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もえもえ マーメイド・ママレード  第2話



  
                                          



【第2話】




生徒たちはもえもえに向かってにこやかに挨拶を返した。
入念な準備運動を済ませると、個別の目標に合わせてもえもえは指導を開始した。
今日はスイムボードを使ったバタ足の練習がメインだ。

当然のことだが、生徒たちは年代だけでなく運動経歴も様々だ。
運動不足で太鼓のような腹をした50代男もいる。
病気のリハビリ目的で地道に通っている40代男もいる。
他のスポーツで鍛えていることがすぐに分かる筋金入りの30代男もいる。
彼女に痩せすぎは嫌いと言われ筋肉を着けに来た20代男もいる。
 
しかし一様に、もえもえの指導を素直に受け入れ練習に余念がなかった。
若くて魅力的な女性インストラクターと言うこともあって、彼らは無意識のうちにライバル心が芽生え、少しでももえもえの注目を浴びようと会社帰りの疲れた身体に鞭を打って必死に練習に励んでいた。

2時間のレッスンを終えてロッカーで着替えを済ませたもえもえは、ジム内に設けられたカフェで暖かいコーヒーを飲みながら1日の疲れを癒していた。

「同じように教えてもやっぱり個人差ってあるな~。早く覚えてくれる人、時間の掛かる人。う~ん、どの辺りにレベルを合わせたらいいのか、考えれば考えるほど難しいなあ~」

◇◇◇

それから1週間が過ぎ再び土曜日がやって来た。

「あ、しまった!もう7時30分を廻ってる!大変だ!雅春、わたし、スイミングに行かなくちゃ~!」
「おっと、いけねえ!わりぃわりぃ!オレ、気づかなかったよ~。もえもえといっしょにいるとさぁ、つい時間を忘れてしまうんだよな~」
「嬉しいセリフだけど、そんなこと言うと後ろ髪引かれて行くのが辛くなってしまうよ~」
「なら、今日はスイミング休むか?」
「そんな訳には行かないよ~。じゃあ行くね」
「あら、そう~、じゃ~な。あっ、でも間に合うのか?タクシー拾ってやろうか?」
「タクシー代、雅春の奢りってことで?」
「冗談はよくないな~。もちろんもえもえ負担で」
「ふうん、それじゃ拾ってやろうかなんて言い方はないと思うんだけど」
「じゃあ言い直し。もえもえさん負担でタクシーをお拾いしましょうか?」
「ぷっ!何よ、急にバカ丁寧に。気持ち悪い。タクシーはいいよ。タクシーに乗らなきゃならないほどの距離でもないし」
「うん、分かった。じゃあ、気をつけてな」
「じゃあ、バイバイ~!」

その日、もえもえはスポーツジムに行く前に、ボーイフレンドの雅春とデートに出掛け、つい話が弾んでしまい時の経つのを忘れてしまっていたのだった。
そのため、危うくスポーツジムの時刻ギリギリになってしまったのだ。

もえもえは雅春と別れて、スポーツジムに向かって小走りに駈けて行った。
日が暮れたがまだまだ昼間の熱気が残っている。
ちょっと動いただけでも額から汗がじわりと滲んでくる。

「あ、まずい!間に合うかなあ……」

時計を見た。
レッスン開始時刻まであと10分しかない。
もえもえの足取りは一層速くなった。

「あぁん、スニーカーを履いてくれば良かった。もう~、こんな時、ミュールって走りにくいんだから~」

ようやくジムに辿り着いたもえもえは、受付けの女性に挨拶をして更衣室に駆け込み、慌ただしく服を着替え始めた。

「急がなきゃ、急がなきゃ……」

幸い更衣室には誰もいない。
もえもえはためらうこともなく一気に下着を脱いで裸になった。
プリンプリンの尻を屈ませて、ロッカーの中を探りはじめた。

「あれ?ない……」

確かポーチが入っていたはずだ。

「どうして?どうしてポーチがないの?」

いぶかしげに思いながら、もう一度ロッカーの中を探してみた。
それでもやっぱりポーチは見つからない。

「あっ、そうだ!一昨日、洗濯するために持って帰ったんだ!しまった!」

ポーチの中にはサポーターとして使用しているアンダーブラジャーとアンダーショーツが入っていた。
それを洗濯するために家に持ち帰り、スペアを持って来るのを忘れてしまったのだ。

「あぁ、困ったなぁ……サポーターがない……」

今にも泣き出しそうになっているもえもえは、更衣室の時計を見た。
レッスン開始まであと2分しかない。

「どうしよう……」

もえもえは時計に目をやると諦めたように水着を着始めた。
日頃もえもえが着用している競泳用水着は身体によく密着し、なだらかな身体の曲線を鮮明に映しだしていた。

「あぁ、あぁ……やっぱり写ってるぅ……」

紺色の水着の表面に胸の突起が二つポツリポツリと浮き出ているのが分かる。
不安のせいかもえもえの表情が青ざめている。

「プールに行かない訳にはいかないし、しょうがないか……」

もえもえは諦め顔で更衣室を出て、急ぎ足で生徒たちの待つプールへと向かっていった。






 





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