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ありさ 割れしのぶ  第十一章



  
                                          


【第十一章】


        
        「俊介はん、ちょっと待って。この薬を飲む前に、もういっぺんだけう
        ちを愛しておくれやすな・・・」
        「・・・・・」
        「水の中で抱合うて、ほんで、薬をいっしょに飲みまひょ・・・」
        「うん・・・わかった・・・」

        二人は手を繋ぎ、浜辺をゆっくりと沖合いに向って歩き始めた。
        季節はもう夏だと言うのに、打ち寄せる波が氷のように冷たく感じられ
        た。

        「あ、痛・・・」

        ありさは小石を踏んだのか、少しよろけて俊介にもたれ掛かった。

        「だいじょうぶ?」

        ありさをしっかりと受け止める俊介。
        足首が水に浸かる。
        一瞬ン止まった二人だったが、また歩き始めた。
        深い海に向かって。

        膝まで浸かる深さで二人は立ち止まり、抱き合いくちづけを交した。

        「ありさ、君を幸せにしてあげられなくてごめんね・・・」
        「なに、ゆ~たはりますんや。うちは、俊介はんに巡り会うて幸せどす
        ぇ・・・」

        ふたりは頬を寄せ硬く抱き合う。
        息も詰まるほどの濃密なくちづけ。
        俊介は目を閉じて、ありさのふくよかな胸の膨らみをてのひらで味わっ
        た。
        そしてその感触を永遠の記憶の中に刻み込んだ。
        死出の旅・・・いや、そうではない、あの世でともに暮らすのだ。
        ありさは心にそう誓った。

        「あ・・・ああ、嬉しおす・・・最後まで俊介はんに愛されて、うち嬉
        しおすぅ・・・」
        「ありさ・・・君が好きだ・・・君がいとおしい・・・」

        俊介はありさの襦袢の裾をかき分けて、愛らしい亀裂を指でなぞる。

        「あああぁ~・・・、俊介はん・・・うち、好きどす・・・あんさんが
        好きどすぅ・・・」

        (グチュグチュグチュ)

        ありさの亀裂はほんのりと熱を帯び、早くも甘い蜜を滴らせ始めた。

        二人は抱合ったまま、水の中に腰を沈めた。
        冷たい水の中であっても、俊介の熱した鉄柱のような感触はあの日と同じ
        だ。
        そう、蛸薬師で愛し合ったあの日と・・・。

        ありさは腰を沈めた。
        身体の奥に俊介の熱くなったものが食込んでいく。

        「はあぁ~~ん・・・、俊介はん、これが、これがうちらの最後の愛な
        んどすなぁ~?」

        ありさの目頭からは止めどもなく大粒の涙が溢れ出した。
        俊介の頬も涙が光っていた。

        「そうだよ、これが二人にとってこの世で最後の愛だよ。でもね、死ん
        でからも二人はずっといっしょだよ」
        「俊介はん、そうゆ~てくれはって、うちすごぅ嬉しおすぇ~。あの世
        でもうちをずっとずっと愛してくれはりますなぁ?」
        「もちろんだとも。ずっとずっと君を愛してる・・・永久に君を愛して
        る・・・」

        俊介のものは恐ろしいほど硬く大きく怒張し、ありさの蜜壷に深く収ま
        った。
        俊介は激しく腰を揺さぶる。

        「ああぁ~・・・俊介はん・・・す、すごおすわぁ~・・・あっ、ああ
        っ・・・」
        「あ、ありさ、僕もすごくいいよ・・・」

        俊介はズボンのポケットから濡れた瓶を取出した。

        「ありさ・・・後悔しないね・・・いいんだね・・・?」
        「へぇ、うち、後悔なんかしまへん・・・俊介はんといっしょやったら・・・」
        「じゃあ・・・」

        俊介は瓶の蓋を開け、てのひらに量の約半分を取り出し、ありさの口に
        含ませた。

        「俊介はん、短い間やったけど、楽しおしたぇ~・・・俊介はん、さい
        ならぁ・・・・・」

        (ゴクリ・・・)

        「あ、ありさ~~~~~~~~~~!!」

        俊介は大声で叫びながら、自らも残った半分を口の中へ放り込んだ。

        「ありさ・・・僕のために許して・・・僕とめぐり合ったためにこんな
        ことになってしまって・・・」
        「そんなことあらへん、そんなことあらへん、うちは俊介はんと巡りお
        うて幸せどしたぁ・・・・」
        「それじゃ、ありさ、あの世でもう一度逢おうね・・・さようなら、あ
        りさ・・・」

        (ゴクッ・・・)

        「しゅ、俊介はん!!」
        「ありさ・・・」






野々宮ありさ
 





この作品は、愛と官能の美学 Shyrock様から投稿していただきました。
尚、著作権は、愛と官能の美学 Shyrock様に属しております。
無断で、この作品の転載・引用は一切お断りいたします。


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体験談、投稿体験談、夜学問、官能詩、エロエッセイ、その他カテゴリー多数。




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ありさ 割れしのぶ  最終章



  
                                          


【最終章】


        
        ちょうどその頃、浜の方では誰かが沖に向かって大声で呼んでいた。
        だが、その声は潮騒で打ち消され、俊介たちに届くことはなかった。

        浜辺に立って叫んでいたのは、俊介の伯父と駐在であった。
        そしてその横には、屋形の女将と男衆の北山の姿もあった。

        北山は喉が張り裂けんばかりに大声で叫んでいた。

        「ありさはん!俊介はん!早まったらあかんで~!!はよう、こっちへ
        戻って来んかい!女将はんがなあ、あんたらの恋を許すてゆ~てはるん
        やで~!丸岩はんもありさはんの心意気には負けたゆ~たはるんやで
        ~!せやから、死んだらあかんのや~~!!死んだらあかんでぇ~~
        ~!!」

        しかしいくら有りっ丈の声で呼んでみても、ありさたちには届かなかっ
        た。

        「これはぁダメだ。 うらぁぁはすぐに、漁師に舟をぉ頼んでくるわ! 」

        浜から呼んでも無駄であると判断した駐在は、慌てて網元の元へ走って
        行った。

        ◇

        「う・・・うう・・・ありさぁ・・・」
        「しゅ、俊介・・・はん・・・」

        次第に薄れ行く意識の中で、ありさは俊介と出会った高瀬川でのできご
        とを思い浮かべていた。

        「あの時はおこぼの鼻緒を・・・なおしてくれはって・・・おおきにど
        したなぁ・・・。俊介はんと出会えて、うち、ほんまに幸せどしたわぁ
        ・・・」
        「ぼ、僕も・・・君と出会えて・・・とても幸せだったよ・・・。
        だ・・・だけど、できることなら、い、生きて・・・君を幸せにしてや
        りたかった・・・」
        「いいえ、うち・・・今でもこうして俊介はんと寄り添えて幸せどすぇ
        ・・・あの世でいっしょに・・・なりまひょうなぁ・・・」

        死の瀬戸際と言うのに、ありさの表情には苦しみの表情もなく、実に穏
        やかなものであった。
        やっと自由を得た歓び・・・
        とこしえの愛を得ることのできた歓び・・・

        ありさの瞳が閉じ、動きがピタリと止まった。
        その時、ありさの懐(ふところ)から色鮮やか蛤貝が水面にポトリとこ
        ぼれ落ちた。
        それは愛する俊介から貰った大事な大事な贈り物・・・

        息が絶える直前まで肌身放さず大切にしていた貝紅であった。
        貝紅は寄せては返す波に吸い込まれ、水中へと消えていった。


        【ありさ 割れしのぶ  完】







野々宮ありさ
 





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