(四十三)
八月 二十三日 土曜日 午後九時 吉竹 舞衣 丸まった最後の1枚を足元から抜き取ると、私はどこも隠すことなく両手を腰に添えた。
ソファーに座ったままの副島がいやらしい視線を投げ掛けてくる。
「副島さん……全部脱ぎました。
ま、舞衣の身体を……ご覧になってください……」
自分の意思で肌を晒しながら、消え入りそうな細い声……
それに肌が焼けるように熱い。
緊張のしすぎかな? のどもカラカラ。
このくらい早く慣れないといけないのに、修行が全然足りないみたい。
「見てくれと言われれば、見るしかないですねぇ。
ほぉ……いい身体をしているじゃないですか……
おっぱいも誰かさんより大きいし、腰から太もものムチムチ感がたまりませんねぇ。
顔だけ見ていれば清純なお嬢様ですが、身体の方はなかなかどうして……
因みにバストサイズは、おいくつですか?」
「……84……です……」
また私は、消え入りそうな細い声で答えた。
「いいじゃないですかぁ。
胸もあってエロい腰回り。その上、モデル並みにくびれたウエスト。
顔や手足の細さはまだまだ少女のそれ……
これがどんな声で鳴いて感じてくれるかと思うと、ワクワクしてきますねぇ」
副島は勝手に私の身体を評すると、それを確認するように視線をさかんに上下させた。
舐めるようにネットリとしたおぞましい視線。
まるで、どこかに欠陥がないのか探しているよう……
こんなイヤな感覚を、私は1年程前まで何年にも渡って経験していた。
高校生の頃の水泳の授業……
泳ぐのは得意だったけど、プールから上がったときの男子の視線が苦手だった。
水着に浮き上がる身体のライン。
お尻に食い込む水着を直すちょっとした仕草。
それをじっとりと見つめる異性の目。
でも、今思えばあんなもの大したことない。
だって、当時は水着を身に着けていたんだから……
「もういいでしょうか。副島さん?」
「ええ、表面上は合格のようですねぇ。後は中身ですか……」
「……えっ?……!」
男の人が無抵抗な女の子を裸にして、それで満足……って、わけがないことくらい私だって理解している。
健全な男性なら女の子の性器に興味があるのって、当たり前だと思うし……
でも本当のこというと、こんな身体検査みたいな方法は勘弁して欲しいよね。
これって、とっても辛い。
できれば……無理かもしれないけど……ちょっとだけでも……
この人にデリカシーのカケラがあれば……なーんて……
「舞衣さん。そこのソファーに座って、ちょっとお行儀が悪いですけど両足を座席の上にあげましょうか」
あきらめの表情を隠すように唖然とする私の前で、副島はタブレット端末の電源を入れるとテーブルの上に置いた。
「さあ、何をグズグズしているのですっ!」
私は彼に後押しされるようにソファーに座ると、両足を座席の上まで持ち上げた。
「こんな……恥ずかしい……」
指示されたのは、ひざを折り曲げ両腕で抱え込む、いわゆる体育座り。
少しでもひざがひらいたりすると、大切な処を覗かれてしまう。
ううん。どんなに閉じていても、下から見上げているカメラにはきっと丸見えだ思う。
「舞衣さん。恥ずかしいのは充分承知していますが、そのまま両目をしっかりとひらいてこの画面を見てもらえますか?」
副島が液晶画面いっぱいに引き伸ばされた写真を指さしている。
「……?……?……」
なんなの? なにか……不気味な……?
「ほらぁ、よく見て……」
「……? ……?!……ひッ、いッ、いやぁぁぁぁぁーッ!」
画面いっぱいに写し出された写真……それは女性の性器……!
それもなんの処理もされていない、カラーで鮮明な生々しい姿……!
ますます分らなくなってきた。
私にはこの人がなにを考えているのかなんて、もう全然理解できない。
したくなんかない。
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