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人妻はナイスバディ!























(6)
 


「お、おい雪音。僕はまだ……」

「なに言ってるのよ。お父さんも見たでしょ、あの人の涙。
あたし、ピーンときちゃったの。久藤さんの写真は売れるって……
後は、超一流カメラマン北原武雄……じゃなかった、ピンクの傀儡子の腕の見せ所でしょ。
がんばって、お父さん♪♪」

あたしは、乗り気じゃない手つきでカメラの準備をするお父さんを、思いっきりおだててあげた。
そして、大急ぎで撮影の準備を進める。

「お父さぁーん、天井の照明は何色にするの~?」

「……そうだな。暖かみを表現したいから薄いオレンジで……」

これで準備OKと……あとは……

「あの……律子さんで、いいですよね。
どうぞ、こちらへ」

スタジオの片隅で身を固くする律子さんを、カメラの待つオレンジの世界へと促した。
彼女はコクンとうなづくと、青ざめた表情のままぎこちない足取りで歩いていく。

無理もないわね。
取り敢えず相談に来たつもりが、あっという間にヌード撮影だもんね。
それも、見ず知らずのあたしたちに見られながら……

多分あたしだったら……って、ダメダメ!
今はお仕事に集中しないと……!

「そ、それでは、最初は服を着たままで……」

カシャッ、カシャ、カシャ、カシャッ……

お父さんが色々とポーズを指示しながらシャッターを押していく。
でも、相変わらず律子さんの表情は石のように固まっちゃって、作ってる笑顔も笑っているというより泣いている方が様になっている。

「では下着姿になってくれませんか?
そ、そうですね……ブラジャーとパ、パ……パンティーだけに……」

自称超一流カメラマンのくせに、声が裏返っている。
あたしは脱衣かごを律子さんに差し出すと、スタジオに隣接する一応更衣室を指差した。

「どうされます? ちょっと狭いですが更衣室はあちらにございますが……」

「いえ、できればここで……
ふふ、変でしょう?
でも、この場所を離れたら私……多分2度と戻って来られないかも」

律子さんがあたしに笑いかけてきた。
ホッペタの上端に可愛らしいエクボを浮かべて……

そして、さっと顔を引き締めると、留めボタンの部分がフリルになった三角襟のシャツを脱いでいく。
細くてしなやかな指がフリルの上を撫でるように降りていくと、中から汗に光る白い肌が顔を覗かせた。

「はぁー」って、律子さんが辛そうな息を吐く。
吐き終えて、きゅっと口を閉じると、はだけたシャツを肩ぐちから脱ぎ去った。
そのまま休むことなく、指はスカートのホックを緩めた。
ひざ下の薄茶色のスカートが、両手の指に促されるように引き下ろされていく。
ストッキングを着けていない吸い付きそうな肌が露出されていく。

「きれい……♪♪」

「ああ、素晴らしい♪♪」

ベージュ色のブラジャーとショーツだけになった律子さんの姿に、どちらともなく感嘆の声をあげた。
お世辞なんかじゃない。本心で……

だって律子さん、別人みたいに見えるんだもん。
胸の谷間を意識しなくたって強調できるバストに、全然脂肪の付いていないウエスト。
肉感的な太ももに大きく膨らんだヒップ。

きっとこういう体形を着痩せするタイプって言うのね。
あたしも、将来はこんな女性になれたらなって、嫉妬混じりの溜息まで吐いちゃった。

「あ、あの……急なことだったのでこんな下着ですが、よろしいでしょうか?」

律子さんは、声を震わせながら立っている。
背中を猫背にして片手で胸を押さえて、もう片方の手のひらでしっかりと大切な処をカバーしている。

「え、ええ。却ってその方が自然体の主婦って感じが出ていいと思いますよ。
では、僕の指示に従ってくださいね」

「は、はい……お願いします……」

身体に貼り付いていた両手が引き剥がされる。
さっきまで真っ青だった顔を、今度は真っ赤に染めながらお父さんの声に従いポーズをつけていく。

カシャッ、カシャ、カシャ、カシャッ……

「次は、横向きのままケンケンするように片足を上げて……そう。
つま先をうしろに跳ねる感じで……」

まるでお転婆娘のように、右足を後ろに跳ね上げたままの姿勢で律子さんが後ろを振り返っている。
太ももが前後に大きくひらかれて、薄いショーツの生地から大切な処が透けて見えている。
上体をひねったせいで、ブラジャーの隙間から豊かな乳房も顔を覗かせている。

「いいよ! そのまま……そう、そのまま悪戯っ子みたいに笑って! うん、最高!」

カメラを操作するお父さんの声が変わった。
目が輝いて、声まで輝いて、あたしの脳裏に嫌な思い出がよみがえってくる。

「次は、下着も全部、取っちゃっいましょうか?!
雪音、買い物かごを持って来て……!」

ほらやっぱり! ピンクの傀儡子が覚醒しちゃった?



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主婦といえば買い物かごでしょ?























(7)
 


「お父さん、これでいいの?」

「そう、これこれ。
主婦と言えば、やっぱりお買い物かごをぶら下げている感じが一番だからね」

あたしは隣にある更衣室兼資材置き場で、お父さんが言う買い物かごを探し出してきた。
ビニールの紐を編んで作られた、昔ながらのこげ茶色の買い物かご。

これでどうするのかって?

あたしは何となくわかるけど、律子さんには……うーん、無理よね。想像がつかないみたい。
だって、こんな発想。
いやらしいエロおやじそのものじゃない。

律子さんも可哀そうに。
でもでも、エッチな主婦をあたしも見てみたい気がするし……

「それじゃあ、裸になってもらえます?」

「は、はい……」

律子さんはあたしたちに背中を向けると、指を……というより両腕を震わせながらブラを外した。
歪みのない真っすぐな背中のラインが、オレンジの照明に照らし出されている。

「やっぱり……きれい……」

あたしはまた見とれちゃって、はっと我に返ると慌てて脱衣かごを律子さんの横に置いた。

「ごめんなさいね」

「い、いえ……」

手渡されたブラジャーは汗を吸い込んだのか、ほんの少し重く感じた。
それをさり気なくスカートの下に差し入れた。

律子さんが溜息とも呻き声ともわからない音を、食い縛った歯の隙間から洩れさせる。
細いあごから汗の雨粒が滴り落ちる。

そして、指が最後の1枚に添えられる。
ショーツのウエストに親指を潜り込ませて、大きく発達したお尻を優先させるように下へと引き下ろされていく。

あたしの耳が、スルスルと肌を滑る摩擦の音を聞いた気がした。
大切な人を思う女性の哀しい覚悟を感じた。

大きく前屈みになりながら、足首から抜き取ったショーツを律子さんは自分で隠した。
右手の中で小さくたたむと、同性のあたしの目にも触れさせずに脱衣かごの中へとそっと腕を差し込んだ。

あたしはその横で、何も言えずに何も出来ずに人形のように佇んでいた。

「アシスタントさ~ん。なに固まっているのかな? 買い物かごはどうしちゃったのかな?」

お父さんがカメラを覗きながらおどけた声を上げた。
指示どおりに全裸になった律子さんは、晒した背中を小刻みに震わせたまま立ち続けている。

「ごめんなさい……」

あたしは買い物かごを渡した。

「これで……その……律子さんの大切な処を隠してください。
あっ、片手で胸を隠すことも忘れずに……」

「こんな感じかしら?」

律子さんは買い物かごを下腹部に押し当てると、左腕を横にしてふくらみを隠した。
そのまま緊張を解すように、首を傾げてみせた。

「はい……上出来です。
ものすごく恥ずかしいでしょうけど、少しの辛抱ですから我慢してくださいね」

「ええ、私は大丈夫ですから」

言葉少なめにそう言うと、律子さんは自分の方からレンズに顔を向けた。

「では、レンズに視線を合わせて……いいよぉっ」

カシャッ、カシャ、カシャ、カシャッ……

正面を見据えた律子さんが、お父さんの指示に従って全裸の主婦を演じている。
目線を斜め下にして、食品の品定めをしたり、上目遣いの目線で夕御飯の献立を考えてみたり……

でも、とっても恥ずかしいんだろうな?

全身の肌をピンク色に染めて……
吐き出す呼吸が途切れ途切れになって……
顔はキュートで可愛らしい主婦なのに、目の端に光るモノを浮かべて……

「うん、いいねぇ。次は買い物かごはそのままで上半身だけ捻って。晩御飯、何にしようかしら? ……そんな感じで。
次は逆にお尻をこっちに向けて、同じポーズで……うんうん、僕はカレーがいいかな♪♪ それとも……」

「ちょっとお父さん、真面目にしてよッ!」

「はい、すいません……それではラストいきますよ。
買い物かごを股に挟んだまましゃがんでみて。
両手をひざに乗せたまま、背中を丸めて胸を隠して……そのままだよ、そう……OK」

カシャッ、カシャ、カシャ、カシャッ……

お父さんの声が甲高く響いた。
もう涙でいっぱいなのに、律子さんは旦那様を取り戻したい一心で笑顔を作っている。
大切な処を買い物かごだけで隠して、多分生まれて初めて撮るヌード写真なのに全然嫌な素振りを見せずに……

そして、撮影が終わった。

「お疲れです。律子さん」

あたしは、しゃがみこんだままの律子さんの肩にバスタオルを掛けた。

「あなたのお陰で、素晴らしい作品が撮れましたよ。
きっとこの写真をご覧になれば、旦那様の心も動かされるはずです。
今夜から素晴らしい夜の営みをお楽しみください♪♪」

「律子さん、お着替えはどうぞこちらへ」

バスタオルに包まれた律子さんを、隣接する更衣室へ案内する。
その傍ら、あたしはお父さんの右足を踏んづけなから耳元で言ってあげた。

「一言余計なの! このスケベ親父!!」って……



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帰ってきた律子さん























(8)
 


「雪音ぇッ! 大変だぁッ! どうしよう……?!」

「どうしたのよ? そんな声を出されたら営業妨害でしょ!」

まるで断末魔のような悲鳴をあげながら、お父さんが飛び込んできた。
ここは『北原写真館 撮影スタジオ兼、自称 北原雪音・宿題丸写しの部屋』
今日もあたしは、スタジオの端にある事務机で店番をしながら学校の宿題に精を出していた?

「はあ、はぁ、はあぁ。今、久藤さんからメールが届いて……」

「わかったから。それよりも脇に抱えているノートパソコンを降ろしたら?」

「あ、ああ」

持久走でもしてきたように息を乱したお父さんが、あたしのノートの上にパソコンを置いた。

「取り敢えず、これを見てくれないか?」

「え~っと、なになに……?
『ピンクの傀儡子さまへ。先日は、私の身勝手な要望にもかからわず、素晴らしい撮影をしてくださり感謝しております。
……ですが、大変申し訳ないのですが、いささか困った問題が起きまして、改めて貴方様のお力を拝借できないかと考えております。つきましては、今夕にでも……』」

「雪音、どう思う?」

「う~ん。微妙なところね。
ただ、少なくても、前の撮影でハッピーエンドってことはなさそうだし……
もしかしたら律子さんの写真が逆効果で、それを目にした旦那様が激怒しちゃったのかな?
お父さんったら調子にのって、初心者さんにけっこうきわどいポーズまで要求しちゃったから」

「……だとしたら?」

あごの先端から冷や汗を垂らせながら、お父さんがつぶやいた。

「その旦那様が怖ぁーい人たちにお金を渡して、お父さん、ボコボコにされちゃうかも?
ううん、もしかしたら殺されちゃうかもね。うふふっ」

「ひぃぃぃぃッッッ!! イヤだ! まだ死にたくない!」

冗談のつもりだったのに、お父さんが金切り声をあげた。
そして、追い打ちをかけるように律子さんのか細い声が聞こえた。

「ひぃぃぃぃッッッ!! うっぅぅっ……僕……お先に逝きます……」



あたしとお父さん。それに律子さんは、この前みたいに地下スタジオに入ると、またまたこの前と同じように円形テーブルを囲むように座った。

「ごめんなさい。変なメールを送って戸惑わせてしまって……」

「いえ、こんなことは慣れっこですから。
それよりも、父……じゃなかった。
『ピンクの傀儡子に、お力を拝借』とありましたが、どういった内容でしょう?」

律子さんは、青白い顔のままスマホをいじるお父さんにチラリと視線を送った。

「ちょっと失礼。トイレに……」

お父さんは律子さんに視線を合わせることなく立ち上がると、1階へと続く階段へと向かった。

「あの、もしかして傀儡子様、お身体の調子が優れないのでは……?」

「ま、まあ……でも気にしなくても大丈夫ですよ。
ちょっと昨日のカレーがあたっただけですから。食当たりですよ……おほほほほほ……
おほんっ! ということで、お話は助手である北原雪音が承ります。
なんなりと、お申し付けください」

あたしは、クッションの効いていない胸をドンと叩いた。

「え、ええ……実は、あの日の夜。
思い切って私は、傀儡子様に撮っていただいた写真を主人に見せたんです。
そうしたら、思った以上にあの人は興味を持ったみたいで……あ、あの……ベッドで久しぶりに……その……」

律子さんは、女○高生を前にして顔を真っ赤にしたままうつむいてしまった。
あたしは、ごくんと溜まった唾を飲み込むと、乾いたくちびるをペロリと舐めた。

「旦那様と愛し合えた?」

うつむいたままの律子さんが、小さく頷いて小さな声で言葉を続けた。

「ですが……その日、1回だけだったんです。翌日にはもう……」

「パソコンを相手にしていたと……?」

律子さんは、肯定するように低く嗚咽を漏らすと、封筒から数枚の写真を取り出しテーブルの上に並べた。

「あ、あの……若いお嬢さんにこんなモノを見せるのはどうかと思いますが、新たに主人のパソコンに入っていたデータをプリントしてきました」

「え~っと、ちょっと拝見……って?! け、結構……か、過激なんですね?」

あたしくらい。ううん、もっと年下の女の子が、お尻を床にひっつけたまま両足を拡げている。
柔軟体操? ……違う違う!
水着も下着も身に着けずに……まあ、大切な処だけはモザイク処理されているけど……

これって、あれでしょ?
18歳未満禁止っていう大人の人限定の写真集で……ってことは、あたしも見てはダメなのかな?

でもでも、大胆!
この子なんか、大股びらきしたうえに、おっぱいまで揉んでるし……
あっ! この子なんか両手で大切な処をひらいちゃってる! もちろんモザイク掛っているけど……

う~ん。なかなかやるわね。

「あ、あの……久藤様……それで……失礼しました。そ、そ、その問題とは……?」

その時、ほんの少しだけ顔色を取り戻したお父さんが帰ってきた。
相変わらず、気が動転しているのか? 日本語はメチャクチャだけどね。

「ちょっと、こっちこっち!」

そんなお父さんを、あたしは部屋の端へを引っ張った。

「お父さんって、血圧低めだったよね♪♪」



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雪音に流れる血























(9)
 


「律子さん、ちょっとご提案が……」

あたしは渋るお父さんを引き連れてテーブルに着くと、覚悟を決めて自分のプランを説明した。

「どうでしょう? これならあの子たちに勝てると思うのですが……」

あたしは、テーブルの上に並ぶ卑猥な女の子たちを指差した。
そして、たたみ掛けるように言った。

「ご安心ください。律子さんの撮影データは前回同様、全てあなた様にお渡し致します。
撮影はもちろん、プロの中のプロカメラマンである、こちらピンクの傀儡子が。
撮影アシスタントは、若くてピチピチそれなのに経験も豊富。北原雪音、あたし……じゃなかった私が行います。
ということで、律子さん。今から勝負写真! の撮影といきませんか?♪」

あたしのハチャメチャな説得に律子さんが顔をあげた。
まぶたが決壊しそうなくらい涙を溜めたまま、コクリとうなづいてくれた。

「え、ええ……お嬢さんにお任せするわ。
これで、あの子たちから主人を取り返せるなら、私はどんな恥ずかしいことだってするつもり。
だから雪音さん。ピンクの傀儡子様。私の方からお願いします。
どうか律子の身体を全て撮ってください。性器もなにもかも、私のすべてを……」

「任せといてください!
さぁお父さん、撮影の準備をして! 超特急でね♪」

あたしとお父さんは、大急ぎで撮影機材の準備を進めた。
いつもなら10分以上かかるところを、カップめんと一緒、たった3分で片付けた。
だって、せっかく決意を固めてくれた律子さんが心変わりしちゃったらどうしようもないもの。

最後に、お父さんの指示に従って照明を調節する。
前回のオレンジ色から、今度はう~んとエッチな雰囲気になるようにピンク色に切り替えた。

「律子さん、準備が整いましたぁ~。
それではカメラの前に立ってください」

ピンク一色の可愛らしくてちょっといやらしい世界に浮き上がる、美しい女性の立ち姿。
その世界観に威圧されたのか? 
お父さんが、あたしの脇を突いた。

「雪音、どうしよう? やっぱり僕には無理だよ。
ううぅっ、お腹が……?! ちょっとトイレに……」

「逃げちゃダメよっ、お父さん。
ほら、被写体があんなに悲愴な決断をしてくれたんだから、下痢ドメでも飲んで我慢しなさい。
なんなら、オムツでも穿かせてあげようか? 娘のあたしが……ふふふふっ」

お父さんが真顔でカメラを覗いた。
でも指示は出してくれない。
というより、おでこに脂汗を浮かべたままカチカチに固まっている。

仕方ないわね。だったらあたしが律子さんポーズをつけてあげる。

「では律子さん。恥ずかしいでしょうけど頑張りましょうね♪
それじゃあ、そのままでスカートを持ち上げてください。
その……ショーツが覗けるくらいに……」

「は、はい……」

あたしの指示に従って、律子さんがスカートを捲りあげていく。
この前より丈がちょっと短くて、ひざ小僧が見えちゃってる水色のスカート。
それを指先で摘むようにして、ウエスト付近まで持ち上げた。

「律子さん、OKです。少しの間、そのままで……」

カシャッ、カシャ、カシャ、カシャッ……

ピンクの照明に浮き上がる、豪華なレースがあしらわれた純白のショーツ。
もしかしたら律子さん。
ここへ来る前から、自分がこうなることを覚悟していたんじゃ……?

「次はブラウスを脱いで……そのぉ……ショーツも脱いじゃってください」

あたしが差し出した脱衣かごに、折りたたまれたブラウスが入れられた。
律子さんの豊かな胸を覆う上下お揃いの純白のブラジャーと周囲に漂う微かな香水の匂いに、あたしの勘は確信へと変わった。

これだったら少々大胆に攻めても大丈夫かも?

「あの……下も……ですよね?」

律子さんの問い掛けに、あたしは大きくうなづいてみせた。
そして、真横から視線を逸らさずに彼女を見続けた。

スルスル……ススゥーッ……

同性の目に晒されながら、律子さんはスカートの中に指を入れると真っ白なショーツを下した。
下すと、この前と同じ動作でブラウスの下に隠した。

「では律子さん。そのままスカートを持ち上げてください。
大切な処がよく見えるように……」

「……ぅぅっ……はい」

あたしは、当り前のように指示を出していた。
この前なんか、ボー然としてお人形みたいになっちゃってお父さんに笑われて……
それなのに、今は全然平気?
それどころか、胸が高鳴っちゃって普段の雪音じゃないみたい。

「……ああぁ、は、恥ずかしい」

律子さんが真っ赤な顔をカメラから背けた。
でも、あたしの言い付けどおりにスカートを限界まで持ち上げている。

身体の芯がグラグラ揺れて、裾をギュッと掴んだ指がブルブルしている。
ボリュームのある太ももが隙間のないくらい閉じ合わされて、それから取り残されたように黒々とした陰毛が大きな逆三角形を描いている。

「お父さん! 早く撮ってっ!」

「ああ、はい」

カシャッ、カシャ、カシャ、カシャッ……

「次は律子さん、レンズに向かって笑顔でお願いしま~す♪」

乾いた、それでいてハイな声がコンクリートの空間に吸い込まれていく。
あたしは自分自身に話しかけていた。

雪音の中に流れる血って……なに?!
ううん、雪音って……なんなの?!



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スタッフだって脱ぎます!!























(10)
 


全裸になった律子さんは、大きめのバスタオルを肩に掛けた姿で休憩している。
あたしは、逸る気持ちを抑えながら彼女に話しかけていた。

「律子さん、あの……大丈夫ですか?」

「え、ええ……」

「もし、辛くなったらいつでも声を掛けてくださいね」

「ありがとう、雪音さん」

律子さんが力のない笑顔を作った。
同時に「準備できたよ~」って、お父さんも力のない声をあげる。

「それじゃあ、始めましょうか?」

あたしの言葉に小さく頷くと、律子さんはバスタオルを外した。
中からは、同性でもうっとりさせられちゃう、スタイル抜群のボディーが姿を現している。

雪音。あなたはいつから、そんなイヤな女の子になっちゃったの?
いつから、そんな心にもないことを話せるようになったの?
そんなにエッチな撮影が楽しいの?
誰かが話しかけてきた。

「雪音、どうした?」

「ううん、なんでもない。
では律子さん、まずは正面を向いて気を付けの姿勢で……♪」

あたしは、強張った表情の律子さんに笑い掛けるとポーズを促した。

カシャッ、カシャ、カシャ、カシャッ……

そうよ、ここからが勝負写真よっ!



「背中を向けたまま、お尻の肉をキュッと持ち上げるような感覚で、そのままこっちを振り返って……」

カシャッ、カシャ、カシャ、カシャッ……

あたしは、次々と律子さんに指示を出していった。
その隣では、完全にロボットになっちゃったお父さんが、ひたすらシャッターを押し続けている。

「いいですよ。律子さん、とってもきれい♪
それじゃあ、次は四つん這いになってください」

「よ、四つん這い?」

解れかかった律子さんの顔に困惑の色が浮かぶ。
それと同時に、羞恥心が蘇ったのか? ピンクに染めた頬を誰が見ても分かるくらいに真っ赤に染め直している。

う~ん。一気にハードルを上げすぎたかしら?
でも律子さんにはもっと淫らなポーズをしてもらわないと、あの子たちに勝てるわけなんなかない。
絶対に……!

「お父さん、お願いがあるの」

「なんだい、雪音?」

「あたしたちも脱ぎましょ。そうよ、服を脱いで裸になるのよ!」

「うぅ~うそだろ?! 雪音。いくらなんでも、そんなことまでしなくたって……」

「ダメ! そこまでしないといけないのよ。
あたしたちも恥ずかしい思いをしないと、律子さんだって前に進めないのよ。
さあ、早く……!」

あたしはそう言うと、無地のTシャツを頭から抜き取った。
続けてジーンズのホックを緩めると、お風呂に入るみたいに何も考えずに脱いだ。

隣ではお父さんが……ピンク色のスタジオで律子さんが……
それぞれ、唖然とした顔であたしを見つめている。

「なにしているのよ! お父さん。さっさと脱ぎなさいよ。
それとも、娘のあたしにだけ恥をかかせる気?」

「ああ……いや……その……」

お父さんは、ブラとパンツだけになったあたしに短く視線を送ると、「はぁ~」って呻きながら頭をうなだれた。
そのまま着ている物を脱いでいく。

「律子さん、ちょっと待っててくださいね。
このスタジオ、地下にあるから蒸し暑くって……
空調の調子でも悪いのかな……あっ! お父さん。その……パンツは脱がなくていいから……」

あたしは、男性になっちゃったお父さんをチラリと見てから目を逸らした。
そして3分後、下着姿の親子に見守られながら撮影が再開された。

「次は正面を向いてください。
そう、そのままで顔をレンズに向けて……モノ欲しそうな目をして……はい」

カシャッ、カシャ、カシャ、カシャッ……

四つん這いになった律子さんが、潤んだ瞳であたしたちを見上げた。
まるで愛嬌を振りまく子犬のように両手両足を床にひっつけたまま、あたしがOKを出すまで人間じゃないポーズを続けている。

でもそれがどんなに辛いことかって、同性のあたしにもわかっているつもり。

ほっそりとした肩を支える両腕が、痙攣するように震えているのを目にすれば……
両腕の間で、垂れ下がる真っ白な乳房まで哀しそうに震えているのを目にすれば……
生身ではない女の子たちから夫を取り戻すため、恥ずかしい試練に耐える律子さんの震える心を目にすれば……

あたしは……雪音は……

「OKです。それでは、今度はヒップをこちらに……律子さん、がんばって♪♪」

喉の底から可愛い声を絞り出していた。
心を鬼に変えながら、天使の声で励ました。

でもなにか違う。なんだろう?
この部屋が蒸し暑いなんてデタラメだったのに、身体中が火照っている。
ブラとパンツだけなのに、それでも暑いの。切ないの。

たまにやって来るムラムラとした気分。
ひとりベッドの中で、いけないのに自分を慰めちゃう、そんな気分。

「雪音、顔が真っ赤だけど、大丈夫?」

カメラを覗きながら、お父さんの片眼があたしを見ている。
あたしはなにかを吹っ切りたくて首を大袈裟に振った。

そして「大丈夫よ」って……
その後、胸の中でこっそりつぶやいていた。

『あたしがピンクの傀儡子を名乗ろうか?』って……



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