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もえもえ マーメイド・ママレード  第1話



  
                                          



【第1話】



「わ~い、明日から夏休みだ~!勉強もしないといけないけど、高校最後の夏休みだし想い出になるような夏休みにしたいなあ」

もえもえは現在18歳。年が明けると大学入試センター試験が控えているが待ち受けているが、たった一度の高校生活だし夏休みを有意義に謳歌したいと思った。
あれこれと考えたあげく、もえもえは得意の水泳を活かし市内のスポーツジムでスイミングのインストラクターとしてアルバイトをすることにした。
現在高校のクラブは休部中だが、過去水泳部のエースとして活躍し国体にも選出され、全国にその名を轟かせるほどであった。
もえもえがスポーツジムに願書を持参し競技歴を告げると、しらっとしていた担当課長の態度が一変した。

「ほほう、国体で3位入賞とはすごいじゃないですか。ちょうどこちらも先日1人辞めちゃって、新しいインストラクターを探していたんですよ。渡りに舟とはまさにこのことですかね。ははははは~、インストラクターされた経験はないようですが、これほどの実績をお持ちならたぶん大丈夫でしょう」

かなり良い感触だ。
もえもえの輝かしい競技歴はもちろんのこと、小柄だがシャープに引き締まった見事なプロポーションと、『加藤あい』を彷彿させる端正な顔立ちが担当課長の心をかなり動かしたようだ。
採用は順風満帆と思われたが担当課長の表情がにわかに曇った。

「ただし1つだけ問題があるんですよ」
「え?問題……ですか?」
「実は当ジムの規則だとインストラクターは成人もしくは大学生以上はオーケーなんですが、高校生は採用できない決まりになっているんですよ」
「え!?じゃあ私はダメじゃないですか」
「まあ最後まで聞いてください。確かに規則ではそうなっているのですが、現在インストラクターが不足し緊急に必要なこと、1か月以内の短期採用であること、そして水泳が並外れてお上手であること……等々を考慮してここは私の責任であなたを特別に採用させていただきます。よろしくお願いします」
「ええっ!採用していただけるんですか!?すごく嬉しいです~!」

一瞬不採用と思い沈みかけていたもえもえであったが、担当課長の『採用』の一言を聞き思わず歓喜の声をあげてしまった。

「あ……大声を出してすみません……」
「別にいいですよ。で、早速のお願いなんですが、明日から来ていただく訳にはいかないですか?」
「え?明日からですか?」
「はい、急な話で申し訳ありませんが、何分インストラクターが足りなくて弱ってるんです。特に夜間の部のコーチが足りなくて明日のスクールがやばいんですよ。突然スクール中止というのも会員さんに申し訳なくて……」

スポーツジムが困っているならここは自分が何とかしなくては、ともえもえは思った。

「分かりました。じゃあ、明日から来ます」
「え?来てくれますか!それは助かります!」
「で、生徒さんって全く泳げない方々なんですか?」
「はい、ほとんど泳げない方々ばかりなんです。クラスは初級で夜間の部なんです。なまじっか少しだけ泳げる人を教えるより、初めての人を教える方がやりやすいと思いまして」
「ありがとうございます」
「では、早速ですが、初級のメニューをご説明しますね」

◇◇◇

もえもえが受持った夜間コースの生徒達は初級クラスで、仕事帰りのサラリーマンが多かった。
年代はまばらで20代から50代までの男性が主体であった。
今まで後輩たちの指導を行なったことはあったが、大人の指導を行なうのは初めてであった。
そのためインストラクターのアルバイトを始めた当初は不安もあったが、持ち前の明るさと人懐っこさから年上の生徒たちからの評判も良く、最近では気持ちに少し余裕が生まれていた。
週3回、火・木・土の午後8時からの2時間がもえもえの担当するスクールであった。
泳ぐことに掛けては優れた能力を持ち、水中での救急救命の基本知識を持ち合わせているもえもえだが、人を教えるとなるとそれなりの知識と経験が必要となってくる。
もえもえはインストラクターとしてはまだまだ未熟であり、常に緊張から解放されることはなかった。
スポーツジムからは、生徒たちに対して現役の高校生であることは伏せておくよう言われていたので、彼らに自己紹介をする場合は常に大学生と偽らざるを得なかった。

その日も緊張を隠せないまま、競泳用水着に着替えて生徒達が待っているプールへと向かっていった。
50メートルの室内プールは半分に仕切られ、自由に泳げるフリーコースと、もえもえが指導するレッスンコースとに分かれていた。
しかしこの時間ともなるとフリーコースに人影はなかった。

もえもえが担当するスクールの登録者は12人を数えたが、その夜は9人出席していた。

「皆さん、こんばんは~」

もえもえは既にプールサイドに集合している生徒たちに笑顔で挨拶をした。
スイミングスクールの女性コーチといえば、肩幅があり筋肉隆々としているのが一般的だが、もえもえの場合はほっそりとしていて外見からは一般女性と変わらなかった。
ただし胸は案外大きく、フィットした競泳用水着の上からだとその大きさが一目で計り知れた。
そんなスイミングコーチらしからぬ体形のもえもえであったが、ひとたび泳ぎ始めるとそのスイミングフォームは実にダイナミックなもので、あっと言う間に向い側のプールサイドまで泳ぎ切ってしまった。

「こんばんは~。今日もよろしくお願いします~」






 





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