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貴方様の仰せのままに……























(16)
 


「くっ、ううぅっっ……許せ三鈴!」

お父さんが呻いた。
拳を震わせながら、うな垂れた首を上げようともしない。

ここで自分が動けば、耐え忍んでいるお母さんの行為が全て無駄になると。
たとえ99%の絶望の世界が待っていても、1%のチャンスに全てを賭ける。
そう思っているのか、必死で沸き立つ怒りと闘っている。

(おお、ま○こだ。涼風の巫女のま○こだ)
(その年で、ここだけはおぼこみたいに閉じていやがる。くぅぅっ、早くブチ込みてぇっ)

数百といる邪鬼が、お母さんの身体に血走った視線を送っている。
顔を背けて両目をきつく閉じているけど、お母さんは両足を思いっきり開いていた。
全裸のままで群がる鬼たちに見せつけるように、恥ずかしいあそこを晒している。

「そのまま自分の指で拡げてみせろ。
腰を突き出して、花弁の中の肉までよく見えるようにな」

「はぁぁ、はい。仰せのままに……」

さっきと同じ答えを繰り返すお母さん。
そして、鬼に命令されるままに腰を落とし気味にして、下腹部を前に押し出した。

「おおっ、まさに絶景じゃ。神に仕える巫女が己の恥部をさらけ出すとは、よき思い付きじゃあ、のう羅刹よ。
三鈴とやら、もっといやらしく女を見せてみろ。我らを悦ばせてみよ」

「う……うぅ……お、仰せのままに……」

折り曲げた中指と人差し指を、大陰唇の内側の壁に引っかけて左右に開いていく。
中からサーモンピンクのデリケートなお肉が覗いて、その奥にある膣の入り口まで丸見えにしている。
でもお母さんはやめようとはしない。
引っかけた指に力を込めると、内側のヒダが千切れるくらいに左右に引っ張っている。

「うっぅぅ、み、見えますか? これが、み、三鈴のはしたない……お、おま○こです」

もういやだ。もう許してあげて。

わたしは目を閉じて耳も塞いだ。
それなのに、夢だから?
正視なんかできないリアルな映像が流れて、恥ずかしくて死にそうな言葉を耳に送り込んでくる。

(も、もう我慢ならぬ。は、早く舐めさせてくれぇ)
(わしもじゃあ、まずはあの真珠豆を剥き出しにしてくれようぞ)
(なにを言うかぁ、穴に埋めねば話にならん。わしのマラをぶち込んでくれるわぁ)

「ぐふふふっ、盛りのついた邪鬼どもがうるさいよのぉ。では三鈴よ、百鬼とのまぐわい存分に愉しむがよい」

羅刹の言葉とともに、人体の一部を具現化した鬼たちが、奇声をあげながら飛んだ。

「ひ、ひぃぃぃッッッ! んむぅぅぅっむぐぅぅっ!」

「三鈴っ! 三鈴っ……すまぬ。不甲斐無い我を許してくれ……」

お父さんが絶叫する中、先を競うように白い裸体を目指して飛び掛かっていく。
恥辱に塗れたまま次の定めを覚悟するお母さんを、数体の手足が地面に押し倒した。

女の象徴であるおっぱいを、数えきれない指で揉まれている。
乳房の柔らかいお肉が真っ赤になるまで潰されて捏ねられて、節くれだった指たちに好きなように弄ばれている。
乳首だって、引っ張られて抓られて、爪を立てられて。
お母さんの胸の上なのに、鬼たちが場所争いの小競り合いを繰り返して……

同時に、首から上だけの鬼がお母さんの唇を塞いでいる。
おぞましい顔を密着させながら、望まないのに死ぬほどイヤな筈なのに、死人の唾液を流し込んでいる。

「むぐぅぅぅっ、ひぐぅぅぅっっ! むちゅぅぅっ、ぐちゅぅぅぅっ!」

イヤァァァッッ! お母さんッ、お母さんッ、お母さんッ!!

苦しみのたうち回る裸体に、わたしはしがみ付いていた。
悪夢を見続けているからどうしようもないのに、透通る身体を肌をお母さんに重ね合わせていた。

いつのまにか、わたしも裸になっていた。
膨らみ始めたばかりのおっぱいも、生え始めたばかりのアンダーヘアーも、みんな晒して鬼たちの気を惹こうとしていた。
全然怖くなんかない。
これは夢だから、神楽は恥ずかしくもないし、あんたたち鬼なんて全然平気なんだから。

そんなわたしの目の前で、お母さんの両足がこじ開けられる。
神楽の可愛いお尻が揺れているのに、無視するようにお母さんの女の部分に鬼たちの舌が伸ばされる。
伸び放題の爪先が乾いた割れ目に突き刺さる。

「んんぐぅぅっ……い、痛いっ、いたいッ! あぐぅ……ああぁぁっっ!!」

ひどい。こんなのひどすぎるよっ。
ここはデリケートな処なのに。ここは女の人にとって一番大切な処なのに。
それなのに……それなのにお母さん、神楽のために……

わたしは泣いた。
お母さんも泣いている。

でもわたしたちの心なんて、悪魔の鬼たちは理解してくれない。
後からやって来た頭のない巨大な鬼が、太い両腕で群がる鬼たちを払い退ける。押し潰した。
そして勢いに任せて、そそり立った巨大な肉の棒をお母さんの割れ目に突き立てた。
そのままメリメリと沈み込ませていく。

「いやっ、イヤァッ!……痛いっ、あそこが……裂けるぅぅぅっ……うぐぅっ、くっ!」

お母さんが断末魔の声を上げた。
全身が震えて心の芯まで凍り付いて、わたしはお母さんにしがみ付いたまま、おぞましい肉の塊をただ呆然と見ていた。

これが男の人のおち○○ん? これが……そのセックスなの?
……違う。こんなの違うよ。
こんな化け物に犯されたらお母さん、死んじゃう。ホントに死んじゃうよっ!

お父さん助けてあげてよ。
どんなに耐えたって、お母さんがどんどん苦しめられているだけじゃない。
お父さんは……お父さんは、始祖鬼巡丸の再来といわれた輪廻の霊媒術師なんでしょ!
だったらこんな化け物、その刀で切り裂いてよっ!



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埋め尽くす肉棒























(17)
 


「どうした四巡? お主の大切な奥方が悲鳴をあげておるぞ。
助けに行かなくてよいのか? ふふっ、それとも返り討ちに会うのが怖いとでも?
悔しいよのぉ。満月でなければ、もう少しは我らに刃向かえたものを。
まあ悔しついでに、愛する妻の嬌声をお主にも聞かせてしんぜようぞ。ぐががががぁっ」

鬼がお父さんを笑った。
金魚の糞みたいにお伴の鬼たちも笑った。

それでもお父さんは耐えている。
哀しみや苦痛、あらゆる感情を消し去って、彫像みたいに立ち尽くしている。

「はあはあ、ひぃっ、ひぐぅっ……苦しい……」

そんなお父さんを挑発するのが役目のように、頭のない鬼がお母さんにひどいことをしている。
頭もないくせに、腰を密着させたまま棍棒みたいな両腕でお母さんの両足を持ち上げた。
180度に押し拡げたまま肩近くまで押し上げていく。
胸が圧迫されて、ひざ裏の腱も限界まで引っ張られて、その姿で神楽の腕みたいな肉の棒がお母さんのお腹を貫いている。

「ふぐぅぅ……くぅぅぅっ、はあ、はぁ……膣(なか)がきついぃっ」

苦しそうなお母さんの声。
閉じたまぶたがプルプル震えて、心と身体の両方から襲いかかる苦痛に必死に耐えている。

ズズッ……ズズズズッ……ズリュゥゥッ……

「あぐっ、ああぁっ……う、動かないでぇっ! きつい、きついのぉっ!」

鬼が腰を前後にゆすった。
何度も何度も突き上げては引いてを繰り返す。
いくつもの瘤に覆われた肉棒が割れ目を引き裂くように沈んでは、過敏なヒダを引き伸ばしていく。

そのたびに、手形で真っ赤に染まるおっぱいが揺れた。
お母さんの頭が左右にも上下にも振らされる。

「ぁぁああんッ、いやぁッ……ゆるしてぇ……膣がぁ裂けるぅぅ……んんんぐぅぅッ……」

「よい眺めじゃ。子を産み落とした女でも、あ奴のマラはちときついと見える。
ほら、もっと鳴いてみよ。そのマラをして歓喜の声をあげてみよ」

牛頭の鬼、阿傍の気を惹こうと、2体の腕が揺れる乳房を揉み始めた。
下から突き上げるリズムに合わせて、鬼らしくない繊細な手付き。
その指先が半円のメロンのような膨らみを刺激して、乳首を指の腹で転がしている。

じゅぶっじゅぶっ、じゅじゅじゅ……じゅぶぅぅっ……

「あひぃっ……ひぃっ! 奥に当たってぇぇ……はうぅぅぅっ、乳首いやぁっ。くぅぅッッ!」

上からも下からも刺激されて、哀しい声なのに鼻に抜けるモノが紛れ込んでくる。
ガンガン打ち込まれるたびに、恥ずかしい水の音が結合部から聞こえた。

「ぐふふふっ、さあ鳴け。涼風の巫女よぉ、獣のように快楽の声をあげるのじゃ。
四巡に浅ましい女の本能を見せつけるのじゃ。
モノども遠慮はいらん。やれい! この女に鬼の精を絞り出してもらえ」

羅刹の号令に、鬼たちが歓喜の声をあげた。
涎を垂らした肉棒の群れが、競うように襲いかかってくる。
空を飛んで、地面を這って、わたしはお母さんにしがみ付いているのに……
その空気の身体も貫かれて、無数の肉の凶器がまとわりついてくる。

「ひッ、ひうぅッ……むぅぅぐぅぅぅっっ!」

噛み締めていた唇がこじ開けられる。
張り合うように2本の棒が突き立てられる。
乳房を感じさせることに専念していた腕が投げ棄てられ、ここでも硬直した肉棒たちが、柔らかいふたつの肉を奪い合い容赦なく沈み込ませてきた。
肌という肌、隙間という隙間、挟間という狭間。
擦りつけられて勝手にしごかれて、お母さんの身体中が無数の肉棒に犯されている。
性欲の捌け口として玩具にされている。

「いいぞぉ、もっと犯れぇぃ。女の肢体を盛りの付いたマラで埋め尽くすのじゃ。
涼風の巫女を快楽漬けにするのじゃぁっ!」

じゅちゃッ、じゅちゅッ、じゅちゃッ、じゅちゅッ、じゅちゃッ……
ぐちゅぐちゅぐちゅ……むにゅむにゅむにゅむにゅぅっ……

「うくぅッッ、ぐうぅッッ! ぷはぁっ、はあはあ……むぐむぐむぅぅぅっっっ!」

お母さんは首を無理やり振って、追いすがる肉棒を引き剥がした。
その瞬間を利用して、水面に顔を出した魚のように息継ぎを繰り返している。
それでもまた、肉棒の待つ水面下へと引きずりこまれていく。
肉片のような身体の群れに覆い尽くされていく。

そうしている間も、巨大な肉棒がお母さんのあそこを責め続けた。
肉と肉がぶつかり合う音。骨と骨が軋む音。
見えないスピードでゴツゴツした腰が前後して、噴水みたいに恥ずかしいお汁が飛び散っていく。

(この女ぁ、本気で感じていやがる。ま○こ汁でぐしょぐしょじゃねえか)
(おう、俺たちのマラに掛れば未通女でもいちころよ)
(おらぁ、早く吐き出せ。次が混んでるんだぜ)

おこぼれに与れない鬼たちが、お母さんの両腕をがっちりと押さえ付けていた。
その細い手首が、気持ちいいモノに抵抗するように反り返る。
地面が抉れて爪を傷付けながらも、ブリッジする。

お母さん、もういいよ。もう我慢しないで。
でないと、死んじゃう。お母さん、ホントに死んじゃうよ。

わずかに覗くウエストがクネクネと揺れた。
折り曲げられた腰のはるか先で、つま先が宙を彷徨っている。

それが何なのか? 神楽にもわかるよ。
わたしだって女だから。それにオマセだから。
ベッドの中でこっそり自分のあそこを弄ったりするもん。
その時だって頭が真っ白になって、何も考えられなくなるもん。
ただエッチって気持だけになるもん。

「んんぶっ、ぷはぁっ、イヤぁっ、ふぅぅぅんんっ、んぐぅっ……げほっげほっ」

「ぐふふふっ、そろそろじゃ。ものどもぉっ、準備はよいなぁっ?
一斉に精を放ち、涼風の巫女を快楽の獄へと落とし、我らの人型(ひとがた)とするのじゃ」



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かすかな希望……詠唱の果てに……























(18)
 


地響きする羅刹の号令の元、お母さんを犯す憎い鬼が腰の動きを更に加速させる。
肌を埋め尽くす肉棒も自分で自分を刺激して、射精する体液で全身を満たしていく。

お母さんは意識を失っているのかな? ピクリとも反応しない。
でもこれで良かったのよ。きっと……
そして、わたしもまた傍観者のように、投げ出された肢体に群がるおぞましいモノを眺めている。耳を澄ましながら。

そんな地獄みたいな世界を、阿傍と羅刹、2体の鬼が見下ろしては牙を剥き出しにして笑った。
お供の邪鬼たちも、耳を閉じたくなる野次を浴びせては喚声を上げた。
全ての目線が待つもの。
それは抵抗を封じられた女体を覆う、禍々しい鬼たちの精液。
それが一斉放出される瞬間。

でも、誰も気付いてなんかいない。
山門奥深く、本殿外陣の開かずの扉板が音もなく開いたことに。
お父さんが……輪廻の霊媒術師が詠唱を続けていることに。
低く囁く小河のせせらぎのようなメロディーに……

じゅちゃッ、じゅちゅッ、じゅちゃッ、じゅちゅッ、じゅちゃッ……

真っ赤に腫れあがったお母さんの割れ目。
そこから引き抜かれる巨大な肉棒。
恥ずかしいお汁が大量に糸を引いて垂れ落ちて、トドメのように鬼の腰が高々と持ち上げられた。
その他の邪鬼たちも、それに倣うように自分の肉棒をパンパンに張り詰めさせる。

(いよいよじゃあ、このひと突きで涼風の巫女も我らの傀儡よ)
(そうなれば、毎晩宴じゃな。あの女を餌にして)

「やれいッ!」

邪鬼たちがザワメキ、羅刹が短く叫んだ。
仕掛け人形のように、鬼の腰が大きく沈みトドメを刺そうと肉棒を押し出した。
先端が割れ目のヒダに押し付けられ、喰い付こうとしたその時?!

「はあぁぁぁッッ! 闇夜裂光!!」

闇を突き破るようなお父さんの怒声。
頭上高く突き上げられた隠滅顕救の剣。
その刃身が力を取り戻したように眩く輝き、そして全てが光に包まれていく。飲み込まれていく。

「うぐっ、な、何? 何の光だこれは……?!」
「見えんッ! 何も見えんッ?!」

2体の鬼が初めて口にする狼狽の叫び声。
その声は瞬く間に伝染して、お供の鬼はもちろん、散々お母さんを辱めた鬼たちまでもが一斉に四散する。
闇を求めて這いずりまわっている。

「三鈴っ! 三鈴っ!」

その隙を突くように、呪縛から解き放たれたお父さんが駆けた。
そして、地面に投げ出された白い裸体を愛おしそうに抱き寄せた。

「う、ううぅっ……あぁ、あなた……あなた……私……私は……」

光の陰に浮き上がるふたりのシルエット。
愛する人の両腕の中でお母さんの瞳が薄っすらと開いていく。
同時にその目は伏せられて、血の気を失った唇が辛い言葉を伝えようと小刻みに震えた。

「それ以上言うでない、三鈴。お前が身体を張ってくれたお陰で、我はこうして生きておる。神楽もな。
ただ無念なことに天上神が送りし霊力はこれが全て。
すまぬが、ここは逃れるしかあるまい」

悔しさを滲ませたお父さんの目から、一筋の光が流れて落ちていった。
その滴が乾いた土の中に消えた頃、魔剣の輝きも急速に衰えていく。

ふたりとも急いで! 早く!

わたしは飛んだ。
飛び上り、阿傍と羅刹の前であかんべえをしてから、本殿へと走るふたりを追い掛けた。

「ぐふふふっ、何かと思えばこのような子供だまし。
時として人の子は我らの思いも付かぬことをしでかす。無駄な労力を使ってな」

再び訪れる闇夜の世界。
次第に目が慣れたのか、羅刹が拝殿から本殿へと駆け上がるふたりを難なく見つけた。

「はあはあ……あなた、本殿の扉板が開いてる?! どうして?」

「これが我と神との契約ぞ。お前の心意気に天上神が報いたのじゃ」

黒光りする七段の踏み板の上に建つ『西鎮山 封魔護持社』本殿。
今から約四百年前、戦国時代末期に神楽のご先祖様によって建てられて以来、その扉板は一度も開かれることはなかったとされている。
でもその扉が左右に開かれて、ふたりを迎え入れてくれた。

よかった。間に合ったみたい。

「はあはあ、大事ないか? 三鈴」

「ええ、あなたこそ。私のために霊力を残らず使い切って……申し訳ございません」

ふたりが駆けこんだと同時に、本殿の扉が勝手に閉まる。
窓も照明もない暗闇の世界で、お父さんが握り締める隠滅顕救の剣が、今では死んだように鈍く光るだけ。

肩で大きく息をするお父さんとお母さんの背後にあるのは、本殿の内部を間仕切る朱色に染められた壁板。
以前、おじいちゃんに聞いたことがある。

本殿に入ったところにある部屋が外陣。
ここは、天上神に会うための控えの間。
そして、朱色の壁に埋め込まれた白木の格子戸の向こう側にあるのが内陣。
御霊代と呼ばれる神様と会話する神器が祭られているって。

でも最後に、おじいちゃんが怖い顔でこう話していた。

『内陣に足を踏み入れるならば、己が命捨てる覚悟有りやと』



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涼風の御霊よ我に力を……























(19)
 


「では約束通り、まずはこの社を焼き払ってくれようぞ! ものども、準備はよいな?」

牛頭をした鬼、阿傍の揚々とした声が建物の中にまで伝わってきた。

「あなた、このままだとお社が……?」

「ふっ、心配するでない三鈴。先ほどの天上神との契約の際、この件も伝え申した」

お父さんが諭すようにお母さんに話している。
でもなぜかな? わたしにはお父さんが自分自身を諭しているように感じるんだけど。

「かかれいッ!」

(ウガァァァァッッ! グゴォォォォッッ! 燃えろ燃えろ燃えろぉッ!)

突然、地鳴りのような呻き声が建物の外から聞こえた。

阿傍の指揮でお社への一斉放火が始まったみたい。
ちょっと見てくるわね。

わたしは扉板をすり抜けるとふわりと飛んだ。
触れたって火傷しないのに、放射される炎を避けながら桧皮葺の大屋根の上まで舞い上がっていた。

バチッ……バチバチバチ……バチッ!

そんなぁ。こんなことって……?!

視界を遮る大量の火の粉とゆらゆらと揺れる大気。
本殿だけじゃない。境内も山門もわたしたちが暮らしている母屋も。
みんなみんな、炎の渦に飲み込まれている。

山門の外側では2列に並んだ100体くらいの鬼の頭が、口から紅蓮の炎を吐き出しているのが見えた。
なにか大声で喚きながら、阿傍が片手を振り上げている。

いくらお父さんが大丈夫って言っても、これじゃわたしたち焼け死んじゃう!
涼風のお社も全焼しちゃう!
早く消防車を呼ばないと……だけどなんて言えばいいのよ。
まさか、魔モノに襲われて火事ですって……多分信じてくれないよね。

「ぐぅぅっ、こしゃくなぁッ! なぜだ?! なぜ焼け落ちんッ!」

でもどうしてかな?
炎に包まれたお社を阿傍が憎々しげに見上げている。

確かに、これだけの炎を浴びせかけられているのに、涼風のお社は未だに無傷なんて……?
それに、そんなに熱くも感じない。というか全然平気かも。
これがお父さんが話してた、神様との契約ってこと? 天上神様の力なの?
だったら、どうしてわたしたちにこんな酷い試練を…… 

「阿傍よ、ちと苦戦しているようだな」

「くそぉッ。どういうわけか、燃え広がらんのだ」

「うーむ。これはおそらく結界。
封魔護持社を守らんがため四巡の奴、天井神となにやら契約を結んだのやもしれん」

「ならどうする羅刹?」

火力の落ちてきた鬼の頭を殴りつけながら、阿傍はあごに手を当てる羅刹を横目で睨んだ。

「ふふっ、ならば知れたことよ。本殿に引き篭もるあ奴らに見せてくれようぞ。
我らの業火に包まれる己が街の姿をな!」

地鳴りするような羅刹の声。そして眼下に広がる夜景を見下ろしている。

これって、お父さんとお母さんに聞かせるために?
ふたりを本殿からおびき出すために?

卑怯よっ! 鬼のくせにもっと正々堂々と戦えないのっ!
って、それどころじゃないんだ。急がないと。

「あなた、このままでは街が炎に……」

「うむ、そのようなこと言われなくても分かっておる。
しかし、我にもお前も霊力がほとんど残ってはおらぬ。
このままでは、犬死するが必定。何か手立てを……」

わたしが本殿へ戻るまでもなく、ふたりの耳にも羅刹の声は届いていたみたい。
お父さんは目を閉じたまま天井を見上げ、お母さんは思い詰めた表情で床を見つめている。

「あなた……ひとつ策がございます」

しばらく続いた静寂を破るようにお母さんが呟いた。
でもその顔色は白色を通り越して真っ青になっている。

「観鬼の手鏡を……
魔を砕くあの鏡には我ら人には扱えない霊力が蓄積されていると聞いたことがあります。
そう、始祖鬼巡丸と共にした巫女、涼風の御魂がこの中に」

「三鈴、そのことを誰から?」

「今はそれを説明している暇はございません。さあ、早く手鏡の霊力をその剣に」

「だが、そんなことをすれば三鈴。お前の命が危ういものになるやも知れんぞ」

「それでも構いません! もうすでに覚悟はできております」

お母さんが胸の前で、観鬼の手鏡を抱いた。
逃げるときになんとか拾い上げた白衣を肩に掛けただけの姿で、お父さんを見つめた。
その瞳で決断を促した。

どういうこと? 命が危ういってどういうことなの?
まさかお母さん、自分の命を賭けて……?!

イヤァァァッッ、そんなの絶対にダメェェッッ!

わたしはお母さんに抱きついた。
抱きつきながら向い合せに座るお父さんをすがるように見上げた。
『そんな恐ろしいこと、お父さんは絶対にしないよね』ってお願いしながら。

「どうした四巡ッ! 出て来ないなら仕方あるまい。街に火を放つぞぉッ!
ものどもぉッ、準備はよいなぁッ!」

そんなわたしの気持を羅刹の声が踏みにじる。
そして、お父さんがお母さんに負けないくらい顔色を青くして頷いた。
手にした剣の刃先を手鏡の中心に添えた。

「覚悟はよいな、三鈴」

「ええ、あなた……」

ダメェェッッ! しちゃダメェェッッ! イヤァッ、イヤイヤイヤイヤ……イヤァァァァッッ!!

剣が鏡の中へと吸い込まれていく。
音もなく静かにそれが当然の姿のように……

鏡から溢れる光の放射線がお母さんを照らした。
刃を突き立てるお父さんを照らした。

お母さん、優しい目をしている。優しい笑顔をしている。
お父さんの剣を受け入れながら、眼尻が垂れて緩んだ頬のまま唇を動かした。
細い声で囁いた。

「神楽、元気でね……」って。



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時は巡る……無から再び……























(20)
 


「行ってくる神楽。お母さんを頼むぞ」

澄み切ったお父さんの眼差し。
迷い・苦悩・恐怖……
あらゆる感情を捨て去った純粋な瞳が、わたしがいる方を見つめた。
違うわ。
私を……神楽を見てくれている。

お父さん?! まさかわたしのこと……?

「待ってっ! 待ってよっ!」

でも、わたしの呼び掛けに答えることはなかった。
ただ前を……一点を見据えたまま、お父さんは扉を開けた。

その途端、熱風が吹き荒れ、炎の波が獲物を探すように迫ってくる。
前衛に陣取った邪鬼の群れも、それを追い越す勢いで奇声を上げながら飛び掛ってくる。

お父さんは無言のまま、漆黒の鞘から白銀の剣を抜いた。
天を突くように切っ先を真上に向ける。
荒らぶる炎と邪鬼の大群を前にして、力みのない優美な立ち姿。
その姿が頭上で放つ太陽の輝きと同化し、闇夜が消された。
渦巻く炎の勢いまでもが削がれる。
そして静かに風が流れるかのように、白銀の輝きを真上から真下へと引いた。

「……邪鬼斬滅」

凛として厳粛なお父さんの声。
その声に呼応するように、剣から生まれた白銀の三日月が宙を駆けた。

渦巻く紅蓮の炎を蹴散らし、猛スピードで本殿に近づく鬼の大群が瞬時に消滅する。

「お父さん。ううん、春夏秋冬四巡、お母さんの分まで頼んだわよ」

鏡を手にしたままの姿で、お母さんは床に横たわっている。
その人形のように動かない身体に両手を添えて、わたしはお父さんを目で追った。

左右からも挟み撃ちするように邪鬼の群れが襲い掛ってくる。
それを振り向きざまに左、右と剣波を繰り出しては、一瞬で消滅させていく。

「羅刹よ、四巡が手にしているあの剣は?! ……うぐっ、信じられん」

「ぐぅぅぅっ、ばかな……奴は霊力を使い切っておるはず。それが何故あのような強力な霊気を携えて……わからん」

魔剣のひと振りで消される鬼の群れに、残りの鬼たちに戦慄が走る。
でもお父さんは、そんな姿を気にすることなく鬼の本隊が待ち構える山門へと歩みを進める。

「ええいッ、羅刹、考えるのは後回しだ。まずは四巡を葬る。これが先決ぞ」

「ま、待て阿傍。くッ、早まりおって……」

阿傍の部隊が炎を吐く鬼の頭を先頭に突入を掛ける。
それを追うように羅刹の部隊も後に続く。

「行けぇぃッ! 怯むなぁッ!」
(ウガガガガァッッ! グゴォォォォッッ!)

両足が宙を飛ぶ。両腕も追いかけるように飛ぶ。
男の下半身も飛んで、おぞましい肉棒の群れも続いた。
そして、その一群の中にはお母さんを弄び犯した憎い鬼の姿も。

「邪鬼斬滅……」

振り下ろす剣から発する眩い白銀の弧。
突き進む光の波が、お父さんを目掛けて炎を吐き出した鬼の頭を飲み込んでいく。
逆流し自らの炎に包まれて焼き焦がされていく。

絡み合い爆発を繰り返す渦巻く炎と光の渦。
その中で切断され粉砕される無数の鬼の肉体。

でもお父さんの目には、そんなモノ映っていない。
揺るぎない視線がぶつかる先、目前に迫る2体の鬼、阿傍と羅刹。それを取り囲む邪鬼の集団、それだけ。

(グギャァァァッッ! ウゴォォォォッッ!)

その時、背後から奇声が上がった。
炎の壁を突破した数体の肉の棒と頭のない鬼が、火だるまになりながらもお父さんを目掛けて突進をかけてきた。

「危ないっ! 後ろっ!」

思わずわたしは叫んでいた。
だけどお父さんは動じない。

踏み込む右足に紫紋入りの紫袴が鮮やかに映える。
風を起こすように上体を捻ると、白刃が真横に流れていく。

ブスッ、ジュブッ、ブスブスブスッ……

空中で整列したままスライスされる肉の棒。
それを盾に利用して瘤の浮き上がる両腕がお父さんを絞め殺そうと伸びてくる。

「お主をこの手で殺れるとは……天上神に感謝申し上げる」

シャキンッ……グスッ、ジュブゥッ!

左に向けた刃が手首の返しと共に斜め上へと切り上がる。
上がると同時に刃が下を向き、風を切り裂くように振り下ろされた。

棍棒のような肉棒が寂しく宙を舞い破裂する。
全身を筋肉の鎧で覆われた巨体が、背骨を基準に一刀両断される。

「お母さん、見て。あの憎たらしい鬼をお父さんがやっつけてくれたよ」

わたしはお母さんに話しかけていた。

「おのれぇッ、四巡覚悟ぉッ!」
「我ら刺し違えても、四百年の恨み晴らしてくれようぞぉッ!」

血走った眼で我を見失い突き進む、鬼の本隊。
大胆にもその正面にお父さんは立ち塞がっている。
白銀に輝く隠滅顕救の剣を天高く掲げたまま微動だにしない。

「涼風の御魂よ、我に力を……我に破邪の霊力を……はあぁぁぁッッ! 邪鬼斬滅っ!!」

そして、鬼の大集団を目指して大きく踏み出した。
目前に迫る阿傍・羅刹を目掛けて剣を振った。
溢れだす霊力を全て放出させた。

空を駆ける白銀の三日月。
その弧が天空を覆い更に輝きを増していく。

本殿がガタガタと揺れた。
大気が振動して大地も共鳴した。

ウグゥゥッッ! グギィィィッッ! グギャァァァッッ!

青白く光る剣波に両断され、爆風に焼かれ砕け散る鬼の肉塊。
巨大な三日月が無数の邪鬼を道連れにしながら、阿傍と羅刹の部隊を真っ二つに引き裂いていく。

「はあぁぁぁッッ! 三鈴、我に今一度の力を! 邪気鏡殺陣!!」

「お母さん?!」

光輝く剣が、天空に線を引くように右から左へと流れていく。
そのお父さんを支えるようにして立つお母さんの姿を、わたしは見た気がした。

夜空を流れる聖なる光の河。
それが大爆発を誘発しながら残る鬼の群れを全て粉砕し、消し去っていく。

「羅刹ッ、羅刹ッ。どこだぁっ? どこにおるっ? 目がぁっ、目をやられたぁっ!」

「くぅぅぅッッ! 四巡。やりおったな。だが我らは負けん。この世に憎悪の情念がある限り我らの源になろうぞ。ぐははははっ」

炎と光。立ちこめる爆風の中から、地響きのような鬼の声が聞こえた。
やがて全てが消滅し、夜空に星々の輝きだけが残されたとき、わたしは思った。

全てが無に還り、また新しい闘いが始まると……
そのときはわたし、神楽もお手伝いするからよろしくねって……



こうして5年前の哀しい出来事は幕を閉じた。

お父さんは、この涼風の社を守護し伝説の鬼の集団を壊滅させることに成功した。
でも、その犠牲はわたしたちにとって計り知れないほどの代償を伴うものだった。

春夏秋冬四巡は持てる霊力のほとんどを失った。
鬼をなぎ倒す銀色の三日月、邪鬼斬滅だって放つことができなくなっている。
でもそれ以上に大きな悲しみは、その身体を犠牲にしてくれたお母さんのこと……

「神楽様、子の方位に忌まわしい邪気の気配が」

「そう、北の方角ね。それじゃあ準備ができ次第行くわよ、守。
ああ、そうだ。お父さんは留守番をお願いね」

私は手早く白衣と緋袴に着替えると、帯紐のところに観鬼の手鏡を差し入れた。
そして詠唱する。

「不動にして不変の星よ。我に力を……我に屈せぬ御霊を……」

お母さん行ってくるわね……


  『 時は巡りて  完 』



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