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彷徨いし情念























(6)
 


その夜、やはりというべきか例の男性は、わたしたちの元を訪れた。

ここ最近、身体がダルオモ。それで病院に行ったけど異常なし。
けれどもその症状はだんだん悪化して、藁をも縋る思いで非文明的な存在のわたしたちに助力を……ということらしい。

「間違いない。安積淳二(あづみ じゅんじ)とやら、お主は取り憑かれておる。
嫉妬と未練が混在した『恨鬼』にのう」

「そんな……京香が、どうして……?」

お父さんは一息吐くように湯呑に入ったお茶を啜った。
漆塗りの座卓を挟んで向かい合うように座る男性。
安積という病人さん? は、両肘をついたまま頭を抱えている。

「えっと、冷めないうちにお茶をどうぞ」

わたしはお父さんの隣に座ったまま、落ち込んでいる彼にお茶をすすめた。

ここは、お社の中にある鬼払いの間。
板張りの殺風景な部屋は、鬼が出入りするとされる子と卯の方位にあたる扉の上、つまり北と東の方角に、結界の印を施した特殊な紙垂(しで)が下げられている。
だから当然、わたしの目にもさっきの女の人は見えない。
お父さんが見ているのは、きっと彼女の残留思念だと思う。
なんでも厳しい修行を積んだ高位の霊媒術師には、飼っていたペットの霊どころか、キッチンに出没するゴキちゃんの魂まで見分けられるとか……?
う~ん……跡を継ぎたくないような……

「ところで、お主が取り憑かれておるその京香殿のことだが、籍には入れておったのか?」

「あ、はい。2年前に彼女と式を挙げ入籍手続きも済ませました。
それが、ちょうど1年前の今日……」

安積さんは言葉を詰まらせて、またうつむいちゃった。
なんでも結婚記念日の朝、京香さんと彼は些細なことで喧嘩しちゃったんだって……
それで怒った彼女は玄関を飛び出して、運が悪いことに走ってきた車に跳ねられちゃって……
京香さん、かわいそう。残された安積さんもだけど……

「やはりのう……籍に入っていたとなると、ちと厄介かもしれん」

お父さんは、無いヒゲをさするようにアゴを撫でた。

「なにが厄介なの?」

「神楽、お前も『婚儀の契』は知っておろう?」

「え、ええ……まあ」

わたしは曖昧に答えた。

「そこでじゃ。世の中では、華やかな結婚式を重視する風潮が蔓延ってるが、真に大事なのは役所で行う入籍手続きの方でな。
つまり、式典は神に対する『意志表示』、決意表明みたいなもの。
対して、入籍手続はその行為が示すとおり信ずる神への契約を意味する。
たかが、書類上での手続きと思っておると、とんでもない罰が落ちることだってある。
なんと言っても、この日の本の国には八百万の(やおよろず)神々が鎮座しておられる。
それがまた、この上もない歓びでもあり、因果なモノを生むしがらみでもある。
ふーぅ。神楽、お茶」

「はいはい。安積さんのも温かいお茶を淹れ直すわね」

わたしは、ふたつの湯呑にお茶を注ぎながらお父さんの言葉を考えていた。
なんだか回りくどくてヤヤコシイことを話してたけど、要するに同じ霊が取り憑くとしても、婚前と婚後では全然パワーが違うってこと。
今回の場合は結婚後だから、強力な恨鬼とご対面ってことになるのかもしれない。



取り敢えず、安積さんには封鬼の印をお父さんが施して帰ってもらった。
これでしばらくの間は、京香さんも彼に触れるどころか近づくことさえできないはず。

そして、その日の深夜。わたしたちはリビングのテーブルに顔を突き合わせて作戦会議を開いていた。
集まったのは春夏秋冬家精鋭三人衆。
ようするに、わたしとお父さん。それに育児疲れ? の守のことだけどね。

「それで、どうやって彼女を浄化するの?
わたしの見たところ、京香さんの放つ霊気はかなり強力よ」

「それには私も同意です」

斜向かいに座る守も深くうなづいた。

「うーむ。やはりここは『浄滅』しかあるまい。
それなら、事は簡単にけりがつく」

「だめよ、お父さん。そんなことをしたら京香さんの魂まで消えちゃうじゃない。

憎むべきはそんな彼女に取り憑いた恨鬼の方なのよ」

「それは、わかっておる。わかってはおるが……」

お父さんは湯呑に手を伸ばしたまま、閉じたまぶたを震わせた。
隣では守がくちびるを噛み締めている。
重苦しい空気が部屋いっぱに漂い始めていた。

「もう、ふたりとも! らしくないじゃない。
こうなったら、神楽がなんとかする。わたしが京香さんの魂を救ってあげる」

「救ってあげるたって、お前……?」

「魂柱よ。わたしが魂柱になるのよっ!」

わたしは、突然浮かんだ言葉を叫んでいた。
お父さんが小さく溜息を吐き、守が悲しそうに目を伏せる。

魂柱……
『自ずの肢体を持ちて、悪鬼を呼ばん。
但し、情欲に溺れし身体無力なれば、たがの助けを欲す』

「うん。わたし決めたわ。それでいく。
そうすれば、聖液も溜まるし、お母さんを助けることもできるかも」

わたしは、お社の背後に祀られている奥社の方角に目を合わせた。
申し合わせたように、お父さんも守も同じ方角を見ている。

「だが、今度の相手。これは危険な賭けになるぞ。それにお前は……その……」

「わかってるって。だからそれ以上言わないでよ。恥ずかしいじゃない。
ほら、守もそんな悲しそうな顔をしないでよ」

「……はい。私は」

「それと、守はお留守番をお願いね。
魂柱の儀式には、嫉妬心が御法度なの。もしものことがあったら……ね、ごめん」

守はくちびるを動かしかけた。
でも、そのまま頷くと静かに部屋を出て行った。

「それじゃあ、お父さん。ボディーガードをよろしくね♪」



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年上の男の子をリードして























(7)
 


「あ、あの……春夏秋冬さん。本当に……?」

「はい、淳二さん。だからわたしのことも、苗字ではなくて名前で……神楽って……」

「神楽……さん」

「うれしい。淳二さん♪」

わたしは、ベッドの端で彫像みたいに固まった男性に抱きついた。
両腕を背中の後ろでクロスさせて、お互いの身体をバスタオルを挟んで密着させる。

「ふふっ、心臓がドクドクしてる。もっと肩の力を抜いてよ。淳二♪」

「あ、ああ。こ、こうかな?」

淳二さんは、わたしから目を逸らせたまま、肩を2度3度持ち上げては下した。
言われたとおりにリラックスしようと、深呼吸も3回繰り返した。

「うん、その調子。後のことは、神楽に任せてね」

わたしは淫らなお仕事を愉しむように舌を見せた。

魂柱。それは当主見習巫女である神楽の身体を使って男の人と肌を合わせること。
もっと普通に言えば、セックスするってこと。
そうすることによって、性愛エネルギーに反応した鬼が現れるの。
それが身を滅ぼす罠だとも知らずに……

「淳二さん。見ててね」

わたしは淳二さんから離れるとベッドの脇に立つ。
そして、不安そうに見上げる淳二さんに右目でウインクすると、脇の下で堅く結んだバスタオルをはらりと床に落とした。

スルスル……ファサッ……

ごわごわしたタオル生地が過敏な肌を刺激する。
瞬間、神楽の女の子がちょっとだけ恥じらいを浮かべた。
同時に、淳二さんの目線が下から上へと駆け上がって、急降下するようにダブルベッドに落ちている。

「ど、どうかな? 神楽の身体。これでもプロポーションにはちょっぴり自信があるんだけどな、ふふっ」

唇の端に悪戯っぽい笑みを浮かべて、生まれたままの姿で1回転する。
神楽自慢のバストも、これ以上成長して欲しくないヒップも、経験済みだけどやっぱり覗かれるのはちょっと……の秘密の場所も……

「…… ……」

でもトランクス1枚の姿で、反省するようにうつむいたまま正座している淳二さん。
さっきはちらっとだけど、神楽の身体を見てくれたのに……
わたしは、そんな彼が5歳も年上なのに、逆に5歳も年下に思えて……これって母性本能なのかな?
胸の奥がキュンとなるのを感じた。
同時にいつまでも彼の心に住み続ける京香さんを、ちょっぴり羨ましくも感じた。

「あのね淳二さん。こんな格安ホテルで、そのぉ……あのぉ……エッチすることに抵抗あるかもしれないけど、これもあなたのためなの。ね、わかって。
こんなわたしだけど、好きでもない人とエッチするのって苦痛だと思うけど、お願い! 神楽を抱いて! セックスして!」

「あ、あぁっ……か、神楽さん?!」

わたしはベッドの真ん中で淳二さんを押し倒していた。
そのまま、彼の上に身体を乗せて唇を合わせる。

「ちゅっ、うむぅぅっ。淳二さん……お願い……はんむぅ、神楽を……」

戸惑いと気後れの表情のまま淳二さんも舌伸ばしてくる。
わたしは唇の隙間を開いて彼の舌を受け入れると、お返しに神楽の唾液を流し込んであげた。

「おいしい? ちゅぷぅ、ちゅぷ。飲んで♪ 淳二さん。んむぅ、神楽の飲んで♪」

「はぐぅ、はむ。君のこと嫌なんかじゃない。嫌じゃないけど……神楽さん、すまない。君をこんな形でなんて……ちゅぶ、ちゅぱ」

「そ、そんなこと……むちゅぅぅ、気にしないで。これもお仕事……それに、わたしたちの使命だから……
はぐぅ、そんなことより、神楽のおっぱいを弄ってよ。ねぇ、触って……ほら♪」

名残惜しそうに唾液の糸を引く唇を別れさせて、淳二さんの腕を掴んだ。
背中を反らせて空間を作ると、おっぱいへと誘導してあげた。

これじゃ、まるで淫乱娘。
わざと部屋中に響くようにおっきな声で、エッチ大好きな女の子になりきって……
乗り気じゃない年上の男の子をその気にさせて……
神楽は、バージンを失ってから?回目のセックスをしようとしている。

毎回違う相手と、未熟で大人の世界なんて全然知らないのに、それなのに毎回神楽がリードして、セックスしないといけないの。
これが春夏秋冬家に生まれた者の定めだから。
ひとり娘としての覚悟だから。
恥ずかしいけど見守っていてね、お母さん。

「はあぁ、ふぅん。上手よ、淳二さん……ああぁ、優しくて……きもちいいよぉ。
もっと、神楽のおっぱいを揉んで! 揉んで気持ちよくしてぇ……はうぅぅっ」

わたしは、両手を使って乳房を揉む淳二さんを励ました。
まだまだギコチないけど、時々指先に力がこもって神楽のおっぱいに痛みが走るけど、いいの。許してあげる。
だって彼、一生懸命なんだもん。
これから始まる辛い経験を乗り越えようと必死なんだもん。
だから、もっと神楽のおっぱいをオモチャにしていいよ。
硬くなった乳首もつねっても構わないから。
気持ちいい! って叫んであげるから。

カタカタとベッド脇に置いた観鬼の手鏡が揺れた。
午前零時を過ぎたホテルの廊下にハイヒールの音が響いてくる。
コツコツと小さな音だけど確実にこの部屋へと近づいて来る。

淳二さんは、わたしのバストに夢中になってまだ気付いていない。
わたしは、部屋の隅に備え付けのワードローブに目配せをする。

頼むわよ、お父さん。
いいえ、今は『輪廻の霊媒術師 春夏秋冬 四巡(ひととせ しじゅん)』だったよね。



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鮮血に染めた顔























(8)
 


「ちゅぶ、ちゅぷ。はんむぐ……神楽さんの乳房、なんて柔らかいんだ。
それに、尖った乳首も小さくて可愛らしくて……カリッ!」

「ひゃあぁぁっ、だめぇ淳二さん。ち、乳首は噛まないでぇっ……神楽ぁ、変になっちゃうぅ」

身体の位置をもっと上にずらせて、わたしのおっぱいの下には淳二さんの顔がある。
神楽のふくらみに交互にしゃぶりついては、舌の先っぽで乳首をクルクル回されて転がされて、わたしの反応を楽しむように前歯を当てられた。

お父さんがいるのに……
姿を隠して気配まで消しているけど、お父さんが覗いているかもしれないのに……
でも、肩の関節から力が抜けちゃう。
ひじもガクガクして隙間が消滅して、胸のお肉が淳二さんの顔を包みこんじゃう。

「はあぁんん、いやぁ……おっぱいからぁ電気が流れちゃうぅぅっ。もう……そんなぁ許してぇっ」

ハイヒールの音が部屋の前で消えた。
わたしは淳二さんの舌に背中をびくんとさせながら、待機させた霊感に気配を探らせる。

ぴんと張り詰めた空気がわずかに歪み始めている。
この世のものではない異世界の気体が、見えないドアノブを回し見えないドアを開いて侵入してくる。
まるで、生きているときのように……
ううん、生きていると言い聞かせたくて、幻影のドアを作りだしたのかも?

「はあ、はんむっ。神楽ちゃん、そろそろ……いいかな?」

ぎこちなかった淳二さんが甘い声で囁きかけてくる。
いつの間に脱いだのか、ひざのあたりをダイレクトに硬い肉の棒が触れて、それの意味を教えてくれる。

「はうぅっ、んあぁっ。いいよぉ、淳二さん。きてぇ、神楽の膣(なか)に入れてぇっ」

わたしは、身体を起こすと仰向けに寝転んだ。
ダブルベッドの上でひざの裏側に両手を差し込んで、足を縮めたカエルのように両足を広げていた。

恥ずかしくなんかない。
そうよ。わたしは『輪廻の霊媒術師 春夏秋冬 四巡』のひとり娘、神楽なの。
おっぱいを弄られて大切なトコ、濡れちゃっているけど平気よ。
これがわたしの役目だから……神楽が決めたんだから……
淳二さんとの最初で最後のセックスでも全然気にしないんだから……

天井で渦を巻いていた邪気が、どんどん立体化している。
鏡を通して見るその姿は……
髪が長くて淳二さんと同じくらいの年齢で、交通事故に会ったと聞いているけど、やっぱりというか、顔の半分が鮮血で染まっていて……

「ごくっ、ここが神楽ちゃんの……お、おま○こ?!
き、きれいだよ。そう……だよね。まだ18歳だもんね。
恥ずかしい毛だって薄いし、割れ目だってお肉がぷっくり膨らんで……ああ、感じていたんだね。
ヒダの下からエッチな液が滲み出ちゃっているよ」

「いやぁ、そんなに見ないでよぉ。神楽、恥ずかしい♪」

淳二さんは自分のモノを握り締めたまま、身を乗り出すようにして神楽の恥ずかしいトコを覗き込んでいる。

あなたの大切な人が近くにいるのに……
あなたはまだ気付いていないかもしれないけど、さっきからベッドを覗き込んでいるのに……

でもわたしは、そんな彼女を挑発するように彼に甘えるの。
まだこんな邪気では足りないから、淳二さんの前で神楽の女の子を見せてあげるの。
ちょっと震えて羞恥心に心が押しつぶされそうだから、恨めしそうな淳二さんの彼女に鼻で笑ってあげるの。

お父さん、もう少しだからね。
ちゃんと準備しといてよ。

わたしはもう一度、部屋の端へと視線を送った。
そして、いつまでも覗かれるのは辛いから、膝に当てていた両手を前に突き出した。手のひらを広げた。

淳二さん、さあ来て♪ って感じで……

「神楽ちゃん! か、神楽ぁっ!」

チュプッ、チュブッ……ズズズッ……ズリュッ……

「あうぅっ……くうぅぅっ……一気にぃっ、きついぃぃっ!」

おとなしそうな淳二さんが、別人のような形相であたしの上に圧し掛かる。
一息で腰を押し出す。

カチカチに硬くなったモノが、膣のなかへと挿入される。
濡れてはいるけど、痛くなんかないけど、緊張して強張った肉の壁を強引にこじ開けられちゃった。

我を忘れた淳二さんに、一瞬恐怖を感じた。
神楽の脳裏にぼやけた守の顔が浮かんでは消える。
でもそれが影響したのか、彼の背中で長い髪の彼女が薄ら笑みを浮かべた。

いけない! 邪気のパワーが落ちてる!
わたしが苦痛を感じれば感じるほど、彼女の満足感が邪気をパワーダウンさせちゃってる。
つまりこういうこと……
神楽が淳二さんの大切な人になっちゃえばいいの。
憎しみや嫉妬、哀しみが、邪気をパワーアップさせる最高の食材だから。
そうすれば、後のことは輪廻の霊媒術師さんが……

ズ二ュッ、ズニュ、ズニュ……ズズズ……

「ああっ、ふうぅっ……淳二のぉ、硬くて熱いよぉ。もっとぉ、もっと突いてぇっ!」

いやらしい声で、はしたない言葉を叫んじゃった。
連続で腰を上げ下げしている淳二さんを協力するように、あたしも腰を持ち上げた。
びっしょり濡れている割れ目を上向きにして、もっと深く挿入できるように調節してあげた。
そして鼻の穴をふくらませて、うっとりした瞳で淳二さんを見つめるの。
あなたの彼って、神楽の身体にゾッコンなのよ♪ って……



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なれの果て……怨鬼























(9)
 


ピシッ! ピシッ! ピシッ! 

生木を引き裂くようなラップ音が、部屋のあちこちでする。
室内を暖かく照らしていた照明がチカチカって震えて蝋燭を吹き消したように消えた。
残されたのは、重なり合う身体を薄明るく照らすベッドライトのみ。

「な、なんだ?! て、停電? それにあの音?!」

わたしと深くつながったまま、淳二さんの腰が止まった。
霊感に乏しい普通の人でも、五感が刺激されるような変化にはさすがに気付いちゃうよね。

「だめぇ、やめないでぇ。淳二さん続けてっ!」

「でも……やっぱりこれが……ああ、ああああぁぁッッッッ!!」

「うっぅぅっ、お、重たい」

まるで幼い子供みたいに淳二さんがしがみついてくる。
何も見たくない。何も聞きたくないというように、おっぱいの狭間に顔を埋めてイヤイヤをしている。

彼女が唇の端を上げて笑った。
首だけで宙に浮いていた姿が上半身をリアルに再現して、愛する彼の背中に貼り付こうとする。
愛らしい花柄のワンピース。
その右半分も、真っ赤なモノで染め上げて……

でも、こんなの見慣れていて全然怖くないんだから。
どんなにあなたが実体化しても、指一本触れることさえできないんだから。
その程度の霊力ではね。

わたしは彼の頭を撫で撫でしながら、そっと聞こえるようにささやいた。

「大丈夫よ、淳二。大丈夫だからね♪
だから、さあ、神楽のエッチなお肉を刺激してぇっ!
もっとぉ神楽をあいしてぇ。もっとぉ深くぅ、淳二のおち○○んでぇっ!」

「はあぁ、う、うん」

さっきまでの欲情に取り憑かれた表情が消え去っている。
残っているのは、臆病で純真な少年の面影。
そんな彼をわたしは年下なのにリードしていく。
なんとなく可愛くて、守ってあげたいって気にさせられて……

だから、おっぱいに埋もれた顔を引き離すと、お互いの唇を吸い合った。
濃厚な唾液の交換をしながら、促すように腰を揺らせてあげた。

ズニュズニュ、ジュチュ、ジュチュ……ズズゥ……

「ふあぁ……あぁぁ。淳二、じょうず……んんっ、神楽ぁ気持ちいいぃぃっ!」

「はあ、お、俺も……神楽の膣(なか)って、今までの誰よりも熱い。
それなのに、うぅっ、締め付けられてっ!」

初めてなのに……彼とは一夜限りの初めてなのに……
熱くて硬い肉の棒が、神楽の膣にフィットしている。
優しくて刺激的な挿入に、敏感な壁が悦んでエッチなお汁が溢れてきちゃう。

(……淳二……さん。私の……淳二。ううっ……うっ、ううぅっ……ゆ、許さないッ! あんたぁッ! 許さないからねぇッッ!!)

ピシッ! ピシピシピシィッッ!

大気が振動する。
彼の背中に頬を寄せている、この世の人でない女性。
その人をめがけて、部屋に残る無垢な気が吸い寄せられて邪へと変化していく。

わたしはその様子を観察しながら、淳二さんの腰に足を絡めた。
自分の世界に閉じ籠ったまま一心不乱に腰を振る彼と、更に深く深くつながった。

「ふああぁっ、出してぇ。神楽のあそこに射精してぇっ……淳二ぃっっっ!」

(殺すッ! あんたを喰い殺してやるッ!!)

彼女は直接わたしの精神に訴えかけながら本性を露にする。
顔半分にべったりとに貼り付き、頭頂部から後頭部にかけて逆立たせた長い髪。
額を縦に走る瘤のような青筋。
カッと見開きながら斜め上に吊り上がった濁った瞳。
耳の下まで裂け、血のように赤いくちびる。
そして、その端から覗く鋭い牙。

怨鬼!!

「ううっ、はあ……神楽ぁ、で、出るぅっっっ!!」

その時だった。背中に彼女を背負った淳二さんが、合わせた肌を通して振動を伝えた。
同時に硬くなった分身が、神楽の膣で爆ぜるのを感じる。

どぴゅうぅぅ……どぴゅぅ、どぴゅどぴゅどぴゅ……

「はああぁぁんんっ、はげしいぃっ! 淳二のぉ……ふあぁっ、でてるぅっ、噴き付けられちゃうぅぅっっ!!」

(ヒイィィィッッッ! おのれェェッッ!!)

背中に貼り付いた彼女の首が伸びる。
引き伸ばされた首筋に蛇の鱗を纏わらせて、どす黒い血に染まった口を開けた。

人間のものではない鬼の牙。
それがギラリと光る。
集約した邪気に寒々しいまでに青白く染まり、一直線に落ちてくる!
神楽の喉元めがけて喰らい付こうとする!

ボォォッッッ!!

「待ていッ!」

突然、部屋に響き渡る凛とした声。
それと符号さたように、ワードローブに貼られた祈札が紅の炎を上げて燃え上がる。

「遅いよっ、お父さんっ!」

(なにものッ!)

ゴムのように伸びた女の首が、芝居じみた声の主を探る。
文字通り首の皮一枚のところで、怨鬼の動きが止まった。
わたしは、淳二さんのモノを挿れたまま身体を起こすと、鬼となった彼女を見つめた。

「ごめんなさい。でも……こうするしかないの。ふたりの今後のためには……
さあ、あとは任せたわよ。四巡!」

(四巡……? まさか、輪廻の霊媒術師?!)

お父さんの名前を耳にした彼女に動揺の色が浮かぶ。
わたしにしがみ付いたまま離れない恋人に憂いの眼差しを向け、さっと表情を引き締めると部屋の端を睨んだ。



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春夏秋冬家 第二十四代当主 四巡























(10)
 


観音開きの扉から姿を現したのは、古の衣装を身に纏った長身の男。
白銀色の絹で織られた袍(ほう)と呼ばれる上衣に、紫紋入りの紫袴。
腰帯には漆黒の鞘に納められた長さ1メートル近い直刀。
そして、袴と鞘に染め抜かれた春夏秋冬(ひととせ)家の家紋『丸に違い譲り葉』

「ほおぅ、小生をご存じとは……
いかにも、我が名は四巡。春夏秋冬家、第二十四代当主にして、通り名を輪廻の霊媒術師。
言うなれば、お主のような存在を『浄化』し『転生』さすのが我が一族が代々果たさん使命」

(小娘ッ、お前も春夏秋冬家の……?! くぅぅぅッッ、卑劣なぁッ!)

彼女はお父さんとの間合いを保ちながら、壁伝いに入り口付近へと移動していく。
そして、実体化した身体を昇華し気体に変化させると、一気に扉に向かって飛んだ。

この人から逃れようとしたって無駄なのに……

バシッバシッ、ビシィッッ……!

(んんガガガッッッ! ヒグゥゥゥッッ?!)

邪気の塊がドアに触れた途端、青白い光がスパークするように部屋を覆う。
そのツケを払うように響く、獣と化した彼女の叫び声。
『定鬼結界の護符』
そう、この部屋からは一歩も逃げられない。
この世のモノではない、鬼はね。

わたしは彼のモノをそっと引き抜くと、淳二の頬に手を添えた。
万が一に備えて観鬼の手鏡も手元に寄せた。

「あなたには見えないかもしれない。聞こえないかもしれない。
でも、顔を上げて。心に感じて。大切な人の面影を……」

戦いはまだ続いている。

「我が春夏秋冬家の札味、如何かな? 怨鬼殿」

憐みよりも嘲笑じみた呼び掛け。
それが、この霊媒術師の実力を表し、彼女にとって勝ち目がないことを諭している。

(ヒャァァアアッ! こんな筈は……?! あ奴は妾の思うがままだと……)

「ふっ、哀れな……さては、三途の渡し番、虚実夜叉にでも唆かされ申したか?
『現世に未練あるならば速やかに戻られよ。我も力添えしてしんぜようぞ』とな」

(キィィィィッッ! ならば……せめてお前をッ! 死ねいッ四巡ッ!!)

焼け爛れて四散した邪気が四巡と対峙するように集約していく。
命を失ったその時を再現した上半身。
……違う。憎悪の鮮血に染まった鬼の心を持つ彼女が、人の心を忘れて吠えた。

「往生際の悪いことよ」

四巡の右手が流れるように刀の柄を掴む。
寸分の狂いもない、鞘をこするメロディー。
薄闇に白く輝く直刀の魔剣。『隠滅顕救の剣』(おんめつけんきゅうのつるぎ)

(そのような鈍刀、妾の敵など……?! うっうぅっ、動かぬ! か、身体が……?)

5本の指から伸びる鉤爪が虚しく空を切る。
血走った眼を大きく見開いたまま、宙に浮かんだ鬼女の身体が金縛り状態にされる。

鋭角の切っ先を下に向けて、床に突き立てられた剣。
『定鬼影縫い』

春夏秋冬家に代々引き継がれた剣の秘めた力と、それと融合する四巡の霊力。
そして、柄を掴む両指が『浄化』の印を結ぶ。

「隠は滅し、顕れたるもの救われん。
即ち、隠とは『鬼』であり『怨念』穢れし衣なり。
春夏秋冬四巡、役命によりお主が纏うもの貰い受ける」

低く囁くように詠唱される四巡の詩声。
その声が終わりを告げると同時に、部屋を構成する大気が震えた。
断末魔の悲鳴と共に、鬼女の身体が歪み引き伸ばされていく。
穢れた皮膚がバリバリと音を立てて、亀裂が生まれる。

(ヒギィィィッッ! わ、妾の身体がぁッ……ウグゥゥゥッッ、身体がぁッ……阿傍さまぁっ、ら、羅刹さまぁッ! お、おたすけ……フグゥッ)

「な?! 阿傍……羅刹とな!」

四巡が低く呻き、息絶えた鬼女の身体は内部から崩壊を始める。

「いやだ! こわい……こわいよぉ!」

「淳二さん、しっかり。逃げてはダメ!」

ベッドの上でわたしは、子犬のように震える淳二を抱いた。
目には見えない。耳にも届かない。
でも、肌で感じる不愉快にざわつきと砕かれそうな心に、大切な人の叫び声を聞いて……
苦しくて哀しいのに、自分にはどうすることも出来なくて……

隠滅顕救の剣が、青白い光に包まれる。
怨嗟の鎖が断ち切られて、分解されていく邪気。
それをエネルギー源にして、薄闇の部屋も青白い世界へと変化している。

四巡が『浄化』の印を解く。
間を空けることなく『転生』の印を結ぶ。

「浄刹に鎮座し神々よ。穢れ払いしこのものに転生の衣を与えん。転生の翼を与えん。
ここに、春夏秋冬四巡の名において欲す。隠滅顕救……輪廻転生……」

指を伸ばしては折り曲げ、現われては消える印を切りながら、四巡の詠唱は続く。
やがて、その声が途切れた時、光り輝く剣は天を突くかのように高々と掲げられた。

そして……

シュィンッッッ!!

部屋の中を光が走り、風の音が追い掛けていく。
見えない闇を切り裂くように、魔剣は四巡の手により真下へと振り下ろされていた。

「出でよっ! 忘れゆく名を持つものよ。我の力にて今しばらくの時を稼がん」

ありがとう、お父さん。



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