(12) 安積さん夫婦の哀しいお別れから3週間が経過した。
あの後、わたしは淳二さんに直接会っていない。
ううんちょっと違うわね。会っていないのは彼の方。
わたしはというと、大きな旅行カバンを手にマンションを後にする淳二さんを見送ったから。
夜明け前のゴミステーションの陰から。
がんばってね、淳二さん。
きっとあなたなら、哀しい過去も克服できるよ。
だいじょうぶ。瞬間恋人の神楽が保障してあげる。
だから……だからぁ、お土産を楽しみに待っているからね♪♪
「かぐらおねえたん、またあしたでちゅう」
「まもるおにいたんも、ばいば~い」
「さようなら~また明日ね」
お母さんに手を引かれながら何度も振り返る園児に、わたしは手を振っていた。
隣では引きつらせた笑顔を見せる守も、同じように腕だけは振っている。
「守は今日も触られちゃったね。大事なトコ。
うふふふ。若~い女の子に弄られるのってどんな気分なのかな?」
「か、からかわないでくださいよ。神楽様」
山門の影に車のライトが隠れるのを見届けると、わたしは守と連れだって、静けさに包まれた園舎へと歩き始めた。
さっきまでオレンジ色だった西の空も薄墨の空に塗り変わっている。
「ところでさぁ。その神楽様って呼ぶの、なんとかならないわけ?
守が律儀なのは今に始まったことじゃないけど、誰もいないんだし……その……神楽って、呼び捨てにしてくれてもいいのに」
最後になるにつれ声のトーンが落ちていく。
それでもわたしは、つられて落ちそうになる顔を引き上げた。
並んで歩く精悍な顔立ちの人を見上げていた。
「ねえ、キス……しよ」
わたしは立ち止まっていた。
小声でこっそりとおねだりしていた。
「神楽……様。ここでですか?
……あれから3週間。そろそろお身体のほうが?」
瞬間、守の目が見開かれ、見る見るうちにその瞳に影がさしていく。
恋人がキスをねだっているのに、大切な人は喜んではいなかった。
その顔は何かに耐えるように憂いに満ちていた。
「……うん、そろそろ影響が出始めているかも。
2、3日前から肌が火照ってきて、我慢はしているけど少し辛いの。だから守、お願い。優しくキスして」
わたしは守の手を引くと、園舎の壁際に誘った。
明かりの洩れる窓からは、行ったり来たりを繰り返す人影が映り込んでいる。
「守……」「神楽……さん」
ちゅぷ……ちゅぷぅっ……
自然な形で唇どうしが触れ合っていた。
わたしの口を塞ぐようにして、少し傾けた守の唇が押し付けられている。
「んむぅ、ちゅぷちゅぷ……守ぅ」
「はあぁ、じゅぷちゅぷぅ……神楽さん……神楽ぁ」
壁に背中を預けたわたしに覆い被さる大きな身体。心が安らいで温かくしてくれる神楽の大切な人。
小さくバンザイした両手の指に、硬く引き締まった指が絡み付いてくる。
指の間を互い違いに潜り抜けて、励ますように、それでいてどうしようもない焦燥感をその指が気付かせてくれて。
涙が溢れてくる。
目が合った守の眼尻からも光るモノが流れ落ちていく。
だからわたしのほうから舌を伸ばしてあげた。
舌の上に舌を乗せて、先ッポで届く処をすべて舐めてあげた。
密着した唇の通路を利用して唾液を流し込んであげた。
負けずに守も舌を動かしてくれる。
ふたりの舌が絡み合って撫で合って刺激し合って、疑似セックスをしている。
お互いの湧き出す唾液が、愛する液となってそれを演出していく。
「はんむぅ、むちゅぅ……守、愛してるよ」
「じゅぷじゅる……神楽ぁ。もう誰にも……誰の手にも触れさせたく……んんむぅ……」
わたしは更に唇を押し付けた。
胸も下腹部も密着させた。それ以上口にしてほしくなかったから。
ごめんなさい、守。
あなたの気持ちは痛いほどわかっているつもり。
でも、今はだめなの。神楽はあなたの恋人でありながら、あなたのモノだけではないの。
わかって。ね、お願い。
おへそのあたりに触れる熱くて硬いモノに切なさが増してくる。
堪えきれないようにあそこがジュンとして、太ももをよじり合わせてしまう。
だめ、感じてきちゃう。
わたし、キスしただけで子宮が疼いて、守のモノが欲しくなってる。硬くて熱いモノが。
わたしは上目づかいに、守の背中に拡がる星空を見つめた。
堪え性のないおっぱいがいやらしく張り詰めて、尖った乳首が期待するように厚い胸板に擦り寄ろうとする。
新月の夜空に浮かぶ満天の星々。
それがグシャグシャに滲んで流れて揺れた。
う~ん。却って逆効果だったかな?
ゆるゆると下へ降りていく守の手をピシャリと叩いて実感する。
哀しそうな守の表情に神楽も哀しくなって、もっともっと泣きそうになっちゃう。
ううん、でもその前に。パンツを穿き替えないといけないかも?
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