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典子の哀しい過去 その3






















(10)


3月 31日 月曜日 午前2時50分   岡本 典子



初めの頃は、私も博幸も期待したわ。
街が発展すれば、私たちの商売も売り上げが伸びると思っていたから……

ただ、途中でそれはとんでもない間違いだって気が付いたの。
私たちが愛した下町が、次々と半ば強制的に撤去されていったから。
そして、そこにそびえ立つのは、人の温もりや情を一切排した無機質なコンクリートのかたまり。

当然、私たち下町のみんなも、再開発反対運動を始めたわ。
でもね。このプロジェクトを仕切っていたのは、全国有数の金融会社で知られている、時田金融グループだったの。
おまけに、この会社の社長さんは、プロジェクトを押し進める市長と仲がいいって噂で、私たちが悔しそうに下くちびるを噛み締めている間にも、一区画一区画と順を追うように取り壊されていった。

もちろん博幸も私も、街のみんなと一緒に話し合いに参加したけど、苦戦というか一方的に話の主導権を持っていかれたわ。

再開発を請け負っていた不動産会社の担当者の人……えーっと、なんていったかな?
……確か、はやの……そう『早野』って担当者の人。

この人、話の筋が通っていて情熱的で、その上しゃべりがホントに上手で、気が付いたときには、私たちみんなもうんうんって、うなづかされていて……
あれでは、勝てないよね。
もう、完敗って感じ。

そしていよいよ、私たちが暮らしている地域の再開発計画が、決まったわ。
おそらくここ1年以内のうちに立ち退き交渉が始まるんじゃないのかしら。


そんな中、季節だけが無情にすすんで、10月も半ばが過ぎたある日……

突然博幸が遠い遠い旅に出ちゃったの。
永遠の旅路に……

私たちのお店を守ろうと寝る間も惜しんで働いて……
私たちの愛する地域を救おうと、自分の命を削りながらがんばって……

バカよ……
博幸は……バカなのよ……

そして、そんな博幸の苦しみに寄り添えなかった典子は、もっともっと大バカよ!

私は、まだまだあなたと生活したかったのに……
あなたと一緒に苦労したかったのに……

ただ、唯一救いだったのは、最後まで博幸の元にいてあげられたこと。

最後の、かすかな息遣いの中で話した……
『典子……ありがとう……僕たちのお店を……』って、最後の言葉を聞けたこと。

全ての処置を淡々とこなしたお医者様がいなくなって、私の心に大きな穴がひらいていた。
なにも考えられずに、なにも思い付かずに、ただじっと椅子に座っていた。
まるで、私の周囲だけ時間が止まっててるみたいに……

でもそんな廃人のように座り込む私を、親身になって励ましてくれた看護婦さんがいたの。
私の肩に手を乗せて、いつまでもじっと、ただひたすらじっと……
なにも話し掛けずに、哀しみを共有するように……

そして、私の周囲で時間が動き始めた頃、私の目を見て、にこって笑ったの。
丸い黒目がちの瞳に、涙をいっぱい溜めて……

今こうして私が生きているのも、あの看護婦さんのお陰だと思う。
まだ少女ようなあどけない顔をして、この世界に入って日が浅いのか、先輩看護婦さんに厳しいこと言われていたけど、私と祐一が病院を後にするまで、ずっと寄り添い見守ってくれた。

ありがとう、若いナイチンゲールさん。
榊原 茜さん……


……って、とこで私のお話はおしまいなんだけど……?!

ちょっと、あなた! こんな涙涙の悲しいお話を聞きながら、なに口をもごもごさせているのよ!

あーん、してみなさい。そう、あーんって……

んんん? あなたの口の中、あんこでいっぱいじゃない。

……もしかして?!
この棚に置いてあったあんぱん食べちゃったの?

うん……って……?!

悪いこと言わない! 今すぐ下剤を飲んでおトイレに行きなさい!
それで、上からと下からと早く出しちゃいなさい!!

あのあんぱんはね、私が博幸のをまねて作った試作品なの。
それも、一週間も前のものよ。

ひと口食べて吐きそうになって、それでも、見栄えが良かったから、まあいいかって、置いていたのに……
ほら、ネズミもゴキブリもかじっていないでしょ。

因みに聞くけど、そのあんぱん、本当においしかった?

うん……って……?!
舌がしびれて、泡を吹くほど美味だったって……?

あなた、表現の仕方、間違ってない?
いいわ。私が、今すぐ病院へ連れて行ってあげる。

それで、お腹を洗浄して、おバカなあなたの舌をひっこ抜いて、ついでにおつむの掃除もしてあげる。

こらぁ! 逃げないでよ!



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博幸とお花見 その1






















(11)


4月 6日 日曜日 午後2時   岡本 典子



河添に抱かれてから一週間が経っていた。

「博幸。あなたがいなくなって、もう半年だね。
季節がどんどん進んで、ほら、もう桜が満開。
窓を開けているから遠くに見えるでしょ? 市民公園の一面のピンクが……」

私は寝室のベッドに腰を降ろしたまま、手にした写真立てに話しかけていた。

目の前に楽しい何かがあったのかな? それとも、内心から溢れる嬉しさなのかな?
写真の中の博幸の笑顔は、キラキラと輝いていた。
迷いも戸惑いも感じない眩しいくらい純な笑顔だった。

「……この前ね、隣の地区で再開発の工事が始まったのよ。
あっという間に更地にされて、今では足場を組んだ高層マンションがずらりと並んでる。
……でもね、大丈夫よ博幸。
この地区の再開発は、まだ始まっていないし、始めさせないから。
私が……典子が、阻止してみせるから!
あなたと私の宝物の、このお店も絶対に守ってみせるから!
だから、安心して……
ふふっ……今日はそんなことより、ふたりで……お花見を楽しみましょ。
典子ねぇ、博幸を悦ばせたくて……色々と……考えたんだから……」

どうしちゃったのかな?
話しながら、どんどん顔が赤らんで、火照ってきちゃう。
途中までは、博幸の目を見て話せていたのに、話し終わる頃には、もう新婚ホヤホヤの夫婦みたいに、目を伏せているなんて……

でも、そろそろ準備しないとね。

私は、ベッド脇にあるサイドテーブルに、写真立てを置いた。
ベッドに座る私がよく見えるように、角度も調整する。

隣にスマホを立て掛けた。
レンズを私に向けて、動画撮影のアプリを立ち上げる。

やっていいのよね?
本当にしていいのよね?

ずるくて卑怯な典子の良心が、責任を回避するように問い掛けてくる。
私は答えを示すように、写真立ての博幸に負けないくらいの笑顔をつくってあげた。

「今日は、気持ちいいね。
さ、博幸、お花見……始めようか?」

ベッドの上で正座したまま、シャツのボタンを全部外した。
今日のお花見に合わせた桜色の袖から、腕を引き抜くようにして脱ぎ去った。

背中に両手を回してブラを外す。
そして、気持ちがグラつく前に片づけちゃおうと、足を崩してスカートの中に両手の指を這わせた。
ウエストのゴムを引っ張るようにして、スルスルと足の上を滑らせていく。
足首から抜き取ったショーツをブラと一緒にして、シャツの下にそっとしまう。

私は、博幸とスマホのレンズを交互に見ながら、スカート1枚の姿になっていた。
横座りでおへそを隠すように両手を前でクロスさせて……

「お、驚いた博幸?
で、でもね。こんな気持ちのいい休日……もっと楽しまないとね。
あなたも感じるでしょ?
窓から吹き込む春の風と柔らかい日差し……
そうよ、典子もそれを……す、素肌で……ありのままに感じたいの」

我ながら、笑うしかないくらいの苦しい言い訳。
でも、それでいいのよって、自分を納得させないと、博幸が、目のやり場に困っちゃうでしょ。

だから、何でもない顔して、日光浴するように胸を反らせるの。
そうして、全身が火照るのも太陽のせいにして、雲の隙間から日が差し込むのを待ち続けるの。

あとは……窓の外の景色をちょっとだけ気にして……
スマホのレンズをちょっとだけ気にして……
私は、博幸を見つめるときだけ笑顔をつくるの。

「典子、今日はねぇ。博幸が好みだったスカートを履いているのよ。
ひざが完全に露出しちゃってる、ブルーのフレアースカート。
ほら、覚えてる?
私が、ちょっと露出気味かな? って迷いながら、お店に出たときのこと……
博幸ったら、いいよ。全然大丈夫だよって言っておきながら、鼻の下をちゃっかり伸ばしていたでしょ。
私、ちゃーんと見てたんだから……
……でもね、今日は特別なの。
もっと、もっと……サービスしてあげるね」

私は両足に力を込めると、お尻をベッドに密着させたまま、ひざを立てた。
そのままひざの内側に手のひらをあてて、外側へとひらいていく。
シーツの上を足の裏が滑るように、左と右に分かれて、冷たい春の風が、スカートの中でクルクルって渦を巻いた。

やっぱり、自分から見せるのって恥ずかしい。
思わず、『お願い博幸、見ないで』って、声にならない可愛い声で何度もお願いしてた。

でも、続けないといけないの。
今日は博幸との楽しいお花見なんだから……



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博幸とお花見 その2






















(12)


4月 6日 日曜日 午後2時15分   岡本 典子



「ど、どうぉ? 典子とのお花見……た、楽しいでしょ。
お外のお花もいいけど……
ほ、ほらぁ、博幸の目の前にだって……オ・ハ・ナ……咲いてるんだからぁ」

顔を背けたくなるのを、必死で我慢した。
泣きそうになる自分を一生懸命励ました。
明るい日差しの中で、両足を恥ずかしげもなくM字にひらいて、典子の大切な処を日光浴させて……

私って、淫乱で変態だよね。
だって、お花見って言いながら、恥ずかしい扉ひらいてるんだよ。

博幸、こんなことする典子を怒っていないかな?
『僕の妻は、こんな、はしたないことしない』って……

でも……でもね、もっと弾けた典子を見て欲しいの。
もっと乱れる典子を、あなたには見て欲しいの。

だから……

「そろそろ、典子の……お、オハナにも飽きてきたでしょう?
このまま、いつまでも股の中を覗いてても……ね。
……だからぁ、こここからは……し、ショータイム。
の、典子が……か、感じちゃうところを見せて……あげる」

話せば話すほど、私の顔が赤くなって、喉もカラカラに乾いていく。
段々自分の話している言葉に怖くなってきて、信じられなくなって……

やっぱり、これ以上出来ません。
博幸の前で、はしたないオナニーなんて出来ません。

真面目な顔を作って、舌先を見せて謝れば楽なのに……
私の指は、典子を慰めようとしていた。

「私……博幸にお願いされたことがあったよね。
一度でいいから典子の……お、オナニー見てみたいって……
あの時は、恥ずかしくて断っちゃったけど……ほら、見てぇ、指が……割れ目に……ああぁぁっ……」

私はM字にひらいた太ももの上から、右手を這わせるように降ろしていった。
揃えた指先を、真っ直ぐに割れ目の溝へと沈めていく。
博幸にあそこがよく見えるように、エッチに乱れていくあそこのお肉を見つめて欲しくて……

にちゅっ……!

指先を包み込む恥ずかしいお肉が、熱くなってる?!
私、あそこを見せただけなのに感じ始めている?!

にちゅぅっ、ぬちゅぅっ、にちゅぅっ、ぬちゅぅっ……

「あくぅぅっ、やだぁ……ぴりって……でぇ、電気がぁ……んふぅぅ」

スカートの中で、丸見えの太ももがプルプルって震えた。
すがるようにスマホのレンズに視線を合わせた私は、下半身へとそれを落とした。

「はっ、はあぁ、な、生で……み、見ないと……やりにくい……よね」

左手の指が、スカートの裾をつまんだ。
太ももの真ん中で中途半端に絡まるそれを、腰の上までまくり上げた。

自分を納得させるように、自分に言い訳をするように、私は……典子は……熟した女の部分を見つめた。
勝手に割れ目のヒダをスリスリこする指先を見つめた。

にちゅにちゅ……ぬちゅぬちゅ、にちゅにちゅ……ぬちゅぬちゅ……

「か、感じちゃう……ヒダのお肉に……ゆ、指が……指が絡みつかれてぇ……くっぅぅん、はぅぅんんっ……!」

ゾクゾク、ジンジンとした疼きに、お尻も勝手に揺れてしまう。
ペタッてひっついたシーツの上で、もよおした子供のように、前、後ろって……恥ずかしい。

オナニーって、ひとりでこっそりするものなのに……
オナニーって、明るいお昼間にするものじゃないのに……

もう、止まらないの!
左手だって、ほら……!

「ああっ、ふぅぅ、ち、乳首ぃ、典子の……硬くなってるぅぅっ!」

仰け反らせた胸の上で、ふくらみを下から揺すった。
人差し指と中指が、過敏な赤い突起をコリコリって悪戯してる。

おっぱいの痛痒い刺激が、気持ちいいの。
誰かさんが乳首に歯をあてているようで、切なくなっちゃうの。

にちゅぅ、ぬちゅう……じゅちゅ、ぐちゅ……

「あんんっ、くふぅぅん……ゆ、指が……濡れてるぅ……エッチなお汁が……はぁ、溢れちゃうぅぅ」

指が前後して! デリケートなお肉が刺激されて! エッチな水音が天井まで響いて!
割れ目の縁を、ぬるりとしたモノが乗り越えるの!
お尻に垂れて、洗ったばかりのシーツを汚しちゃうの!

もう、我慢出来ないよって、突き立てていたひざがピンと伸びていく。
もっと気持ち良くしてって、柔軟体操するみたいに太ももがひらいていく。

私は、うなづく代わりにアゴを突き出して、指を2本、膣に沈めた。
膣(なか)のヌルヌルの粘膜を、指の腹でこすってあげた。

「あくぅぅっ、んふぅぅ……膣(なか)で……ゆ、ゆびが暴れてぇ……いいぃ、いいのぉっ!」

ねえ、見てる? 見えてる? 典子のあそこ。
いやらしいでしょ? はしたないくて淫らでしょ?

ふふふっ、こんなお花見、お家でしか出来ないよね。

典子、もっと感じちゃうから……しっかりと見ててよ。
目を逸らしたりしたら、当分の間、お話してあげないから。



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博幸とお花見 その3






















(13)


4月 6日 日曜日 午後2時25分   岡本 典子



じゅちゅぅ、ぐちゅぅ……じゅちゅじゅちゅ、ぐちゅぅ……じゅちゅ、ぐちゅぅ……

「あぁ、あそこが……感じるぅ、感じるのォ、はあん、ああん……もっとぉ……」

開け放たれた窓の外から、子供のはしゃぐ声が聞こえた。
それを諌める、両親? の声も聞こえる。

このベッド、窓際にあるから誰かに下から覗かれてるかも……?
お隣さんが、回覧板って言いながら、典子のエッチな声に耳を傾けているかも……?

……そんな……どうしよう……恥ずかしい!

……でも……それでも……いいかも……
気持ちいいの……私……好きだから……ね、そうだよね。典子って……そうだったよね。

「ああぁぁ、濡れてるぅ、もっとぉ濡らしてぇ、そ、そろそろ……かなぁ、そろそろ……よねぇ」

膣(なか)が気持ちいいって鳴いてる指を、そぉーっと引き抜いた。
びしょ濡れの割れ目の先端まで、導いてあげた。

今度は、ここよ。
恥ずかしい突起をいじってあげてって……
鳴かせてあげてって……

「ああっ、んくぅぅっ、く、クリトリスぅ、きついぃっ、きついのぉっ! ひあぁぁぁっ!」

全身が、バネ仕掛けの人形みたいに跳ねた。
痛くて、こそばゆくて、あそこが浮いちゃいそうで……
それなのに、挟んだ指が止まらない。止まらないの!

硬くなった肉の突起をいじるだけで、頭の中でジンジン音がした。
パチーンって弾いたら、それだけでイッちゃいそうになる。

「はあぁぅ、もう、もう……気持ちいいよぉ、典子のからだぁ、どこ触ってもぉ、きもちいいよぉ……んんっ、んんくぅぅぅっ!」

右手の指が気を良くして、お豆の皮を引き剥いた。
また全身が跳ねた。
今度は壊れたバネ人形みたいに、全身の関節をビクビク震わせて跳ねた。

気が付いたら私の身体は、ベッドの上に仰向けに転がっていた。
転がったまま、おっぱいに手を這わせて、濡れてエッチなあそこに指先を突き立てていた。

じゅちゅぅ、ぐちゅぅ……じゅちゅじゅちゅ、ぐちゅぅ……じゅちゅ、ぐちゅぅ……

「あふぅぅ、いい、いいよぉ……はぁっ、はぁぁ、もっとぉ、もっと……しよぉ」

両目を優しく閉じていた。
典子の身体がふわりと覆われて、私は見えない両手を突き出していた。

柔らかいふくらみを、捏ねるように揉まれて気持ちいいの。
乳首の弾けそうな刺激に、とっても切ないの。

クリトリス苛めないでって、言ってるのに頭に響く刺激が快感なの。
でもやっぱり、昇り詰めるときは、赤ちゃんの通り道だねって……
典子、ここが一番好きなの、安心できるの……だから……お願い。

「もぉ、もう少し……んっんんんぅ、感じるぅっ……気持ち……いいっ、ゆびを……もっとぉっ!」

身体がベッドに沈み込んでいく。
気持ちいい大波に頭を沈ませて、髪を振り乱して、それで何度も何度も振った。

私、オナニーしてるの? それともセックスしてるの?

全身を襲う快感に、腰をクネクネさせて、背中もクネクネさせて……
両足が開いたり閉じたりしてる。
閉じちゃったらエッチがしずらいのに、太ももからつま先まで一直線の棒みたいにピンって伸ばしたりして……

イッちゃいそう。気持ち良く絶頂しちゃいそう。

私、大きな声でイクから。
典子の熟したイキ顔を見せるから。

よぉーく、よぉーく、見ててね。
……心に刻んでね。

ぐじゅぐじゅぐじゅぅ……じゅちゅう、じゅちゅじゅちゅ、じゅちゅぅぅっ……

「はっ、はああ、もぉ、もっとぉ、んんん、気持ち……よくぅ……はぁ、はぁぁ、はぁぁぁぁ」

両手の指をあそこに這わせていた。
恥ずかしい毛を指に絡めながら、クリトリスを弾いて、上から押し潰していた。

熱くて蕩けそうなお肉に、爪を立てて前後にこすった。
割れ目に溢れたエッチなお汁を、全部掻き出した。
お尻の割れ目まで垂れさせた。

私、段々意識が失くなっていく。
でもね。考えなくたって、思わなくたって、指だけで典子イケるから。
最後の階段登れるから。

だから……たぶんそうだから……

指が3本、膣の奥の方まで突き刺された。
関節を折り曲げて、一番感じる粘膜を、ごしごし刺激されてる。
昔の快感を指先に移し取ろうとして、薄れる記憶を忘れたくなくて……

閉じていた瞳をひらいていた。
サイドテーブルに置いてあるふたつのものに、視線を合わせた。

笑って恥じらって、笑って恥じらって、笑って恥じらって……
交互に繰り返して、何度も繰り返して、最後に……これが最後だよって写真立てを見つめて……

子宮が揺らされるほど、指を突き入れた!
メチャクチャにかきまわした!

ぐしゅぅぅっ、ぐじゅぐじゅぐじゅぐじゅ、ぐじゅぅぅぅぅっ!

「くはぁぁぁ、くううぅぅぅ、来るぅぅっ、くるっ、くるっ、くるぅっ、きぃ、きちゃぅぅぅぅぅっっ、ふわぁぁぁぁぁっ!!!」

飛んじゃった……?!
典子、パンッて踏み切って、大空に飛んじゃった。

オナニーって、こんなに気持ち良かったかな?
セックスみたいに、気持ちいいものだったのかな?

膣が収縮して、子宮が収縮して……
全身に筋肉が限界まで収縮して爆ぜて……

私、ベッドに寝たままブリッジ仕掛かっていた。
おっぱいを……あそこを、恥ずかしく突き出して、背中を反らしていた。

見てくれた? 典子のオナニー……
女の人の自慰って、こんなに激しいのよ。こんなにエッチなのよ。
特に、愛する人の視線があるときはね。

でもね、やっぱりお花見は、お外でする方がいいかも……
お家でするお花見って、気持ちいいのにどうしようもなく哀しいから……



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伸ばした両手 届かない夢 その1






















(14)


4月 6日 日曜日 午後2時55分   岡本 典子



「はあ、はあ、はあ、はあ、うううんんっ、はぁぁ……」

私は、淫らな残り火のけだるい刺激に、身を任せていた。
激しく上下する胸の上で、乗せられた手の指がキラキラと輝いている。

「典子の指……いやらしい……」

苦しい息の合間に、息継ぎのようにつぶやいてみる。
続いて出そうになる言葉は、口にはしない。
これは、私と博幸だけの秘密の会話だから……

このまま、まどろみたい気分……

雲間から差し込む柔らかい陽を浴びながら、私はじっと天井を見続けていた。
女の匂いが漂う汚れたシーツの上で、汚れた性器を晒したまま、乱れたスカートを直すことなく寝転んでいた。

「これからどれだけ続くのかな?
こんな行為……」

天井を見ていた視線を、窓から覗く雲の塊へとずらしてみる。
この曇って……?

昔、教科書に載っていた『くじらの雲』のお話を思い出す。

そう、空の上を自由に姿を変える雲。
たとえ風任せでも、別れてはひっついて、いつかは、また一緒になっている。

「いいなぁ……典子も出来ることなら……お空に浮かぶ雲になりたいな……」

また、あなたと……

ちょうどその時、近くの工場から午後3時を知らせるサイレンが鳴り響いた。

「やだ……もうこんな時間……」

私は慌てて身体を起こすと、ベッドの上に散乱している服を身に着けた。
そして、役目を終えたように、画面が暗くなっているスマホをポケットにねじ込むと、写真立てに手を触れる。

「さあ、典子のお花見は、これでおしまい。
博幸も、いつまでもベッドばかり見てないで……
今日の夕ご飯何にするか、考えてよね。
そろそろ、お買い物に行かないといけないから。
……あっ、そうだ。
1階で店番しているあの人に、お使い頼もうかな?
なんでも、自信作のパンを売るんだって張り切っていたけど、ぼちぼちみたいだしね。
博幸も暇だったら、ちょっと見てあげたら……
それじゃ、行くね……」


「はーぁ……おいしい……」

夕食の後に番茶をすするのって、最高ねぇ。
やっぱり、日本人に生まれて良かったなぁって、このときばかりは、感動ものよね。

ねっ、あなたもそう思うでしょ?

な、なによ! 夕ご飯食べさせてあげたのに、その恨めしい目付きは……!

えっ? どうして夕食なのに、パンのフルコースなんだって……?

パンのステーキにパンの天ぷら、パンのお漬物にパンの入ったお味噌汁。
主食は、お茶碗に盛られたてんこ盛りのパン。

こ、これのどこが……ふ、不満なのよ!
ここは、パン屋さんなの! 
お店の新メニューを研究しているんだから、仕方ないでしょ!

それになんだかんだ言って、あなた完食してるじゃないのよ。
実は、おいしかったんでしょ? 典子の編み出した新メニュー♪♪

もう、首の振り方間違っているわよ。
首はね、左右じゃないの。縦に振るのよ。
あなたって、意外とそそっかしいんだから♪♪

さあ、お腹も満腹になったことだし、今夜も典子の哀しーいお話に付き合ってね♪♪
だいじょーぶ。居眠り始めたら、おでこに押しピン刺してあげるから、安心して……♪♪

ふふふっ。じゃあ、耳を澄ましてよぉーく聞くのよ。


私は、博幸を亡くした後、必死になって働いたの。
パン屋さんを開店したときから懇意にしてくれた税理士さんのところで、お昼間は事務のお仕事を……
夜には、近くの飲食店で店員のアルバイト。
ただし、いかがわしいお店ではないので、あしからず……だよ。

でもね……というより……本当のところは、そういう肌を見せるお店で働くことも考えたわ。
チラシを片手に電話を掛けようとしたことも、1度や2度ではなかったもの。

この家の購入ローンに、お店の設備投資費用。
貯金を全部はたいて、財布の中も全部空にして、その上この1年間、少しでも多く返済しようとふたりで一生懸命がんばってきた。
けれど、私ひとりでは利息を払うのが精いっぱいって有様。

親しい知り合いからは、何度も警告されたわ。

『悪いことは言わない。早くその店を処分して、典子の人生やり直しなさい。
あなたは、まだまだ若いんだから』って……

でも、そんなこと出来るわけないでしょ。
頭の隅のどこを探しても、私にはそんな考えはなかったんだから。

そうよ。『今は無理だけど、必ずお金を返して、典子自身の手でベーカリー岡本を、復活させるんだ』って……
『この街の再開発からもお店を守るんだ。』って……

ふふふっ……無謀よね。世間知らずの甘ちゃんだよね。

……でも、そんなこと言われなくてもわかってた。
わかってたけど……理解してたけど……

……ね、あなただって思うでしょ。典子の気持ち……

だから私は、周囲のみんなが呆れるのをよそに行動したの。

市役所に何度も足を運んでは、そのたびに門前払いされて……
少しでもお金を稼ごうと休日までアルバイトして……

届かない両手を必死に伸ばして……
『まだやれる。典子はまだまだ全力を出し切れていないよ』って、何度も折れそうになる自分を励まして……
99%正しい現実と戦っていた。
残り1%に掛けて……

そして、とことん疲れ切っちゃって、徹底的に絶望に打ちひしがれちゃって……
微かな希望までもが、粉雪が溶けるように消え去ろうとした時……?!

私の元に、天使の顔をした悪魔が舞い降りて来た!
昔の恋人の顔をした悪魔が……?!



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