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セクシーファッション その1























(三十二)


八月 二十二日 金曜日 午前九時三十分  早野 有里
  


「おはよう、有里。
……ほーぉ。
あなたがミニスカートなんて、珍しいわね。
……さては、男でも出来たかなぁ」

「わかるーっ……? 理佐ぁー……
実はねぇ、わたし好みのいい男が……って、わけないでしょッ!
ふふふ……ただのイメチェンよ。
いつでもラフなジーンズ姿ってのも、なんだかねぇ……
野暮ったいというか……かわいくないというか……
きっと、そう思ってる男子君もいるでしょ。
だからわたしも、ファッションに、もう少し気を使おうかなって、思ったわけなのよ」

わたしと理佐が、あいさつを兼ねたおバカな会話をしている最中も、次々と学生が、正門をくぐり抜けていく。
携帯をいじりながら黙々と歩いている人……
他愛も無い会話を繰り広げながら歩く、3、4人のグループ連れ……
それに、ふたりだけの世界に、どっぷり浸りきっている甘ーいカップル……

目の前で、わたしと話している彼女を含めて、いつもと変わらない朝の風景……
当然、わたしもって、言いたいところだけど……
悲しいくらい違うのよねぇ……

ふふふ……知りたい?

…… ……

でも、教えてあげなーい。
どうせ、きみはわかっているんでしょ?
今朝のわたしの姿……

まあ、その代わりと言ったら彼女に失礼だけど、わたしの友だちを紹介するね。

名前は、上條理佐。 
わたしと同じ、教育科に在籍する同級生なの。
彼女とは、大学に入学してから知り合ったんだけど、なんていうのかな?
うーん、一言で説明すると、ためになる情報屋さんかな。
どこで仕入れてくるのか知らないけど、とにかく大学内の人間関係なら、学生から学校関係者まで、すべて網羅しているって感じ。
わたしもちょくちょくお世話になっているんだけど、これは非常に便利。
こんな友人を持てたことを、ラッキーと思わないとね。

それで、美人かって……?
きみ、見ててわからないの?

……それ以上に、このお話に出てくるわたしの知り合いは、みーんな美人なの。
それに、性格もスタイルも完璧って、決まっているの。
きみも、この世界での生活が長いんだから、そのくらい、気が付いていると思ってたのに……

……って、わたし……なんか変なこと言った?
うーん、都合よく記憶がなくなっちゃった。

「でもねぇ、有里。上のタンクトップは、ちょっとやり過ぎだと思うよ。
ほら、男子の物欲しそうな目……
有里のセクシーファッションに釘付けだよ」

「そうかなぁ? この方が活動的でいいかなぁって思ったんだけど……」

そう言って、わたしは周囲に視線を走らせた。
目が合ってさりげなくそらす人。
それでもじーっと見続ける人。
そして、さげすむような視線を送る人。
因みに前者ふたつは、男子生徒。
後者はわたしと同じ女子生徒。

結論。わたし、注目されてる!
やっぱり……当然だよね。
わたしは、改めて自分の服装に視線を落とした。

普段のわたしは、ゆるゆる感たっぷりの長袖Tシャツに、デニムのジーンズが定番なんだけど……
今日の服装はギャップが激しすぎたみたい。

肩が全て露出する、ピンクのタンクトップに、太ももの半分くらいがむき出しの、バックにリボンの付いたフリルスカート。
おまけに、伸縮性のあるタンクトップの生地は、ボディーラインをしっかりと教えてくれるし、裾丈の短いミニスカートは、前を屈むだけで中までしっかりと拝めるという、男子諸君には実にありがたい服装になっている。

随分詳しいって……?

当たり前でしょ。
部屋で着替えるときに、しっかりとチェックしたわよ。
そして、全て着替え終わって泣いたんだから。
そのまま、30分間、鏡とにらめっこして、涙が乾くのを待って部屋を出たの。

通学途中も大変だったんだからね。
商店街でのいつもの元気な挨拶も控えめに、歩道橋や駅のエスカレーターでは、ずっとバックをお尻に当てて、後ろをチラ見。
おかげで、首の筋が引きつっちゃって痛くなってきた。

こんな格好、お母さんに見られたら、なに言われるか……
帰ったらさっさと着替えないと……

まさかこの格好で、1日過ごせとは言わないよね。
わたしは、ポケットの中の携帯をギュッと握りしめた。

「ねえ、有里聞いてる?」

少し別の世界へトリップしかけていたわたしは、現実の世界へ呼びもどされる。

「あっ、ごめん。ちょっと考えごとをしてて……」

「ふーん。そうなんだ。
でもね、有里。どんなファッションをしたってあなたの自由だけど、あの人にだけは気をつけた方がいいわよ」

彼女は、校庭の端からチラチラとこっちを窺っている女子生徒を、視線で教えてくれた。

門田頼子。わたしとは同じ教育科で同級生の子。
でも、彼女とは入学以来ほとんど話したことはない。
初めて会ったとき、ちょっとしゃべって気が付いた。
この人の性格、わたしは好きじゃないって……
ルックスもいいし、スタイルもいいし、取り巻きも多そうだけど、わたしは付き合わないことにしている。

「ご忠告、感謝いたします。
それでは、わたし早野有里は、講義を受けに行ってまいります。
……じゃあね」

わたしは、おどけながら理佐にお礼を言うと、真っ直ぐ前を向いて教育棟へ向かった。
間違っても、あの子に視線を合わせたくなかったから……



「どうやら、ついて来ていないようね」

わたしは、校舎の入り口でふーっと、息を吐いた。

「誰がですぅ……?」

えぇぇっ! 誰ぇぇっ?

階段の方から声が聞こえて、誰かが腕だけ伸ばして手招きしている。
瞬間、キャー、オバケッて……叫ぶ……わけないでしょ。

わたしは、声の主の元へ歩いていくと、一言、言ってあげた。

「わたしのパンツ返してよぉッ!」

「はあ? 私、何かいたしましたかぁ?」

「とぼけないでよ。あの後……わたし……パンツ……・しで、帰ったんだから」

副島に苛められたあの日の夜……
わたしはシャワーを浴びようとして気が付いた。
パンツがないって……
そして、裸のまま考え続けて、決めたわ。
パンツ無しで、帰ろうって……
決めたんだけど、病院を出た途端、冷たい風が吹いて……
何も着けていない股の下がスースーして……
急に心細くなって……
思わず内股で歩いてた。
おまけに、タクシーを呼ぼうとしたら、全然捕まらないし……
仕方ないから、家に着くまで、スカートを両手で押さえ付けながら帰ったんだから。
死ぬほど恥ずかしくて、情けなくて、家までの距離が地獄のように長く感じたんだよ。

それなのに、きみは靴紐を結ぶ振りをして、わたしの前でしゃがんでいたでしょ。
あれ、どういうつもりよ。
わたし、知っているんだよ。
きみの目が、変態さんのように輝いていたのを……
本当なら、こんなか弱い女の子を守るのが、きみの役目なんだよ。

「有里様もこれで、露出の道へ一歩進めたわけで、私も嬉しいかぎりです。
何といっても、ノーパンは露出の基本中の基本ですからねぇ」

「どこまでも、あなたって人は……」

「ところで、有里様。
今日の衣装は、男の私としても、目のやり場に困るようないやらしさが漂っていますが……」

副島の手がスカートに伸びそうな気がして、わたしは慌てて裾を押えた。

「相変わらず、あなたは、白々しいジョークが好きね。
きのう、宅配でこの衣装を届けたのはあなたでしょ。
危うく、母の目の前で開けてしまうところだったんだから」

「その時は、母と娘の露出衣装比べでもしてみたら、面白いかもしれません」

「母は関係ないでしょッ! 
冗談でも、それを言ったら怒るわよッ!」

わたしは、声を荒げてから通路を覗いた。
幸い、誰も歩いていない。

「まあ、いいわ。
それで、今日は横沢さんは来ていないの?
わたしは、あなたのメールの指示に従って、こんな服装でここまで来たんだから」

カメラ係の横沢さんがいないと、行為の撮影が出来ないじゃない。
それとも、こっそりと、わたしの露出衣装デビューを撮影しているのかしら?

「残念ながら、彼なら今日はいません。
……ところで有里様、どんな気分です?」

「どんなって? ……恥ずかしいに決まっているでしょ。
それに、惨めで情けないわよ」

副島の目が、わたしの胸のあたりで停滞している。
まだ、なにかする気……?
ダメ、こんな姿をじっと見られていると、身体が熱くなって顔が火照ってくる。

「有里様ぁ、ブラジャーをいただきましょうかぁ」

やっぱり……
副島がやろうとしていることが、悲しいけどわかってしまった。
わたしに、ノーブラで講義を受けさせようとしている。
今の服装でも、ものすごく恥ずかしいのに、その上、ブラジャーを外せなんて……

「嫌です。できませんッ!
……ここは大学なんですよッ!……学校、わかります?」

「でも、あなたに拒否権は、あ・り・ま・せ・ん。
私の指示には全て従ってもらいますよぉ。
有里様ぁ、お父さんを助けたいでしょ……」

この人、卑怯だよ。
なにかあったら、いつもこれだもん。
最初から答えはひとつしかないじゃない。

でも……でも……こんな伸び縮みする生地で、ブラを着けないとどうなるの?
乳首が浮かび上がるってこと……ないよね。

「さあ、早くブラジャーを外しなさい」

「……くッ……わかったわよ。
今外すから……ちょっと待ってよ」

わたしは、恨めしそうに副島を睨みつけたまま、背中に両手を回した。
そして、タンクトップの裾を少し捲るようにしながら、手を差し込んだ。

ここは、通路からは死角になっていて、たぶん覗かれることはないと思う。
だからって、こんなところでブラを外しているなんて……
やっぱり変だよ。恥ずかしいよ。

でも……従わないと……
わたしは、両手を背中の上に伸ばすと、ホックをパチンと外して、緩んだ肩紐を肩からずらした。
そのまま、お腹の側から片手を差し込んでカップ部分を掴むと、下から抜き取った。

「……これで……いいんでしょ」

声が上ずってる。
わたしは、肌の湿気を吸い取ったブラに、ほっぺたが熱くなるのを感じながら、副島に手渡した。

「講義が終わったら、必ず返してよ。
……これ、高かったんだから」

わたしは、恨みを込めて副島をひと睨みしてから、講義室に向かおうとした。

「待ってください。これをお持ちになって下さい」

副島が差し出したのは、1本のボールペンだった。



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