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放課後の憂鬱   第5章  スタイリスト・前篇(4)


  
                                          


【第5章 (4)】



        
        「おぉ、すまんすまん。」
        岸田は平然として、馴れ馴れしく返事した。

        藍は自分のせいで遅れたので気が引けて、「・・・ごめんなさい、わたし
        が少し遅くなってしまって・・」と謝りかけた。

        岸田は藍の言葉を遮るように「いいんだよ! なぁ?」と女性の方に顔
        を合わせた。

        「しょうがないわね。この分はちゃんと返してもらうわよ。いいわね?」
        と女性が藍に聞いたので、「・・はい。すみません。」と藍は謝った。

        藍の返事があまりに神妙だったので、女性と岸田は「はっはっは」と同
        じように笑いだした。


        女性が自己紹介を始めた。

        「藍ちゃん、だったわよね? この前はどうも。私は七種真里。よろし
        くね。しばらくあなたのスタイリストをすることになったの。」

        藍は真里ようなタイプが苦手だったので、自分を担当すると言われて落
        胆したが、しかたないな・・と諦め「藍です。よろしくお願いします。」
        と挨拶をした。

        「藍、七種さんとこの前の水着のCMの、打ち合わせと衣装合わせをし
        てくれ。俺はちょっと用があるから後でまた迎えに来る。じゃ、あとは
        よろしく。」

        それだけ言うと岸田は軽く手を振って、部屋を出て行ってしまった。

        藍は、真里と二人きりで部屋に残されたが、相手は女性だったので特に
        不安は感じなかった。

        「藍ちゃん、あ、“藍”でいいわよね?」と真里が聞いた。

        藍は真里に怖いイメージがあったため、そんな風に言われて嬉しくなっ
        てきた。

        「あ、はい。もちろんです、七種さん。」
        「真里、でいいわよ。」
        「あ、じゃあ、真里・・さん。」
        二人は打ち解けて笑った。

        「さぁ、打ち合わせするわよ。いい? でもその前にお茶、かな?」

        真里が少しおどけてそう言うと、藍には姉のように思えてきて、一層親
        近感を深めた。

        「はいっ。いただきます。」
        藍はにこやかに答えた。

        真里がコーヒーを入れ藍の前に差し出すと、藍はすぐに口にした。
        真里も同じようにコーヒーを飲みながら、早速仕事の打ち合わせを始め
        た。

        「この前の印象だと、藍はあんまり水着のことは知らないわね?」
        「・・はい。あんまり体に自信なかったんで・・ちょっと・・」

        「そんなことないじゃない! きれいな体してるくせに。この前ちょっと見ちゃっ
        たから、知ってるわよぉ?!」
        「・・そぉですかぁ? でもなぁ・・」
        「そうよ! 私なんか見せらんないのに!」

        真里は軽く握った手で、藍の頭を“こつん”とたたいた。
        藍は自分の体を誉められたのと、真里がやさしかったので嬉しくて仕方
        なかった。

        「今度のはこれとこれと・・これかな? 競泳タイプだから薄手だけど
        心配いらないわよ!」
        「・・透けないんですか?」
        「そうなのよ。よく出来てるのよ。最近のは。試着してみようか?」

        真里は藍の不安材料を先回りして話すので、藍は安心して、こくんと首
        を縦に振った。

        「じゃあ、これを着てみて! あっ、あっちで着替えていいわよ。」

        真里は立ち上がると奥の部屋を指差し、藍に最初の水着を渡した。




※ この作品は、ひとみの内緒話管理人、イネの十四郎様から投稿していただきました。
  尚、著作権は、「ひとみの内緒話」及び著者である「ジャック様」に属しております。
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