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先輩に言われなくてもセックスしています!






















【第3話】


        
        翌朝、出勤する吉貴を見送った綾音は、リビングの掃除を始めた。
        そして、その電話は、彼女が掃除機をかけている最中に掛ってきた。

        相手は、彼女の女子大時代の1年先輩で名前を美和という。
        その当時、所属していたテニスサークルで知り合ったのだが、郷里が同
        じということもあって直ぐに打ち解け合い、美和が卒業するまでの間は
        ワンルームマンションをシェアして同棲していたこともある。
        といっても、彼女達の間に特別な感情が芽生えたわけではない。
        あくまでも生活費を節約する目的が主であったのだが。



        「お久しぶり~♪ 元気してたぁ、綾音」

        2時間後。勢いよくドアを開けて顔を覗かせたのは、半年ぶりに再開す
        る懐かしい笑顔だった。
        女子大を卒業後、難関といわれる大手航空会社の客室乗務員になった美
        和は、海外を飛び回る日が続き、親しかった綾音とも昔のように会えな
        くなっていたのだ。
        それだけに、半日とはいえ時間を確保して訪ねてくれた彼女を、綾音は
        顔を綻ばせて迎え入れていた。

        「うんうん。ちゃんとお部屋も片付いているし、ごうか~く♪」

        「合格って……? もう、先輩ったら。これでも綾音は一応主婦ですか
        らね。お掃除くらいしてますよ、ふふふ♪」

        美和はリビングに入るなり、首をぐるりと回して大げさに頷いてみせる。
        そんな学生時代と変わらない彼女の茶目っ気ぶりに、綾音はクスクスと
        笑いながら応えた。

        「そっかぁ、綾音は主婦なんだよね。良かったわね、優しい旦那様に巡
        り合えて……」

        「ま、まあ……あ、でも……先輩もいらっしゃるんでしょ? 素敵なパ
        ートナーさんとか」

        「う~ん、いないわけじゃないけど……ルックスがちょっとね。やっぱ
        り、吉貴さんみたいにダンディーじゃないと……って、綾音、何を言わ
        せるのよ!」

        「ごめんなさ~い、先輩♪」

        美和は軽く目尻を上げると、綾音に向かって握りこぶしを振り上げるマ
        ネをした。
        もちろん怒ってなどいない。
        手のひらを顔の前で合わせる可愛い後輩に片目でウインクしてみせると、
        その目をキープしたままキャビネットに顔を向ける。
        ガラス製の扉の奥で、肩を組み眩しい笑顔を覗かせる吉貴と綾音の写真
        立てを見つめた。

        「綾音が結婚して、もう2年になるのね。ところで、吉貴さんとはうま
        くいってる?」

        美和は感慨深げにほっと息を吐くと、ちょっと真顔になって聞いた。

        「え、ええ、お陰さまで……うまくやってますよ」

        綾音が返事をするのに、数秒の間が空いた。
        当たり前の答えを返すのに、なぜだか唇を重たそうに動かしている。

        「ホントに? ホントかなぁ? な~んか怪しいぞぉ」

        「べ、別に……わたし、嘘なんか……ホントに吉貴とは仲良くやってる
        し……」

        「ふ~ん、夜の営みもかな?」

        「な?! よ、夜の営みって……せんぱい、変な言い方やめてください。
        いやらしいです……」

        美和の露骨な問い掛けに、綾音の眉がびくりと波打った。
        続けて消え入りそうな声と共に顔を赤く染める。

        彼女は同棲していた頃からそうだった。
        綾音も美和も学生時代の頃から、美人女子大生として雑誌社に声を掛け
        られるほどの美形だったが、異性に対する付き合い方はまるで違った。
        他校の男子生徒との交流にも消極的だった綾音に対して、美和は気に行
        った男子生徒には積極的にアタックを掛けていく。
        性に関しても、学生時代バージンを守り通した綾音に比べて、出会った
        頃には既に初体験を済ませていた美和は、セックスフレンドと呼ばれる
        男性も数人はいたようである。
        要するに、性に対して奔放なのである。

        「うふふ、綾音ったら顔を赤くしちゃって……可愛いんだから。でもア
        ナタだって、愛する人の赤ちゃんなら身籠りたいって思っているでし
        ょ? 吉貴さんとセックスするのも、妻の務めなのよ」

        「そんなこと、先輩に言われなくても……わ、わかってます。ちゃんと
        毎晩、夜になったら、その……吉貴と……」

        「旦那様とセックスしてるのね。偉い、偉い」

        ちょっと悔しかったのか。唇を尖らせながら、それでも恥じらいを浮か
        べて告白する綾音。
        そんな後輩の初々しい戸惑いに、美和は目を細めて何度も頷き返してい
        た。



        「このケーキ、おいし~い♪ ほっぺたが落ちちゃいます」

        「あらあら、綾音ったらホント大げさね。でも、ほっぺたのお肉ならち
        ゃんと付いているわよ。おたふく風邪をしたみたいにね」

        「先輩の意地悪……」

        美和が手土産に持ってきたショートケーキを挟んで、彼女達の会話も弾
        んでいる。
        何かにつけて子供っぽい仕草をする綾音を、実の姉のように美和が優し
        い眼差しで見守る様子は、まるで同棲していた頃を彷彿させた。

        (変わってないな、先輩。あの頃と一緒でスタイルは完璧だし。ううん、
        女子大生してた頃よりも、もっともっと磨かれた大人の女性に進化して
        るよね。同性のわたしが言うのも変だけど、とっても色っぽくて艶やか
        で……やだ、綾音はどんな目で先輩を見てるのよ、エッチ)

        ケーキを食べ終え、優雅な仕草でティーカップに口を付ける美和を、綾
        音の目が追った。
        密かに劣等感を覚えていた女らしさの秘密を探ろうと、彼女の指使いを
        マネしながらティーカップを口に運ぶ。

        「ちょっと、綾音。急にダンマリしてどうしちゃったの? 私の顔に何
        か付いてる?」

        美和が顔を突き出して、綾音を見つめた。

        「あ、あははは……なんでもないんです先輩。ごめんなさい」

        「あははは、ごめんなさいって……う~ん、その目にその表情? なん
        か怪しいね。やっぱり有るんじゃないの、悩み事?」

        奥歯にモノが挟まったような綾音の態度をいぶかしんで、美和が本気の
        真顔で聞いた。
        客室乗務員というプロのメイクに彩られた瞳が、綾音の心を透かすよう
        に覗き込み、そのまま目線をスライドさせた。
        写真立ての中で笑顔を見せる綾音へ、そして夫の吉貴へ注がれる。

        「さっきもアナタに聞いたけど、吉貴さんとは本当にうまくやってる
        の?」