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典子の膣は誰のもの? その1






















(20)


4月 8日 火曜日 午後7時30分   岡本 典子



私の背後で男が動いた。
カチャカチャとベルトを緩める音がして、ススーッてファスナーを引き下げる音もする。

こんなに寒いのに、汗ばんだ手のひらにウエストを掴まれた。
右からと左からと力強く押さえ込まれて、身体の動きを封じられる。

いよいよかなって、ゴクリと唾を飲み込んで、処女でもないのにあそこを緊張させて……
河添がご丁寧にささやいた。
「バックは初めてか? 怖くないか?」って……

だから私は、否定するように首を振って答えてあげた。
「……なわけないでしょう。典子は大好きなの。この体位。
無防備な姿勢で、お尻の穴を覗かれなからセックスすると興奮しちゃうの」って……

ちょっとだけ声がかすれて……
ちょっとだけ声が裏返って……

典子、期待しすぎかな?
ベランダでお尻から突かれて獣みたいに交尾するのに、こんなにワクワクするなんて、変態かも……

だから早くセックスして!
早く射精して!
早く典子を暖かくして……!
ついでに……ついでに……早く典子を解放して……ね、お願い。

ズズズッ、ズ二ュッ……

「あっ! ああぁぁぁぁぁっ!」

河添の硬いモノが、割れ目の中へと沈んでいく。
全然潤っていない粘膜をひきつらせながら奥へ奥へと侵入していく。

私はレントゲン撮影のように、大きく息を吸って大きく息を吐いていた。
誘っておきながらって笑われそうだけど、背筋を這い上がるおぞましくて心まで痛い刺激を受け流そうとした。

ズ二ュッ、ズ二ュ、ズ二ュ、ズ二ュゥッ……

「あああっ! くっ、きついっ……き、きつくて硬いのが……はいってくるぅっ! ……んくうぅぅっ!」

背中の後ろから歓喜を帯びた呻き声が聞こえた。
それを合図みたいに、残りの部分が一気に挿入される。

典子のエッチなお肉にめり込む怖くて硬い肉の音。
大好きだったモノとは違う感触。
一生慣れたくない感触。

でも、どんな気持ちになっても受け入れないといけないの。
膣の中がパンパンに張り詰めても……
隙間もないくらいに奥まで、パンパンにされても……

「ふーう。いい締まり具合だ。
さすがは自ら淫乱典子と認めるだけのことはある。
それに、俺の息子との相性もなかなかのものだ。
まるで典子のおま○こは、俺用にオーダーメイドされているようじゃないか。……ははははっ」

「あくぅっ……き、きつい……」

私は河添のモノを受け入れたまま顔を仰け反らせていた。
仰け反らせたまま、耳に流れ込んでくる言葉だけは否定したくて、目に見えない頭を必死で振っていた。

相性ってなによ? オーダーメイドって……なんのことよ?!
勘違いしないでよ!

典子のあそこはね。私の旦那様、博幸規格なの。
他の異物が挿入されたって、違和感で気持ち悪いだけなんだから……

「それでは、典子。
お前の待ち望んだ、屋外セックスと洒落込もうじゃないか。
期待通りに厳しく突いてやるから、夜空に向かって鳴いてくれよ」

「えっ? いや、あ、あの、まだ……いやぁッ! 待ってぇっ、待っててばぁっ……んむぅぅっ!」

パーン……パーン……パンッ、パンッ、パンッ……!

ズ二ュッ、ズニュ、ズニュ……ズズズ……ズ二ュッ、ズニュ、ズニュ……ズズズ……

「はぁっ、あっ、い、一気にしないでぇっ! ……お、お腹がぁ……はぁぁぁ!」

河添が腰を打ち付けてくる。
ウエストに両手の指を食い込ませて、腰を突き出してはお尻のお肉にリズムよくぶつけていく。

博幸なら、じっと待ってくれたのに……

男の硬い肉の棒が一気に割れ目に突き刺さって、一気に沈んだ。
先端の張り出したエラに、やっと馴染み始めたばかりの粘膜を擦りあげられる。
それなのに、あそこの中がジンジンと疼いて内腿の筋肉がブルブルッて震えさせられる。

博幸なら、典子の気持ちわかってくれたのに……

そのまま、休む間もなく一気に引き抜かれていく。
硬く張り出したエラが膣の壁を逆なでして、お腹の中のものまで引き出されそうになる。

ズズズ……ズニュ、ズニュ……ズ二ュゥッ!

「んんうっ、だめぇっ、早いっ! 早すぎるぅっ……もっとぉ……んんっ、やさしくぅっ!」

私は、コンクリート柵にしがみついていた。
ひじを折り畳んでコンクリートの角に肩口を押し付けて、ズンッズンッって襲ってくる衝撃に耐えていた。

でも、これって結構痛い。
むき出しの素肌が堅い壁にこすられて痣になっちゃいそう。

だって河添のピストン、容赦ないから。
博幸と違って、典子の身体のことなんて全然気にしていないから。
自分さえ悦に浸れれば、それで満足だって思っているから。



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典子の膣は誰のもの その2






















(21)


4月 8日 火曜日 午後7時40分   岡本 典子



パンッ、パンッ、パンッ……パンッ、パンッ、パンッ……!

「どうだ? バックで突かれるセックスは……?
野生的で気持ちいいだろう?
風に吹かれながらのセックスは、解放的で感じるだろう?
ほら典子も、もっと大声で喘いでみろ!
下の階の連中に、典子のよがり声を聞かせてやれ……こんな風にな!」

ズ二ュゥゥッ! ズ二ュッ、ズ二ュッ……ズ二ュズ二ュズ二ュ、ズ二ュゥゥゥッ!

「くぅぅぅっ、むぅぅぅっ……な、膣(なか)のお肉がぁ……だぁ、だめぇ……声……でちゃうぅぅっ!」

河添が腰を突き出す角度を変えた。
典子をさらに乱れさせようとして……
エッチな声を我慢する私を苛めたくて……

斜めから侵入した硬いモノに、膣の壁を深くえぐられた。
ものすごく感じちゃう入り口を責められた。

「いやぁぁ……いやぁぁぁぁっ」

私は、大きくひらきそうなくちびるを冷たいコンクリートに押し付けていた。
くちびるの形が歪むのも構わずに、上から押え付けていた。

もう、喉の手前まで甘い声でいっぱいになってる。
いやらしい典子のあそこが、気持ちいい声をどんどん上へと運び上げてくる。

パンッ、パンッ、パンッ、パンッ……!

「ほーおぅ、典子も意外とがんばるじゃないか。
でもなぁ、身体は正直に反応しているぞ。
ほら、聞こえるだろ? お前の耳にも……」

じゅちゅ、ぐちゅ、じゅちゅぅ、ぐちゅぅ……じゅちゅ、ぐちゅ、じゅちゅぅ、ぐちゅぅ……

「ああぁあんっ、いや……させないでぇ……はぁ、恥ずかしい音、聞かせないでぇっ……んんっ」

河添が腰を打つ角度をまた変えた。
硬いモノをぐるりと回して、私を感じさせて鳴かせた。
もっともっと膣の中に気持ちいい液を溢れさせて、お尻も太ももの裏もびしょびしょに濡らしていく。

私、夫以外のモノをまた受け入れちゃった。
それも言葉とは裏腹に、こんなにすんなりとたいした抵抗もしないで……
きっと、このままイカされちゃう。
聞きたくもないエッチな水の音をベランダに響かせながら、恥ずかしい声をあげさせられちゃう。

ぬちゅぅ、じゅちゅ、ぬちゅぅ、じゅちゅ……

「はぐぅ、お腹の中のものが引き抜かれちゃうぅっ! だめぇ、お、奥にぃ……当たっちゃうぅっ!」

背筋をビリビリって痛いくらいの電流が流れていく。
外は寒いのに、あそこの中が燃えそうなくらい熱いの。

耐え切れなくなって、私は頭をもたげていた。
噛み締めていたくちびるが半開きになって、気が付いたときには大きくひらいてた。

パンッ、パンッ、パンッ、パンッ……!

「くぅぅんんっ、ふあぁぁ……いやぁ、そんな……グリグリしないでぇ……典子、変になっちゃうぅぅ!」

もう我慢なんか出来っこない。
敏感な壁をこすられて削られて、奥の扉までノックされて……
あそこから噴き上がる気持ちいい波をはしたない声にして、私は叫んでた。

きっと聞こえちゃう。下の人にも、もっともっと下の人にまで……
でも、典子。やっぱり淫乱なのかな?
それでもいいよって思い始めてる。

「いい声でよがりだしたじゃないか。
え、気持ち良くて仕方ないんだろう。
ほら、もっとおま○こを突いてやるから、
『典子は淫らで淫乱な人妻です。おち○○んが大好きな人妻です』って、大きな声で言ってみな」

「んむぅぅっ、ああっ、いやぁ、言えません……そんなぁぁぁ、恥ずかしい……こと……はぁぁぁ」

私は、額に貼り付いた髪を振り解くように頭を左右に揺らせた。
鼻から甘い声を抜かせているのに。
腰を淫らにくねらせているのに。
もう充分に淫乱な典子になりきっているのに。

まだ残っていたみたい。典子の羞恥心が……
大きくひらいてた口が、喉の手前まで出かかっている言葉を必死で押し留めている。

「ああぁぁっ、んふぅっ、いや、いや、はあっ」

甲高い肉を打つ音が催促するように大きくなってる。
溶けそうなエッチな割れ目に、ズボズボって硬い肉の棒が打ち込まれていく。

膣のなかで暴れる河添のモノが訊いてきた。
いつまでやせ我慢してるの? って……
お外でおま○こをひらいているような女が、恥じらう必要なんてないでしょ? って……

それを証明するように、太ももをひざ裏を、お洩らししたようにエッチなお水が垂れていく。
今すぐにでも絶頂しそうな快感に、背中が大きく震えて反らされてた。
それを見た打算的な私が、哀しい決断を促してくる。



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典子の膣は誰のもの? その3






















(22)


4月 8日 火曜日 午後7時50分   岡本 典子



ぬちゃぅっ、じゅちゃっ、ぬちゅゃっ、じゅちゃっ……
パンッ、パンッ、パーンッ、パンッパンッ……パーンッ、パンッパンッ!

「ほらぁ、まだか典子?
俺の命令がきけないとなると、お前の儚い夢もこれまでだな。
さあ、俺が射精するまでがタイムリミットだ。
……と、言いたいが、もうまもなくだがな……」

典子の夢……儚くて果てしなく遠いふたりだけの夢……

視線が遠い暗闇に注がれた。
私は腰から突き上げられる快感に顔をしかめながら、一点を見つめた。
小さな粒のような光が涙に揺れて、口をひらいていた。
壊れそうに声帯を震わせていた。

「んはぁ、の、典子は……みぃ、淫らで淫乱な人妻です。……お、おち○○んが大好きな……人妻です……ああっ、ああぁぁぁっっ!」

口を閉じた瞬間、何かが弾け飛んでいた。
身体中の神経を甘い電気が駆け抜けて……
膣がキューッて収縮して……
子宮の扉がギギーッってひらくのを感じた。

そうよ、イッちゃうの。
男が射精する前に、典子が絶頂しちゃうの。
このマンションの住人みんなに聞かれながら、夜空に向かって獣のように叫びながら飛んじゃうの。

私は突き出される腰のタイミングに合わせて、お尻を振っていた。
衝撃で太ももが揺れて、おっぱいもプルンって揺れて、お腹のなかで子宮も揺らされる。

河添が、後ろで小さく呻いた。
硬くて太いモノが膣に突き刺さるたびに、更に太くなって更に硬くなっていく。

「はぁぁ、いいぞぉ典子。うっ、ぅぅ」

硬いモノを埋め込んだまま、ウエストを強く掴まれた。
皮膚を破る勢いで爪を立てられる。

まだよ。あとちょっと……あと少しで……

引いては寄せる快感の波に飛び乗ろうとした。
割れ目がトロって溶けて、新しいエッチな水が湧き上がって……
背筋から頭のてっぺんまで気持ちいい電気が矢のように流れて……

私は『エイッ!』って、踏み切った。
獣みたいなセックスが大好きな淫乱典子だからジャンプした。

パンッ、パンッ、パンッパンッ……パンッパンッパンッパンッ!
ぬちゃぅっ、じゅちゅっ、ぬちゅゃっ、じゅちゅっ……

「んんあぁぁっ……ああっ、きもちいいのぉっ、硬くて太くて……だから、だから、だから……イクぅぅぅっっ、イッちゃうのぉぉぉぉっっっっ!!」

「ううっ、で、でるぅッ!」

どぴゅッ、どぴゅッ……どぴゅぅぅぅぅ、どぴゅぅぅぅぅぅぅッッ……!

「はぅぅぅ、ううぅぅっ、お、お腹が……熱いっ! あぁぁ、熱いシャワーで……典子のお腹……火傷するぅぅぅっ!」

一瞬のことだけど……
膣に精液を撒き散らせた河添のモノが、可愛いって思ってた。

後で死ぬほど後悔すると思うけど……
真っ白に染まる頭の中で、夫以外の異物を愛おしいってどこかで感じた。

背中を弓のように反らせて、赤い舌を覗かせながらあごを突き出して……
たぶん叫んで、たぶん聞こえたと思う。
気持ちいいって鳴く声と、快感って鳴く声を……


私は、コンクリート柵に寄り掛かっていた。

河添のモノが引き抜かれたあとも魂の去った抜け殻のように、ほとんど全裸の身体を冷たいコンクリートに預けていた。
そして薄れる意識の中で考えていた。

結局、獣のセックスをさせられたのって私だけだったのかな? 
だって、この人……
ズボンの隙間からアレだけ露出させて、服を脱がなかったもの。

なんかずるいよね。
典子だけ獣になるなんて……

それとも、あの人って案外寒がりなのかな?
セックスしてこんなに身体中火照っているのに、やっぱりおかしいね。

なんだか私……眠くなってきちゃった。
このままお休みしようかな……
犬のように身体を丸めて寝ちゃおうかな?

夜空と一緒。
闇に沈む意識の中で、時が流れていく。
やがて、会いたかったのに顔を正視できない誰かが脳裡に浮かんで、同時に誰かが典子の身体を持ち上げた。
そしてひとこと「こんな所で寝たら、風邪ひくぞ」って……

ふふっ、最後にこのセリフ……卑怯だと思うよ……誰かさん……



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情事の果てに……






















(23)


4月 8日 火曜日 午後8時30分   河添 拓也



「まったく……世話のやける女だ……」

自分のベッドで密やかな寝息を立てる典子を、俺は複雑な気持ちで見下ろしていた。
行為が終わったというのに、いつまでも部屋へと戻って来ない彼女を不審に思った俺は、もう一度ベランダへと向かった。
そして、ほぼ全裸に近い姿のまま意識を失ったように柵に寄り掛かる彼女を目にする。

「ふふっ。まさかこの俺にお姫様抱っこで運ばれたなどと、この女も夢にも思わないだろうな」

何か怖い夢でも見ているのだろうか?
さっきから整った顔を苦しそうに歪めては、言葉にならないうわ言を繰り返している。

まあ、仕方ないだろう。

商売女でもない普通の女を寝室以外で強引にセックスに持ち込もうとすれば、大抵の場合、精神的なショックは相当のものだからな。
ましてや、典子はイヤイヤながらもこの俺に抱かれるために来た。
これくらいのダメ―ジが出ても不思議ではあるまい。
というよりも、常に心の中には昔の初心な典子の羞恥心を保っていて欲しいとさえ思う。

何よりも俺の性癖……
それは、羞恥に震える女をじわじわと真綿で首を絞めるようにいたぶりながら、身体を凌辱し精神さえも凌辱する。

そうだ。俺に流れる血はまっとうな人間には理解できないかもしれない。
だが、世の中には俺以上に変わったある意味狂気に満ちた性癖を持つ者が数多くいる。
それを考えれば、今後の大切なパートナーが俺であったことを典子も感謝するんだな。

「うぅーん……助けて……ひろ……ゆき……」

典子は掛けていた毛布をはねのけると、身体を猫のように丸めて俺に背を向けた。

「博幸……!」

勢いよく寝返りをうったのか、ボタンが全て外されたままのシャツの裾は大きくめくれ上がる。
そのせいで、はだけた胸元からボリュームのある乳房の下半分を背中越しに覗かせている。

当然、下着など身に着けてはいない。
つい先程まで、ベランダの柵にしがみつきながら俺の腰に突かれた後、そのままのあられもない姿で運ばれた典子は、ブラジャーはおろか女の秘部をガードするパンティーさえ脱がされたままだ。

そして、俺の目を典子の下半身が釘付けにする。
上着同様、くびれたウエストを覆い隠すようにめくり上げられた紫色のスカート。
異性の視線を拒絶するように、隙間なく閉じ合わされたムッチリと肉付きのいい太もも。
それにつながる、大きくて丸みを帯びた典子の尻。
20代半ばの成熟した肉の割れ目は、それでいて8年前の女子高生の頃の初々しさも兼ね備えている。

「ううぅ、うぅーん……」

寝言にしては甘すぎる喘ぎを漏らした後、典子の身体が仰向けに転がった。
同時に、密着していた太ももに握りこぶしが通るほどの隙間が拡がる。

「ある意味、絶景だな……」

程良く手入れされた恥毛から内腿にかけて、小便でも漏らしたように粘りのある透明な液がべっとりと付着している。
そして、同じく粘りのある白い液が、それに混ざり込むようにだらりと貼り付き狭い股の間で糸を引く。
やや土手高の丘。真っ赤に充血し男のモノを咥え込んだ秘肉。ひらいたままの秘裂。
その全てに、同様の白濁液が満遍なく塗り込まれている。

ちょうどその時だった。
典子の口からひときわ大きい喘ぎ声が漏れだし、全身の関節が骨格を揺らすようにブルブルと痙攣した。
一瞬、柔らかい太ももの肉も震え、淫らな下の口が収縮を始めた。

ゴボッ!

まるで吐き出すように、俺の放った男の精が白い肌を伝い落ちていく。

「ふふっ、旦那のモノは受け入れても、俺のモノは拒絶するってわけだ。
……まあ、今はそれもいいだろう。
お前にはれからも、この俺の壮大な野望実現の駒として、しっかりと働いてもらわないと困るからな。
その成熟した身体と、自己犠牲に満ちた精神を利用してな……
そのためにも、今晩は好きなだけ過去の夫に抱かれるがいい。
そして、次からは俺専用の性奴隷として、羞恥の責めに身を震わせる生まれ変わった典子を見せてもらおうか。
それじゃ、おやすみ。
限られた時間の限られた夢を有意義にな……」



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男の駆け引き






















(24)


4月 10日 木曜日 午後3時   河添 拓也



「どうぞ、こちらへ」

あどけない顔をした女性秘書に通されたのは、『会議室3』と飾り気のない札が貼られた小部屋だった。

部屋の中心を囲むように配置された長机にパイプ椅子。
スチール製の書類棚に同じくスチール製の台の上に設置された液晶テレビ。
そして、午後の陽射しを避けるためか、窓にはブラインドが降ろされている。
まあ、あえて窓の外を見ようとも思わないが……

「いやぁ、待たせて済まない」

この部屋に案内されて10分ほど経った頃。
雑なノック音と共に、ひとりの男が俺の前に現れた。

見た目の年齢は40代後半……
だが俺の記憶が正しければ、確か54才になるはず。

身長が160㎝に満たないうえに、痩せ気味の体型。薄くなり始めた前頭葉。
やや丸みを帯びた顔立ちに両端を垂れ下がらせた瞳。
一見すると、朝から家の前を掃除していそうな、どこにでもいる気さくな男のようにも見える。

だが俺は知っている。
この男の本性を……
この男のツマラナイ欲望のために、俺は……

時田金融グループ 副社長 篠塚唯郎(しのづか ただお)

その男は、立ち上がりかけた俺を手で制すると向かい合う席に座った。

「で、どうだ、向こうの様子は……?
少しは現場の仕事にも慣れたかね?」

「はい。おかげ様で……と言いたいところですが、まだ、職員の名前と顔を一致させるのが精一杯で……
なにしろ、昼飯を食べるとき意外は揃いのヘルメットに作業着姿では、なかなか……」

「ふふっ。それは、私に対する嫌味かね」

小男が鼻で笑った。

「いえ、滅相もありません。
時田金融グループ、建設部2課。
私の社員人生を賭けるのに、相ふさわしい職場だと自覚しております!」

俺は立ち上がり篠塚に向かって一礼した。
頭を下げながら、声に出さない小男の笑い声にじっと耐えていた。

腹の底に蓄積するマグマが、挑発するように俺の心を揺さぶってくる。
理不尽な仕打ちに、仕返すなら今だとけしかけてくる。

だが、今の俺は半月前の俺とは違う。
この屈辱的なセッティングをしたのは、俺自身なのだから……

「ほーぉ、いい心掛けじゃないか。河添課長。
だが、そんな殊勝な宣言のために、副社長である私に会いに来たのではあるまい。
ふふ……それで、用件は何かね?」

篠塚の顔つきが変わった。
机の上で櫓のように組まれた両腕に乗せられた顔。
その温和だった表情の裏に隠された野心が、隠しようもないくらいはっきりと表れている。

「は、篠塚副社長のお心遣い、まことに感謝いたします。実は……」

「実は……?」

小男が机の上で前のめりになっている。

かかった……!

内心でほくそ笑みながら、俺は声を潜めた。

「その実はですが、私が指揮を任されている『ニューフロンティア計画』をご存知でしょうか?」

「ああ、知っているとも。
我が社が取得した海岸の埋立地に大規模な工業団地を開発し、並びにファミリー層をターゲットにした巨大ニュータウンの開発するというあれだろ?」

前のめりだった篠塚の顔に、不満の色が滲み出ている。
俺はそれを確認すると、話を更に進めた。

「的確なご説明ありがとうございます。
ではそのニュータウンの外れに、全寮制の私立高校が建設されていることは……?
もちろん開校を進めているのは、我が時田グループですが……」

「高校? 確か……『洋明学園』と言ったかな。
でもあれは、社長の肝煎りで進められている独立プロジェクトの筈で、建設部2課の君は関与していないんじゃないのか?」

不満そうな顔に加えて、今度は声にまで腹立たしさが混じり始めている。

そう。篠塚が一貫して、この『ニューフロンティア計画』には反対の立場だということは、事情通の者から俺の耳にも入っている。
おまけに反社長グループのリーダーとして、社長の時田謙一(ときた けんいち)が指揮する計画まで口にしたのだから、表情も変わるというものだろう。

「その『洋明学園』なんですが、ちょっと良からぬ噂を耳にしまして……」

俺はそう言うと、数枚の写真とそれを補足するレポートを篠塚の前に並べた。

「これは……? 副島と横山? それにこっちに写っているのは、小宮山?
どれもこれも、社長直属のゴロツキ共じゃないか。
……で、なになに?
…… ……
……ふふっ、そういうことか。
たった、それだけのために……
あの男、社長秘書以外にもハーレムをお望みってとこだな。
ふふふ……あはははは……面白い! 実に愉快なネタじゃないか!」

小柄な身体には似合わない、大きな笑い声が部屋中に響き渡った。
篠塚は、人目もはばからずに顔の相を崩しながら笑い続けている。

「どうも……お気に召したでしょうか?」

俺は、釣り上げた魚の手応えを愉しんでいた。
天下に名を轟かせる時田の副社長。
それが今、俺の手のひらで踊り始めている。

「はははは……それで、お前の条件はなんだ?
まさかだが、この私と組んでこの時田を乗っ取るつもり……ってことはないだろうね?」

顔を紅潮させた篠塚が、冗談っぽく本音をぶつけてくる。

「副社長、悪い冗談はよしてください。
私はただ、会社の行く末を憂い進言したまでです。
そんな大それたこと、私は夢にも思っておりません!」

「会社の行く末を憂いてか……
確かに、自分の性欲を叶えるためだけに学校法人を立ち上げたとなると、我が社にとっても由々しき事態になることは目に見えている。
特に、認可を与えたこの街の教育委員会はおろか、県も更には文部科学省まで監督責任を問われるだろう。
そうなれば、私も河添君も新しい就職先を探さないといけないねぇ。
いや、時田グループ2万人の社員全員を路頭に迷わせることになる……」

「そこでです。篠塚副社長!
しばらくこの案件は、あなた様の胸の内にだけ秘めていてもらえませんか?
学園が開校する来年。いえ、半年以内にこの河添が確たる証拠を掴んでみせます!」

俺はここぞとばかりに話をたたみ掛けた。
野心と小心が均衡している篠塚の心理を衝きながら、話の主導権を完全に奪い去る。

「はははは。いや、頼もしい言葉だねぇ。
……わかった。
この案件は、全て河添君に任せようじゃないか。
そして今日の話は、きれいさっぱり忘れることにするよ」

「ありがとうございます! 篠塚副社長!」

小男は満足げに頷くと席を立った。
そしてドアに向かって歩き始めて、その動きを止めた。

「そうそう、君には悪いことをしたね。
誰よりも社を愛する河添君のような社員を左遷するとは……
人事課の馬鹿どもが勝手な判断でしたこととはいえ、監督者である私からも謝らせてもらうよ。
……それでだ。
お詫びと言ってはなんだが、何か要望があれば聞いてやらんでもないが……どうだね?」

「は、それなら遠慮なく……『駅前の総合開発』について、ひとつ提案がございます」



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