闇色のセレナーデ 第23話 忍び寄る悪魔の足音 2015/12/06 18:00.00 カテゴリ:闇色のセレナーデ 【第23話】「ぐふふふっ、もう逃がさないぞ、千尋」千佳は、部屋の隅に追い詰められていた。だが当の彼女からは、まだ救援の合図は届かない。レイプ魔の目をした緒方の姿に、卓造は悶々としながら待ち続けた。その間にも身動きの出来ない千佳に向けて、男の両腕が襲い掛る。腰も引けない彼女の下半身に触れると、スカートのホックを外しファスナーを引いた。「嫌ぁっ、スカートを脱がさないで……ヒィィッッ! 誰か……」「諦めるんだな、千尋。これ以上逆らったりすると、ハヤシバラ文具との取引は解消させてもらうよ。そこにいる上司も困るんじゃないのかね」垂れ下がったタイトスカートのウエストを掴んだまま、緒方が牽制するように卓造の方を見る。「な、何をしているんですか? 彼女から離れなさい」「うるさい! 千尋はワシの女だ。この女のオマ○コはワシのもんだ!」とても大手企業の副社長とは思えない。緒方は血走った目でそう吠えると、ガードしようとした千佳の手を振り払い、タイトスカートを一気に引きずり下ろしていく。ヒザの辺りまで脱がされて、彼女の股間に淡い翳りが覗いた。「ヒャアァァッッ! 見ないで! 恥ずかしいアソコをみないでぇっ!」「うっひょお、可愛いマン毛じゃねえか。その奥も見させてもらうぜ」千佳の悲鳴など、豹変した緒方には聞こえていない。スリットの先端を晒したまま震える股間に、太短い指を這わせていく。「ヤメロぉっ! この変態、さっさと手を放せ!」もう我慢の限界だった。卓造は緒方に飛び掛かると、背中から羽交い絞めにする。その間に千佳が、ヒザに絡んだスカートに足を取られながらも脱出を図った。「クソぉっ! こら、何をする?! こんなことをして、ただで済むと思ってるのか?」「ああ、充分思っているさ。小嶋技研副社長の悪行は、この通り撮影させてもらったからな」ずり落ちたスカートを引き上げた千佳が、卓造のスマホを緒方に突き付けていた。縦長の液晶画面には、数分前の凌辱劇が鮮明な画像で再生されている。「お、お前達、このワシを嵌めたんだな。いったい、なんのために?」卓造が腕の力を緩めた途端、緒方はヘナヘナと床に崩れ落ちていた。ヒザをついてしゃがみ込み、恰幅の良かった肩が情けないほどすぼみ、後退した頭頂部の髪だけを強調させて項垂れている。「ふぅー、無茶をしやがって……後でお尻ペンペンだな。はははっ」「へへへ。ごめんなさい、おじさん。でも、わたしのお陰でうまくいったでしょ?」「ま、まあ……そういうことだけどな」卓造は無邪気な笑顔を見せる千佳に、仏頂面のままで天井を見上げた。ハードボイルドな男を気取って、その間に、これからのことをシュミレートしていく。この動画がある限り、副社長派は終わりだろう。千佳の父親である小嶋技研社長、小嶋啓治の社長の座も取り合えず安泰でいいのだろう。後は、この緒方をどう利用するかだった。この男を手駒にして、和也を封じ込めることができれば……(これで本当に良かったのだろうか?)そう考え始めた卓造の脳裡を、小さなわだかまりが駆け抜けていった。千佳の顔付きを見れば、一目瞭然の完全な勝利を得たのに、どうしようもない不安が脳裡だけでない。胸の中まで覆ってくるのだ。卓造は嫌なモノを振り払おうと、首を振った。危機一髪の千佳の動画に目を落としている千佳が、ぼやけるように歪んで……カチャッ……!ドアが開く音がした。「どうせ、こんなことだろうと思いましたよ。クククッ……」そこに立っていたのは和也だった。感情を消した冷たい笑い顔のまま、肩の凝りでもほぐすように頭を傾げて首筋を伸ばしている。「お、お兄ちゃんが、どうしてここに……?」「そんな……和也君、キミは確か社長と出張のはずでは……なぜ?」スマホから顔を上げた千佳は茫然とした口ぶりで呟くと、金縛りにでも会ったように全身を硬直させた。振り向いた卓造も然りである。事前に和也の予定は調査済みである。父親の社長と共に、朝一の新幹線で東京へ向かったはずである。それなのに?「急に気が変わりましてね。親父……いや、社長には申し訳ないですが、おひとりでの出張をお願いしました」「それで、引き返した後は、俺達の行動を監視していたと?」「ええ、そうです。本来の監視役だったお方が役立たずのようですからね。仕方なく僕が代わりに」和也は卓造から目を離すと、瞳だけを真横にスライドさせる。背後に控えていた男に向けて、面倒臭そうにアゴをしゃくった。「申し訳ありません。千佳様、佐伯様」肩を落とした藤波が、力のない足取りで姿を現した。まるで縄を打たれて引き立てられた罪人のように。「まったく、どういうつもりでしょうか? 恩を仇で返すとはまさにこのことですよね。千佳と同い年の妹さんが入院しているというのに……残念です」そんな藤波に対して、和也の言葉は背筋が凍るほど寒々しいものだった。そして最後に付け加えた『残念です』が、入院中だった妹の運命を悲惨な意味で暗示していた。目次へ 第24話へ