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エスカレーターの狭間で…… 第6話 オナニーの方法

























【第6話】



「ねえ、オナニーとかはするの?」

「し、しません。そんなハシタナイこと」

「ホントかなぁ。女の子ってさ、年頃になってくると9割近くが経験あるって、何かで読んだことがあるんだけどなぁ。正直に話してくれないと、おじさん、またしゃがみ込んじゃうよぉ」

俺はその後も気付かないように振舞いながら、前にも増して怜菜ちゃんにまとわりついていく。
但し、彼女に覆いかぶさるように立つことを意識したから、おそらく上段からは俺たちの痴態が覗けないはず。

どうするのかな? お嬢さん。

階上から首だけ突き出している人影。
それに目を合わせては、怜菜ちゃんのうなじに向かって囁いた。
ふうぅって、息も吹き掛けてあげた。

「あ、あぁ……あります……」

「なにぃ? 聞こえないよぉ」

「あ、あります。オナニーしたことあります」

「ふ~ん。怜菜ちゃんもしているんだ、オナニー。ねえ、どんな風にやるの。具体的に説明してよ。可愛い女の子がするオナニーって、おじさん興味津々なんだよね」

「ひどい。そんなのあんまりです」

俺の言葉に、怜菜ちゃんの両肩が力をなくした。
首をうなだれたまま、モップが同じところを往復している。
でも従わなくちゃいけないよね。おじさんと約束したもんね。

「ほら早く説明してよ。まずはどのくらいのペースなの?」

「ううぅっ、し、週に一度……くらい……です」

「週一ねぇ……ホントかなぁ。実は毎日オナってんじゃないのぉ? って、まいいか。で、どこでするの? もちろん自分の部屋でだよね」

「うっ! あ、はい……ベッドに寝転んで、夜、寝着けないときなんかに……」

「どんな風に? あっ、もしかして、ローターやバイブなんかも使ったりするの?」

「ゆ、指で……道具とかは怖くて使いません。お、おっぱいを左手で刺激しながら、右手をあそこに這わせて……」

もう、あきらめちゃったのか、早く掃除を終わらせてこの場から逃れたいのか、怜菜ちゃんは素直に答え始めた。
答えながら、滞りがちだったモップが働きだす。
残る階段が7段6段と減り、5段目に突入している。

な~んか、かったるいな。こんな教科書通りの答えを聞いていてもねぇ。
クククッ。上から覗いているお嬢さんもそう思うでしょ。

だから、もう少しハードルを上げてやるよ。

「這わせてどうするの? 指をオマ○コに挿れるの? それとも、クリトリスを弄るの? えっと、その前に、怜菜ちゃんってバージンなの?」

「あっ、えっ……お、おまって……イヤ、もう許して」

俺は禁句の固有名詞を含めた質問を、機関銃のように彼女に浴びせた。
ここが公共の場だって構うもんか。
どうせ誰も気付いちゃいない。

帽子を深めにかぶっているため、男女の区別さえつかない清掃員とスーツ姿の男。
どこから眺めようが、よっぽど意識して見ないと俺たちの不自然さなどわかりゃしない。たったひとりを除いてね。
まあ怜菜ちゃんは、それどころじゃないみたいだけど。

「はあ~、ふ~ぅ……し、処女です。経験なんてありません。それに、指は膣に挿れません。割れ目のお肉をさすりながら、親指のお腹でクリを……イヤ、やっぱり恥ずかしい」

何度も深呼吸を繰り返す。
上体をひねりながら、階段を下りてくる奴がいないかチェックする。
そうして背中に貼り付く俺に向かって、怜菜ちゃんは怜菜ちゃんだけの秘密を答えていった。
でも、しゃべるスピードは速かった。
それは、俺の機関銃質問の3倍の速さだった。

「OK、要するに怜菜ちゃんはまだバージンだから、オナニーするときも処女膜を傷つけないように、指の膣入れはせずにクリトリスと割れ目の刺激だけで、絶頂するってことだよね」

怜菜ちゃんは小さく頷いた。
俺は荒くなる鼻息を抑えて、片眼だけで階段の上を見上げた。

ん。いない! ……となれば。

舐めるような視線が斜め後ろから近づいてくる。
一定速度で下ってくる眼差し。
それは真横から斜め前方へと移り、チラチラと見上げては階下のフロアーに降り立っていた。

カラフルなパステルカラーのワンピース。
まるで地味な作業着姿の怜菜ちゃんに当て付けるかの服装。

ふーん。こちらもかなりのルックスだね。
両者、甲乙付け難いけど、ハナ差決着で怜菜ちゃんかな。

遠巻きに自販機の陰から覗く彼女に、目で合図を送る。
途端、女は目を見開き瞬時に顔色を失った。

この女の性根、試してやるか。






エスカレーターの狭間で…… 第7話 オナニーの代わりに

























【第7話】



「じゃあさぁ、俺にも見せてよ。怜菜ちゃんのオナニー」

「えっ! あ、あの、ここでですか?」

俺は女を意識してまた耳元で囁いた。

残り5段まできて、怜菜ちゃんの身体がピンと伸びる。
思わず手にしたモップを取り落としそうになり、なんとか胸の中へと抱え込んでいる。

「おや、怜菜ちゃん。否定から入らないってことは、場合によってはおじさんにオナニーを見せてくれるってことかな?」

「い、いやです。そんなの絶対に見せられません」

俺の意地悪な挑発に、弾かれるように彼女は反発する。

「あははは、冗談だよ。さすがにここで指を使われたりしたら、お巡りさんが飛んでくるからね」

「だったらどうして?」

ほっぺたを膨らませた彼女は、前にも増して可愛らしかった。
俺はそんな姿を微笑ましく思い、同時に沸き立つ己の性欲に苦笑した。

「ズボンを引っ張り上げてみせてよ。怜菜ちゃんの恥ずかしい処に喰い込むくらいにね」

だから、彼女の問いには答えず口走っていた。
無意識? 本能? それとも、あの女に?

そして、俺たちの間に1分間の静寂が訪れて……

「わかりました。します……」

後ろ向きの彼女から、小さくても稟とした決意が俺の耳に届いていた。
もう少し手間取ると思ったのに、それはあまりにもあっさりしていた。

やっぱりこれも、頼まれたら断れない彼女の性格かな?
それとも他になにか? 彼女の身に? ……まさかね。

カラン……! 乾いた音がして、モップが寂しく転がった。

「うっ、ああぁっ……つ、辛い……」

しなやかな指がズボンのサイド。太ももの上のあたりをしっかりと摘んでいる。
少し余裕のある布地を指に絡ませて、腰骨を目指して引き上げていく。

俺は彼女の両肩が泣くのを見つめて、恥ずかしげにくねる背中に視線を落として、最後に複雑なしわの中に浮かぶ、丸い尻の輪郭を眺めていた。
同時に、足音を忍ばせて近付く人影に笑みを浮かべてやった。

お前さんの恨みを晴らしてやっているんだからな。少しは感謝しろよ。

「うぅっ、くっ、これで……いぃ、いいですか?」

下を俯いているのか、怜菜ちゃんの声はくぐもっていた。

「ああ、よ~く見えてるよ。ふたつに割れた尻肉がはっきりとね」

「いやぁ、そんな言い方……恥ずかしい」

ズボンを引き上げたまま、怜菜ちゃんは太ももをよじらせた。
そのせいで、ますます少女特有の張りのある肉が露にされる。

「どんな感じ? 股布がオマ○コに喰い込んでいるのは」

「うぅぅっ、は、恥ずかしい。それだけです」

公衆の面前で行われる恥辱のショータイム。
俺はその行為全てに酔い、我を忘れかけていた。

「それじゃあ、そのまま歩いて見せてよ。階段の端までね」

「あ、あぁ、そんなことをしたら……はい、歩きます」

怜菜ちゃんは悲愴な表情をしながらも、あっさりと承諾した。
よろよろと歩みを覚えた赤ん坊のように足を進める。

さすがに清掃員の姿勢を不自然に思ったのだろう。
上りのエスカレーターから何人かの利用者が、身を乗り出すようにして俺たちに視線を送っている。
いや、下りのエスカレーターからもだ。

「はあ、くぅぅっ。辛い……ズボンの生地が……うっく、擦れちゃう」

どこまでもバカ正直な娘さんだ。
なにも本気でやらなくても……

「よぉし、今度はこっちへ戻ってくるんだ。絶対に手を緩めたらいけないよ」

「くぅぅっ、は、はい」

怜菜ちゃんは回れ右をすると、俺に向かって歩き始めた。
相変わらず両サイドから作業ズボンを引き上げて、ノーパンの股間に生地を喰い込ませたまま一歩一歩近づいてくる。
歯を食い縛り、可愛い顔を汚すように眉間にしわを寄せ、襟元からはだける首筋まで肌を朱に染めている。

この光景見たことがある。
……そうだ。羞恥系のエロビデオなんかで、たまにしてみせる綱渡りに似ている。
両腕を拘束された女が、腰上に張られたロープを跨いだまま歩かされるっていう恥辱の行為だ。

怜菜ちゃんはそれを、大衆の面前で行っている。疑似綱渡りを……

「はあぁ、うぐぅっ、だめぇっ」

でもさすがに限界なのか、彼女の身体が大きく傾げた。
額から噴き出した大粒の汗が、清掃を終えた階段に水滴を降らせる。

遊びもここまでのようだな。
俺は彼女を抱きとめようと一歩踏み出した。
だがその瞬間、こっちへと近づく警備員の制服に身体が反応しなくなる。

まずい! たとえ5段ほどでも頭から倒れたら……?!






エスカレーターの狭間で…… 最終話  エスカレーターの狭間に花が咲く?!

























【最終話】




どさぁっ! がさぁッ!

「い、いやぁぁぁぁッッッ! だめぇぇぇぇッッッッ!」

「危ないッ?! 怜菜っ!」

危機迫る甲高い声。風のように駆け抜けたしなやかな人影。
そして、目の前で折り重なるふたりの女性。
パステルカラーのワンピースの上に、水色の作業着が圧し掛かっている。

「どうして? どうして私を助けたの?」

「ごめん怜菜。アタシを許して。でもよかったぁ、間に会って……」

噛み合わないふたりの会話。
怜菜ちゃんは慌てて立ち上がると、ワンピースの女の腕をしっかりと掴んだ。
相手も、怜菜ちゃんの手首をしっかりと掴む。
どちらともなく息を合わせて、女の身体がふわりと起き上がり、俺は感じた。
ふたりの心の会話は、噛み合っていると。

「大丈夫ですか?」

そこへ若い警備員が駆け寄ってくる。

「心配をお掛けしました。でも彼女に助けてもらって、私は平気です」

「そうですか? それは良かった。ですが……!」

警備員は鋭い目付きで俺を睨んでいる。
これも年貢の納め時ってやつか。

「待ってください。あの……この人は関係ありません。その、私のことが気になったのか、付き添ってくれてただけなんです。だってこの作業着、サイズが大きくて。何とかならないかなぁって、思いながら歩いていたんです。こんな感じで……」

そう答えると、怜菜ちゃんはズボンを引き上げた。
アソコに股布が喰い込むくらいに。

「そ、そうでしたか? いや、清掃員に絡む不謹慎な男がいると通報を受けたもので……では、失礼します」

真面目そうな警備員は、踵を返すと元の持ち場へ帰っていった。
助かったのかぁ? 俺は……

「怜菜、あなたってどこまでもお人好しなのね。なのに、アタシ……」

「もういいよ。あなたが清掃員の仕事をしながら大学に通っていることを、私知らなくて。こんなに大変な作業なのに、その横を私ったら、ずっと気付かずに通り過ぎていたんだから。別に恨んでなんかいないわよ。私だって同じ立場だったらこうするかも。ううん、もっとひどいことを考えていたと思う」

「怜菜、ごめんなさい。うぅぅぅっっ」

エスカレーターに挟まれた中州の階段で、手を取り合うふたりの少女。
俺は思い返していた。どうして怜菜ちゃんが、あんなにまで理不尽な要求に従ったのかを。

そう、彼女は気付いていたのだ。嫉妬に燃える女の瞳に。
いつからか? それは分からない。
俺に出会った後? その前から?
でも確かにいえること。それは負い目。大げさに言えば怜菜ちゃんなりの贖罪。

う~ん。やっぱりこの子は絶滅危惧種かもしれない。

「ところで、おじさん」

「はい……?」

「アタシね、怜菜に意地悪をしたつもりだけど、おじさんは許せないよ」

怜菜をかばうように立つ少女は、俺を見上げると手に持つスマホをかざした。

「よぉーく撮れているでしょう。エッチなおじさんの行為がぜ~んぶね。怜菜だって、ものすごく辛くて恥ずかしかったんでしょ?」

「うん、とっても。でもおじさん、陰湿に脅迫してきたから逆らえなかったし……」

怜菜ちゃんは少女の背後から顔だけ覗かせて、哀しそうにまぶたを閉じる。

「いや、あ、あの……その……これはだな」

片言の日本語を話す俺の横を、スーツ姿の同士諸君が憐みの眼を残して過ぎ去っていく。
俺の中で、サラリーマンという言葉が音もなく崩れ落ちていく。
頭の中に、公園で生活する俺の今後が映し出されていく。

「どお、おじさん。女の子にエッチなことをして反省してる?」

「は、はい、死ぬほど反省しております。後悔しております」

「だったらさぁ……う~ん、どうしようかな? 怜菜はどうして欲しい?」

直立不動の俺の前で、ふたりの少女が話し込んでいる。
俺はその背中にギザギザした黒い羽根を見た気がした。

「それじゃあ、おじさん。お詫びにケーキを奢って♪ そこの角の先においし~い、お店があるんだ。ねえ、怜菜」

「うん、あそこのケーキ、おいしいね」

俺は連行されるように、両サイドを少女に挟まれていた。

「あのぉ、怜菜ちゃん。いえ怜菜さん、お掃除の方は……?」

「あっ! 忘れてた。残りの階段を掃除しないと」

「怜菜、任せて。アタシの方が慣れているから」

ふたりは俺を仮釈放すると、手際よく残りの階段を片付けていく。
さすがに早い。3分も経たない間に俺は再び拘束されていた。

地下街の通路を歩くはめになった俺の目に、お節予約のちらしが飛び込んでくる。
それはついさっき目にとまった小料理屋の窓ガラスだった。

俺は、前を歩く仲の良いふたり連れを見て口元を緩めた。

悪いな。季節外れの予約なら、クリスマスケーキの方がお勧めだと思うぜ。
なぜって?
簡単なことさ。今から試食に行くからさ。

「おじさ~ん、早くぅ~」

小悪魔の笑みを浮かべて手を振る、ふたりの少女。
俺も童貞を取り戻したつもりで、手を振り返していた。
ポケットの中の薄い布を握り締めながら。

【エスカレーターの狭間で…… 完】