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屋外露出 初級  その1






















(25)


4月 11日 金曜日 午後11時   岡本 典子



午後11時、歩道を行き交う人もほとんどいない。
アスファルトをうるさく鳴らして走る車の音もほとんど聞こえない。

私はオフィスビルが建ち並ぶ大通りの交差点で、ひとり佇んでいた。
脇をギュッと締めて両足をギュッと閉じたまま、じっと、まるで直立不動状態の門番みたいに立っていた。
そして、時々黒眼だけ左右に走らせて誰かを探した。
瞳を潤ませて許しを請うように、どこに潜んでいるかわからない誰かに合図しようとした。

横断歩道に設置された歩行者用信号機が青に変わる。

ほら、行くわよ! ……って、渡りたいのに私は渡らない。
違う。渡らせてなんかもらえないの。

そうよ、私はこの場所で1時間も前から立たされているから。
河添のものすごくつまらない思い付きで……

「一体、いつまでやらせるつもりなのよ!
こんなところを、誰か知っている人にでも見られたりしたら……?!」

私は、ここへ来てから4度目の全く同じセリフを呟いていた。
そして、横断歩道の信号が赤になるのを恨めしそうに眺めた。

「こんな格好じゃ寒いし、風邪ひいちゃう」

まだまだ冷たい春の風にブルッて身体を震わせると、視線を下へと這わせた。
見ない方が気が楽なのに、典子の視線が降りていく。
つい気になる自分の姿を見ようと視線を落としてしまう。

なによ、典子! そんな恥ずかしい服装で! ……はしたない。

きっと、昨日の私が見たらこう言って顔を真っ赤にして怒ると思う。
だって実際にそうだから……

私は、衣替えなんてまだまだ遠い先なのに半袖シャツを着ているの。
それも、典子のサイズよりひと回りもふた回りも小さいピッチピッチの薄手の生地で、おまけに胸の下までボタンを外して……
これじゃ典子のブラジャーが見えちゃう?! って……?

大丈夫よ。
私、ブラを着けていないから。そう、ノーブラだから……

典子の揺れる大きなおっぱいも谷間だけじゃない。
丸い輪郭の半分くらいがはだけた襟元から飛び出しちゃってる。
これがお昼間だったら、赤い乳首や乳輪まで透けて丸見えかも。

そして、下半身も大胆。
私が履いているのは、太ももが半分くらい露出してるマイクロミニっていうスカートなの。
それも、風の悪戯にめっぽう弱いフレアのスカート。
両手でしっかりと押えていないと、マリリン・モンローみたいに中のショーツが丸見え?! って……?

ふふっ、これも大丈夫。
だって私、ブラだけじゃない。ショーツも穿いていないから……
おまけに両ひじを折り曲げてウエストに押し当てているから、悪戯好きの春風だって好きにし放題。

ほら、さっきだって後ろから短い裾がひらって……
あっ! 今度は前からめくられちゃった!

典子の恥ずかしいあそこやお尻を、冷たい風に撫でられている。



ここへ来てから、私の前を数人の知らない人が通り過ぎて行った。

まだまだお仕事中なのか、難しい表情で携帯しながら……
帰宅途中なのか、スーツ姿で自転車を漕ぎながら……
マラソン大会を目指しているのか、ジョギングしながら……

みんなそれぞれ、自分のことに集中すればいいのにね。
世の中そんなに暇じゃないと思うのにね。

私の姿を目にした途端、動きが変わっちゃった。
私の前に来たときだけ、スローモーションになっちゃった。

携帯から相手が問い掛けているのに、急に話すの止めて……
青信号なのに、安全確認するみたいに急減速して……
走り慣れてそうなのに、ひざに手を当てて息を整える振りをして……

無言のまま、視線だけが私のつま先から頭のてっぺんまでを何度も往復してる。
いやらしい目で、いやらしい視線で……
典子の半分零れ出しているおっぱいに視線を這わされた。
悪戯な風にスカートが煽られるのを心待ちにするように、視線を絡みつかされた。

私は、この人たちの視線を逸らすように身体だけ横断歩道に向けながら、首の筋が違えるくらい横を向いていた。
ひざがガクガク震えるのをなんとかごまかして……
しゃがみ込みたくなる衝動を、くちびるを噛み締めて必死で堪えて……

それなのに、いくら典子のファッションが過激だからってひどすぎる。
私は視線を逸らせているのに、さり気ない振りして合わせてくるんだから……
通り過ぎたのなら、そのままさよならしたいのに、何度も何度も名残惜しそうに振り向くんだから……

でも、男の人にそれを望んだって無理だよね。

だって、こんな露出狂みたいな服装の典子が悪いんだから。
こんなエッチな姿を見たときの男の人の気持ち、典子も理解できるから。

そうよ。私もできることなら逃げ出したい。
こんな恥ずかしいファッションなんかイヤなの大嫌い。

だから神様に無茶なお願いをしてた。

どうか、典子を透明人間にしてください。と……



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屋外露出 初級 その2






















(26)


4月 11日 金曜日 午後11時15分   岡本 典子



♪♪……♪♪……

突然ポケットに入れてあるスマホが、軽快な着メロ音を流した。
私は慌てて摘み出すと素早く耳に押し当てる。

「もしもし……」

「よお典子……俺だ。ふふっ、指示通りの格好で突っ立っているところを見ると、プレゼントした服は気に入ってもらえたようだな」

「あ、ああぁっ……もう……許してよ! 私、恥ずかしくて死にそうなの!
さっきから通りがかった人みんなに、ジロジロ見られて……
もう、これ以上耐えられない!
それにこんな格好……もしも、誰か知っている人に見られでもしたら……
私は……典子は、もう生きてゆけない……」

ほっぺたを熱い滴が流れ落ちていく。
悔しくて、情けなくて……
でもそれ以上に、こんな恥辱から逃れたくて……
私は、鼓膜に響く残酷な男の声にすがるように訴えていた。
訴えながら、男の姿を必死で探し求めていた。

やっぱり、この人見ていたんだ!
下着さえ身に着けずにエッチな服装の私を、どこかに隠れて覗いていたんだ。

どこ? どこにいるの?

「ふふふっ、大げさなこと言うなよ。
顔はゆでダコみたいに真っ赤にしているが、内心ではまんざらでもないんだろう?
何といっても、ベランダから『典子は淫らで淫乱な人妻です。おち○○んが大好きな人妻です』……だからな。この露出狂が……!」

「ひどい……そんな言い方……
これは、あなたの命令だから仕方なくしているのに……
そんな……私は……露出狂なんかじゃないわ!
だから、は、早く私を……典子を解放して! お願い!」

「まあ、待ちなって。
そんな薄っぺらな生地の服でも、結構いい値段がしたからな。
……うーん……そうだな。
今から俺が、典子を材料にせんずり……ああ、オナニーをしてやる。
お前はその間、俺の命令通りのポーズでもしてもらおうか?
そして、俺が無事抜け終えればこの露出ごっこから解放してやる。
ふふふっ、いいアイデアだろう。なあ典子」

瞬間、スマホを取り落としそうになる。
私は河添の話声を遠い出来ごとのように聞いていた。

オナニーってなによ! 私を材料にって……?!
ううん、それ以上にポーズって……?
私、まだまだ恥ずかしいことしないといけないの?
もう充分でしょ。昔の恋人にこんな仕打ちをして、あなた満足でしょ?!
それなのにこんな羞恥地獄に耐えないといけないなんて……

「おい典子。ちゃんと聞いているのか? お前には迷う権利なんて最初からないんだからな。
あるのは、イエス、OK……それだけだ。
さあ、次のステージへと進んでもらおうか。
こっちはお前の痴態がよく見える所で鑑賞しているんだ。
言っておくが、ズルはなしだぜ。ははははっ」

私は、雑音の流れるスマホをすっと耳から離した。
そのまま真っ直ぐに横断歩道を見つめる。

冬の名残のような北風がビュゥって吹き付けてきて、私の周囲で渦を巻いた。
大きくはだけさせられたシャツのせいで、典子のおっぱいが寒さにブルブル震えてる。
足下では、前からも後ろからも風が上昇気流みたいに吹き上げて、薄くて軽いスカートが風に煽られる旗のようにパタパタとはためいている。

そんな姿で私は、おへその辺りに握りこぶしを押し付けたまま立ち続けていた。
『イヤァッ』とか『キャアァ』とか可愛らしく悲鳴を上げたいのに、それもグッと我慢した。

道路を走る車が、パァーンってクラクションを鳴らしていった。
暖房を入れているのに窓を全開にして徐行するドライバーと視線がぶつかった。

ショーツを着けさせてもらえない股間に冷気を感じて……
恥ずかしい処もお尻も、丸出しにしていることを実感させられて……

私自身も思い始めてた。
……典子って露出狂かも? 変態かも?

歩行者用信号が赤から青に変わった。
信号機に設置されたスピーカーから、昔懐かしい童謡が流れてくる。

私はその場に佇んだまま一歩も動かずに深呼吸する。
そして、大きくゆっくりと頷いた。
そのまま下をうつむいて、そこだけ濡れたアスファルトに視線を落として……
私にも聞こえない声で呟いていた。

「典子……いつになったら、渡れるのかな?」って……



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屋外露出 中級 その1






















(27)


4月 11日 金曜日 午後11時30分   岡本 典子



「決まりだな、典子。
ふふふっ、では、早速ポーズを決めてもらうぞ。
……まずは、その中途半端にひらいているシャツのボタンを全て外してもらおうか?
そう、全部だ。
胸の前を全てはだけて、典子自慢のおっぱいを晒すんだ。
絶対に隠すなよ! 見ているからな!」

私は顔を固定したまま、視線だけを右、左って交互に走らせる。
そしてスマホを左手に握り締めたまま、残されたボタンに指をあてた。

「ああぁっ、こんなの……辛い……」

指先でボタン穴を押しひらき、残りの指が小さなボタンを押し出そうとした。
でも寒さで強張ったように、指がなかなか言う事を聞いてくれない。
指の腹に乗せたボタンがするりと逃げ出してしまう。

「ほらぁ、早くやれよぉ! そんなにダラダラしていると、俺の息子が萎えちまうぞ。
……それでいいのかぁ? そうしたら、いつまで経ってもお前はそのままだぞ」

耳からは、遠く離れているスマホが下品な言葉で私を追い詰めていく。

このシャツ、典子のお気に入りだったのに……許してね。
でもね。ボタンを外せない指ができることって、これしかないの。

ブチッ、ブチブチブチッ!

私はお腹をガードするように閉じているシャツを強引にひらいていった。
生地の裏側に指を引っ掛けて、力任せに左右に引っ張った。

引きちぎられる糸が悲鳴をあげて、支えを失ったボタンが乾いた音を残してアスファルトの上に散った。

「んんっ、いやぁ。み、みないでぇっ!」

肩のラインが覗けるくらい、襟の部分を後ろに引き剥がして……
せっかくひらかれたシャツが元に戻らないように脇で締め付けて……

ここは脱衣場じゃないのに……
ここは更衣室でもないのに……
そう、街の交差点なのに……
そう、いつ見られるかわからないのに……

噛み合わない歯をカチカチ鳴らしながら立ち尽くしていた。
乳房も乳首も縦長のおへそも、くびれが自慢のウエストも、みんなすべて晒けだしていた。

丸見えにして、丸出しにして……
きっと典子は露出狂だから……
だからこのくらい恥ずかしくないから。全然大丈夫だから……
おっぱいが震えるのって、北風に吹かれて寒いから……
それ以外に理由なんてなにもないから……

「いいぞぉ、典子。路上で、むき出しのおっぱいを見られて快感だろう?
闇から突き刺さる視線が気持ちいいだろう?
おっと、まだ隠すなよ!
目の前の信号が青になるまで、そのままでいろ! いいな!」

「ううっ、ぅぅっ……ああぁ、は、はい……」

シュッ、シュッ シュッ、シュッ……

「はあ、はあ、はあ、はあ……」

1秒が10秒。10秒が1分。1分が1時間。
私の周囲だけ時間が流れてくれない。
止まったように動いてくれない。

耳元に届く男の卑猥な息使いに、腰に押し当てた両手が抵抗するように持ち上がろうとする。

お願い。誰も来ないで!
半裸の女になんか、興味を持たないで!

道路から顔だけ背けて、目の端で信号機を追い掛けて、激しい羞恥心に気が狂いそうになって……
そして、永遠に変わらないと思った信号に青色が灯った。

「ふふふっ、えらいぞ典子。やれば出来るじゃないか。
さあ、その調子で次のポーズに移ってもらおうか?
お前の腰に貼り付いているミニスカートを両手で持ち上げるんだ。
もちろん、典子の恥ずかしいおま○こがよく拝めるように、腰の上までしっかりとな!」

「ああ……そんなこと……そんな恥ずかしいこと……いやぁ……」

男から新しい指示が飛んだ。
私にひと時でも安堵感を与えたくないように、今よりも、もっともっと惨いポーズを要求してくる。

こうなることくらい覚悟はしていた。
男の人が大好きな処で、1番人気はやっぱりあそこでしょ? って……
おっぱいはたぶん2番人気でしょ? って……

だから、泣きそうな顔で渋々うなづいて、むずがる両腕をだらりと下げるつもりだった。
でも私は硬直していた。

男には聞き取れない小さな声で「無理よ……絶対に無理!」って、何度もつぶやきを繰り返して……
信じられないという表情まで作って……
風に煽られたシャツの生地に、敏感な乳首を弄ばれて……

どうしよう? どうしよう? って、答えなんか決まっているのに迷う振りまでして……

「恥ずかしいのか、典子? ふふふっ、そりゃ、恥ずかしいだろうな。
短いスカートをほんの少しめくり上げただけで、ノーパンのお前はおま○こが丸見えだからな。
もしかしたら、通りがかった奴に覗かれるどころか、携帯でカシャってやられるかもしれないぞ。
さあ、どうする?
イエス、OK以外の選択肢はあり得ないが、一応聞いてやる。
するのか? しないのか?」

シュッ、シュッ シュッ、シュッ……

ボリューム限界にしたスマホ。
そこから聞こえる、肉の棒に指を擦り合わせる音。
典子の恥ずかしい姿を材料に、変態が路上でオナニーする音。
ここへ呼び出されたときの河添の言葉がそれに混ざり合って、私にひとつしかない決断を迫ってくる。

夢を掴み取る覚悟!
そのためなら、どこまでも羞恥と恥辱の地獄に落ちる覚悟!

ほら典子、がんばって。
さあ、スカートの中も見せちゃおうよ。
いつまでもおっぱいだけでは、河添の息子が機嫌を損ねて萎んじゃうよ。
それにこんな格好。いつまでもしてたら、本当に風邪をひいちゃうよ。
だから典子の大切な処を見せてあげて、こんな露出ごっこ早く終わりにしよ……ね。



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屋外露出 中級 その2






















(28)


4月 11日 金曜日 午後11時40分   岡本 典子



太ももを撫でるように裾をめくり上げていく。
意地悪な北風が『もう待ちきれないよ』って、先行するように風をはらませる。

「ううぅっ……んんんッ! んんくぅぅぅッ!」

ほんのちょっと持ち上げただけなのに、腿のつけ根まで露わにされる。
ギュッと血が滲むくらい唇を噛むだけで、おへその下あたりまで冷たい空気に覆われる。
触れるか触れないかの指のタッチが、ゾクリとした悪寒を引き連れて更に過敏な鳥肌へと塗り替えていく。

私は泣きだしたいのに泣けなくて、叫びたいのに叫べなくて、ただじっと、持ち上げたスカートの裾を握り締めていた。

遠くでエンジン音がした。
車のヘッドライトが大きくはっきりと私の周囲を照らし出している。
履いて来るんじゃなかったって後悔してるジョギングシューズが、自己主張するようにキラキラと反射した。

「いやぁぁっ! 来ないで! こっちに来ないでぇっ!」

私は、スカートの裾を掴んだまま2歩3歩と後ずさりする。
でも本能に『典子は露出狂なんだから、どんなことがあっても裾から手を放しちゃいけないよ』って警告される。

急速に大きくなる車体。大きくなるエンジン音。
まるでステージの上のように明るく照らし出されて、長い人影が時計の針のように回転して……

そんな所でおっぱいを丸出しにして、下半身を丸出しにした私って?
そうよ。ショーのラストに取り掛かるストリッパー。
ううん、そんなこと言ったらダンサーである彼女たちに失礼。
だって、典子は……

「いやぁ、お願い……見ないで……典子を……見ちゃいやぁっ」

スピードを上げて近づく車が青信号なのに交差点の手前で減速する。
フロントガラス越しに見えるドライバーの視線が私と交差する。

そして笑った?!
口の端を上げて、今、にやりと笑われた?!

真っ直ぐ前を向いて運転しないと危ないのに……それなのに……

私は声にならない悲鳴を上げて。
強張った顔を首が曲がるくらい仰け反らせて……
風の気分で覗かれる典子のおっぱいは、もう仕方ないけど……
ギュッって太ももをひっつけても見えちゃう恥ずかしい陰毛も仕方ないけど……

それ以上はダメなの。
だから祈ってた。

典子をこの世から消し去って、お願い! って……



「よしよし、よく我慢したな。いい子だ。
次は、そのまま足を肩幅にひらけ。露出狂典子のおま○こを路上で晒すんだ!」

車が通り過ぎて、私は気を失い掛けて……
それでもこの人、許してくれない。
羞恥地獄も終わらせてくれない。

だって、河添の呼吸が荒くなり始めているから。
惨めな典子の姿に、肉の棒をこする音まで元気づいているから。

「ああ、ああぁぁ……そんな……あなたって、鬼だわ。
そうよ。人間の皮をまとった鬼よ!」

「ふふふっ、なんとでも言うがいい。
だがな。お前はこの俺に逆らうことなど出来やしない。
さあ、足をひらいて典子のいやらしい割れ目を見せてみろ! 絶対に隠すんじゃないぞ!
通り過ぎるドライバーにも、歩いている奴にも、しっかりと拝ませてやるんだ。いいな!」

「はあぁ、ううぅぅっ……」

もうこれ以上無理だよ。恥ずかしいよ……って、外気に晒される太ももがブルブルと震えてる。
それなのに、足下で渦を巻く冷気がデリケートな処を早く舐めようと、恥毛を撫でつけて脅してきた。

靴底をデコボコしたアスファルトにこすりつけながら、1センチ、また1センチとひらいていく。
典子がんばってっと、挫けそうになる自分を励まして……
典子は露出狂で、エッチな服装が大好きなんでしょ? って、自分の心をバカと変態に染め上げて……

何度も溜息吐いて……何度も顔を上げ下げして……何度も頭を左右に振って……
丸められたスカートの生地の中から、うわずった男の呻き声が聞こえて……

股の下を堂々と北風が駆け抜けていく。
遠慮気味に顔を覗かせた典子の割れ目を気負った冷気が舐め上げた。

「ははははっ。街頭でおま○こを晒けだすのはどんな気分だ?
辛いのか? 恥ずかしくて死にそうなのか?
いや、違うな。
露出狂の典子なら気持ちいいんだろ? そうだろ変態典子……ふふふ、はははは……」

悔しくて惨めで……消えて無くなりたいくらい恥ずかしくて……
人格を否定されたような男の言葉に言い返そうとして……

私は声も出ないのに、言葉だって作れないのに、唇だけをモゴモゴさせた。
いつ現れるかわからない視線に怯えながら、シュッシュッって肉を擦る音と、はあ、はあ……って、卑猥な男の息使いを祈りながら聞いていた。

お願い! 早く射精して! 
でないと、典子……もう……?!



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屋外露出 上級……その果てに?






















(29)


4月 11日 金曜日 午後10時40分   岡本 典子



シュッ、シュッ シュシュ、シュッ……

「はあ、はあ、いいぞぉ。はあ、はあ……」

暑くなんかないのに? 寒いはずなのに? 顔が火照って額から汗が垂れ落ちていく。
肩に引っ掛けただけのシャツがはためいて……
指が白くなるほどめくり上げたスカートを握り締めて……

寒さと羞恥に乳房が震えてる。
意地悪な風の悪戯に過敏な乳首が硬く尖っている。
ビュゥビュゥ吹き付ける強い風に、狭まっている股の隙間を人の指のように撫でられて擦られて刺激される。

「い、イヤ……だめ……もう……」

こんな会話じゃないつぶやきを、何度漏らしたかな?
両足がふらふらして、何度しゃがみ込もうとしたのかな?

今の私には、恥ずかしい! 辛い!……って単語さえ当て嵌まらない気がする。

なんなのかな? 
ものすごく恥ずかしいのに、今まで経験したことがないくらい恥ずかしいのに……

身体の芯が仄かに熱いの。
風に晒されているのに、おっぱいの奥がキュンとなっちゃうの。

「はあ、はあ……典子、そのままだぞ。
おま○こを隠したら承知しないぞ! はあ……はあ……」

さっきから河添も同じセリフを繰り返している。
きっと、横断歩道の先の植え込みの陰から覗いているんだ。
ズボンのファスナーをひらいて、硬くなった男のモノを上下にしごいているんだ。

私を材料にして……
大切な処を全部丸見えにしている、典子をオナニーの材料にして……

コツコツコツコツ……

「それでね……」「うんうん……」「そうなんだ……」

背中の方から帰宅途中なのかな? 若い女の人の話し声が聞こえてきた。
ひとり? ……違う、ふたり?!

全身を硬直させたまま両耳だけを研ぎ澄まさせる。
無駄なのに何もできないのに、近づく人の気配を必死で探ろうとする。

歩道にヒールの音が響いて……
当たり前のように会話して、当たり前のように小さく笑って……

お願いだからこっちに来ないで!
どこかで曲がって!
会社に忘れ物とかないの? 引き返してよ!

コツコツコツコツ……

「この前のあの店のランチ、どうだった?」
「うーん、イマイチかな……でも、値段的には……あれっ?!」
「ちょっと? どうしたのよ?」
「見て……あの女の人……?」

それなのに、耳が信じたくないリアルな会話を拾った。
その途端、足下がグラついて肩がビクンって震えた。

後ろ姿だって変に決まってる。
羽織っているシャツも、ボタンを全部外しているから今にも脱げそうだし、スカートの前を限界までめくり上げているから、太ももの付け根……ううん、お尻の肉だって見えてるかもしれない。
でもそれ以上に、信号が青なのに渡らずに歩道の脇に佇んでいる女の人って絶対に怪しい。そうに決まっている。

「お、お願い。このままだと本当に見られちゃう!
拓也さん、もう許して……許してください!」

私はスカートに包まれたスマホに小声で呼びかけた。
でも返って来るのは、上ずった男の呼吸と早く激しくなる肉をしごく音。

「いやだ……なにあの人の服装……?!」
「シーッ! 聞こえるよ!」

後ろ髪の生え際から冷たい汗が幾筋も流れ落ちていく。
うなじを通って背中の窪みを通過して、ウエストに巻き付くスカートに染み込んでいく。

やっぱり、見られている!
気付かれている!

異性だけじゃない。
同性にまで典子の恥ずかしい姿を晒して……私……もう……

「ね、ねえ。あの人……なにしてるの?」
「だから、声が大きいって……どうせ、AVの撮影でしょ。
でも、いくらひと気のない所だからって、お尻まで丸出しにして恥ずかしくないのかしら?」

声が真横から聞こえてくる。
刺々しい侮蔑を含んだ会話が、露わにした素肌に突き刺さってくる。

私は人形の振りをして立っていた。
服を着せ替えられる途中のマネキンみたいに立っていた。

全身を震えさせたいのに、悲鳴を上げて逃げ出したいのに……
私だって普通の女性だから……
こんな露出狂の典子も、心はあなたたちと一緒、普通の女性の筈だから……

シュッ、シュッ シュシュ、シュッ、シュッ、シュッ……

「はあ、はあ、出るぞぉ、もうすぐ……出るぞぉっ!」

そんなささやかな願望をスマホの声があっさり否定した。
横断歩道の真ん中で、振り向いた彼女たちも冷たい視線でそれに応えた。

風に煽られて顔を覗かせるおっぱいも、おへそが見えるくらいめくり上げられたスカートの中身も……

さあ見てよ。典子の女の象徴を全部見てよ。
乳首がピンと立って硬くなっているでしょ。
ふさふさした陰毛が風になびいているでしょ。
両足だってひらいているから、股の隙間から典子の恥ずかしい割れ目も覗いているでしょ。

私は人に見られるのが好きなの。
人前で露出すると快感なの。
だから典子は平気よ。

通り過ぎながら言われた「変態! 恥知らず!」って言葉。
遠ざかりながら風に乗って聞こえてくる「信じられない。あんな露出狂、初めて見た。絶対に頭オカシイよ」「うん。同じ同性として、あんな人軽蔑しちゃうね」って、会話も……

きっと大丈夫だから。
まだ私の心、壊れるわけにはいかないから。

シュッ、シュッ シュシュシュシュシュシュ、シュッ、シュシュ……!

「はあ、はあ、で、出る! でるぅッ!」

ドピューッ……ドピュドピュドピュ、ドピュゥゥゥッッ!!」

「あぁぁ、い、いやぁぁっ! 掛けないでぇっ! 典子に振り掛けないでぇっ!」

河添の姿なんて見えないのに……
勢いよく射精したって、白い液は届かないのに……

私の全身は熱い液に覆われている。
乳房にもお尻にもあそこも、みんな白濁液に染まってる!

私、セックスしたんだ。
路上で見えない河添とセックスしちゃったんだ。

ほらその証拠に、身体中が熱く火照って割れ目の中がジンジン疼いている。匂っている。

風が吹くたびに典子の身体を包み込んで……
男の精液の匂いが見えないベールになってまとわりついて……

大切な人の香りをまたひとつかき消していく。
典子のもう取り戻せない、大切な想いでを……



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