(11) 両手を突いたまま、律子さんが方向転換する。
あたしの耳にもはっきりと聞こえる苦しげな息遣いを残しながら、丸くて大きなお尻がカメラのレンズに晒されている。
「律子さんのヒップ……張りがあって、とってもきれい」
「あ、あぁぁ……そんな、恥ずかしい……」
律子さんの恥じらう声につられて、お尻が左右に揺れる。
弓なりに反った背中のラインも、くねくねと揺れた。
その下の、女の部分だけはなんとしても死守しようとして、ひざから太ももの裏側をピッタリ閉じている姿が同性のあたしにも痛いくらい伝わってくる。
「お父さん、シャッターを押してッ!」
カシャッ、カシャ、カシャ、カシャッ……!!
いつまで経っても調子の上がらないお父さんに、あたしは苛立った声をあげた。
あげながら、その苛立ちを自分にもぶつけていた。
さっきから疼いてしかたがない、雪音の下半身にも……雪音の女の子の部分にも……
「次、太ももを拡げてみましょうか?」
優しく柔らかく言ったつもりなのに、声のトーンが1オクターブ上昇した。
その声に刺激されちゃったのか?
律子さんのふたつに割れたふくらみが、ビクビクッて怯えた。
「ご、ごめんなさい。変な声出しちゃって……
あ、ゆっくりでいいですから、気持ちを落ち着けながらそぉーっと……」
「……はい……はぁーっ、はぁーっ……んんくッ」
密着していたひざが左右に引き離されて、ステージの床に突き立てられていたツマ先も離れ離れになって……
律子さんのお尻の下に逆Vの字形の空間が生まれた。
大切な人にしか見せてはならない女性の部分。
初めて見る、他の女性のデリケートなゾーン。
それも、あたしより年上のおとなの性器。
あたしは呼吸するのを忘れて見入っていた。
脳裡に浮かべた自分のあそこと見比べながら、結婚して10年も経っているのに、全然きれいでピタリと閉じた大陰唇の扉にちょっと嫉妬して……
真っ白な太ももとそこだけ区別されるように赤くなった肌の色に、雪音も一緒って、ちょっとだけ勇気をもらって……
だからあたしは、隣で連続して響くシャッターの音にも気付いていなかった。
あたしの目にもお父さんにもカメラのレンズにも、晒してそのままじっと耐えて、死ぬほど辛い律子さんの気持ちを忘れかけていた。
「すまない雪音。こういうのは、タイミングが命なんだ」
「ううん、いいの。やっぱりプロなんだね、ピンクの傀儡子さんって……」
鼻息を荒くしても、それでも自制心を失わないお父さんになんだかホットした。
「あ、あの……もう、いいでしょうか?」
連射するシャッター音が途切れるのを待っていたかのように、律子さんの泣きそうな声が聞こえた。
「はい、OKです。よくがんばりましたね」
張りを取り戻したお父さんの声が応えた。
いよいよ、ラストの勝負写真ね。
でも、その前に……
あたしは頭の中を真っ白にする。
思いっきりバカになって、喉元から飛び出しそうな心臓を押さえこんで……
パチッ……ススッ……スルスルスルー……ススーッ……
ブラジャーを外した。
両指を腰に添えると一息にパンツも下した。
かぁーって身体の芯が熱くなって、目の前がクラクラして……
人前で生まれたままの姿になるのが、こんなに辛いんだって初めて自覚して……
それでもこんなのカメラアシスタントなら当たり前でしょって顔をして……
こっそり脇にひっつけた両腕が胸と下腹部に向かうのを阻止して……
あたしは写真集の女の子たちを意識した。
お父さんの視線が全裸の娘を秒速で視姦する。
そのままパンツが破れそうなくらいあそこを膨らませながらカメラを覗いた。
「雪音さん、あなたまでそんな……?!」
「いえ、気にしないでください。
実はあたし……露出狂なんです。
こうして裸になると、なんだか心まで解放されたみたいで……あ~ぁ」
あたしは、伸びをしながらアクビした。
ツマ先から指の先までピンと伸ばしたまま真っ赤な顔をリラックスさせて、露出狂なのになぜだか太もものをキュッて閉じちゃって……
そうしたら、あたしを見ていた律子さんが顔をほころばせた。
私も! って、あたしをマネするように全裸のまま伸びをしてアクビをした。
そして、お互い真っ赤な顔を見つめ合いながら笑った。
しばらくの間、笑い続けた。
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