぎ掻き出していく。
右手の指は、尖った切っ先を狂ったように弾いて、潰して、嬲りまわす。
もう少し、もう少しだけ待ってちょうだい。
わたしの理性……
絶頂の快楽を思いっきり感じたいの。
だから、両足を踏ん張って、腰を高く掲げて、あそこを突き出して、両手の指で愛撫を繰り返した。
溢れたお汁が、股間を伝ってシーツを汚して……
くちびるが、エッチな喘ぎ声を何度も口にした。
……でも、何も感じない。
チュプッビチュッ、チュプッビチュッ、チュプッビチュッ、チュプッビチュッ……
膣に突き刺した指を、激しく往復させる。
水溜りに足を踏み入れたみたいな音が、部屋にこだまする。
……気持ちいい頂上が見えてきた。
わたしは見えない両手を広げた……
「はあぁぁッ、はあぁぁッ……もう……きもち……いいぃぃぃッ……」
子宮に届きそうなくらい、グッと指先を突き入れて、同時に手首をクリトリスに押し付ける。
空いた左手は、つぶれるくらいに、乳房をもんで、乳首に爪を立てた。
ぬちゅぅぅッ、ビチュぅぅッ、ぬちゅぅぅッ、ビチュぅぅッ、ぬちゅぅぅッ、ビチュぅぅッ……
何かが弾け飛んだ。
……瞬間、全てが真っ白になった。
何かを叫んで、唾液が宙を舞った。
「はああぁぁぁぁぁッ、イッ……イッ……イクぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ、んんんんんんぅぅぅぅぅッ……」
つま先立ちで高く反らした下腹部が、ピンと跳ね、ゆっくりと落下する。
終わった……
これで終わったんだ……
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……あぁっ」
わたしに取り付いた夢魔は去っていき、理性がしばらくと言って帰って来た。
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