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そして、四百余年の時が流れて……























(4)
 


むか~し、昔。世の中が乱れに乱れていた戦国時代の頃。
とある城下町では、戦場で散った武者たちの怨念が色情魂となって、夜な夜な出没しては若い娘さんたちを手篭めにしていました。
町人からの再三に渡る陳情に困り果てたお殿様は、考えた挙句、全国にお触れを出しました。

『我が領内に於いて亡者を除霊したりし者。褒美は望みのままに』

たちまちこの噂は、領内どころか隣国にまで知れ渡り、我こそはという霊能者が幾人も城下に集まってきました。
しかし、あまたにのぼる霊魂の前に、一人倒れて二人逃げ出し、二人倒れて四人逃げ出し、あっという間に霊能者は一人残らず全滅。
これにて色情魂の勝利と思われたその時、ひとりの若い神職が麗しい巫女を連れてこの地を訪れました。

そして町人から事情を聞いた神職は不敵な笑みを浮かべてこう言いました。

「我が名は春夏秋冬 鬼巡丸(ひととせ きじゅんまる)そこに控えしは涼風(すずかぜ)
その霊魂。今夜一晩で封じてみせましょうぞ。
ただし、この術、我が家の秘伝なれば誰ひとりとしてお目にせぬように」と……

その夜の子の刻、神職に命じられたとおり各家に閉じこもっていた町人は、先ほどの巫女のものであろうか、天にも昇りそうな甘い嬌声とそれに続くすさまじい悲鳴。
家の中まで照らし出す青白い炎の影を目にしました。
翌朝、傷ひとつ負わずに街中の霊魂を封じ込めた若者と巫女はお城に呼ばれ、お殿様から褒美を聞かれこう申しました。

「我が永住の地をここに定めとうございます。
さすれば、城下の西端にあるあの小高い山の上に、社を建立することお許しあれ」と……

そして、四百余年の時が流れて……



「え~、この世の中には科学だけで解明されないもので満ち溢れておる。
未確認飛行物体『UFO』に未確認動物『UMA』、謎の多い古代文明、古代遺跡、古代文字。
未だに解明されない病原菌に、ヒマラヤの雪男ついでに雪女。
もっと身近な存在では……そう心霊現象なども……
その心霊についてであるが……」

「は~あぁ。かぐらおねえたん、ママはまだぁ?」
「あたちもぉ……おかあちゃん、まだかなぁ~? ねむいでちゅぅ」

「はいはい、みんなぁ。おねんねせずに待っていようねぇ。
もうすぐ、大好きなママが迎えに来るからねぇ♪」

ジロリッ!

わたしは、黒板を背にして立っているお父さんを睨んだ。
紫の袴に純白の狩衣(かりぎぬ)、それに頭には烏帽子(えぼし)。
どこからどう見てもお社の神職様そのものの姿。
というよりこの人、本物の神職なんだけど……一応。

「お父さん、お仕事のジャマをしないでよね! そんなオカルチックな話、幼児にわかるわけないでしょ。
それに話している内容がいい加減すぎ!
だいたい、この写真はなんなのよ?!」

お遊戯室の黒板に貼り付けられた怪しい写真の数々。
世界の七不思議にアダムスキー型UFO、なにをコピーしたのか人面犬まで……?

「これはそのだな。無垢な童たちを未知なるモノに興味を持たせ、霊の世界へと誘って……」

「誘ってどうするのよ?」

わたしは心配そうに見上げる園児たちに笑顔を振りまいておいて、掲示板の押しピンを引き抜いた。

「わ、わかった。わかり申した。童たちにこの話は難しかったかもしれん。
明日は……そうだ、『アンパ○マン』がよかろう。
『アンパ○マン』のあんぱんが賞味期限になったら如何すべきか?
分かちあったあんぱんを食べてお腹をこわしたら訴訟を起こすべきか?
どうだ神楽、心霊とは違って健全であろうが……?」

ブスリッ!!

「お待たせ♪ ジロー君、お母さんが来ましたよ」

「わあ、まもるおにいたんだぁ♪」
「あたちとあそんでぇ♪」「だ~め、ぼくと♪」

建てつけの悪い引き戸を開けて入って来たのは、狛獅子 守(こまじし まもる)。
夜のお仕事では、亡者に容赦しない冷徹な霊術師だけど、ここでは、わたしが嫉妬しちゃうくらい子供たちには大人気。
今でもほら、子供たちが駆け寄ってきて、大きな浮き輪みたいに囲まれちゃっている。
でも最近では、お母様方の視線も負けず劣らずラブラブみたいだけどね。

「あっそうだった。さっき連絡があって、タロー君とサブロー君、それに花子ちゃん。
お母さんがお仕事遅くなるって。
守、悪いんだけど3人を自宅まで送ってくれないかな?」

「ええ……それは構いませんが……
ああはぁ、だめだよ、桃子ちゃん。ここはお兄さんの大切な処なの。握ったりせずに、撫で撫でしてあげてね。
ううっはぁ、ナナコちゃん。お尻の穴に指を突っ込まないで。お兄さん、変な気分になっちゃうでしょ」

え~と、押しピンの数足りるかしら……?



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